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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅵ.オペラ座の歌姫
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6-11 下水道での攻防

 バルトロメオが何度もまばたきし、おさまったと思ったらジョエレを凝視してくる。


「お主、自分が何を言っているのか分かっておるのか?」

「分かってるに決まってるだろ」


 ジョエレは柱の陰から出た。

 仮面の機械化人間サイボーグの銃口が向けられたけれど、ジョエレは怯まず、ただ、片手を前に掲げる。


「おっと、撃ってくるなよ。仲良くするために、俺だって槍は(、、)持ってないんだ」

「見損なったぞ!」

「だってよー。このままこいつと戦っても勝つの厳しそうだし、勝てても大怪我しそうだし。俺へたれだから、そんな思いしたくないんだよな〜」


 適当に御託を並べながら機械化人間の方へ向かう。ジョエレが手ぶらだからか機械化人間は攻撃してこない。


「賢い選択だ」

「だろ?」

「おぬし裏切る気か!? それくらいならいっそ――」

「いっそお前が俺を殺すか?」


 ジョエレは振り返り、柱の陰から斬りかかって来ようとしていたバルトロメオに発砲した。銃弾はバルトロメオの鼻先スレスレを通過する。そのまま彼を追い立てるように発砲していると、バルトロメオは柱の陰に逃げ帰って行った。


「今しがたまで仲間だった人間に容赦ないな」

「あぁん? 勘違いしないでくれる? 俺、あいつと仲間だったことないから」

「しかし、教皇庁という同じ組織に属している者どうしだろう?」

「俺が教皇庁の人間とかないわー。俺あいつら嫌いなんだよ。都合のいい時だけ人を利用して、すーぐ手のひら返しやがるから」


 ペラペラ悪口を垂れ流しながら銃をしまう。機械化人間のもとに着くと仲間だとばかりに横に並んだ。それも、機関銃のある方に。

 その凶器にさり気なく視線を落とし、


「なぁんつって」


 隠し持っていた《光の剣(クラウソラス)》をジョエレは銃身に突き刺した。全力で冷気を放出して空気中の水分を凍結、弾丸の射出口を塞ぐ。


「謀ったな!」


 機械化人間が機関銃を振り回してきた。

 ジョエレは短剣を引き抜きそれを受け止める。けれど一撃が重い。刀身を支えるために両手を使ったら、がら空きになった腹に蹴りが飛んできた。

 気付いて後ろへ跳んだけれど威力を削ぎきらない。

 景気よく蹴り飛ばされ、石床の上を転がるはめになった。


「勧誘は1度だけだ。残念だよジョエレ・アイマーロ。本当に愚か者だったようだな」


 冷たい死の宣告と共に機関銃がジョエレを向く。


 次いで轟いたのは怒涛の発砲音――ではなく破裂音。

 機関銃の銃身が裂けていた。


「な?」


 機械化人間が驚いたように機関銃を見る。


「異物が詰まってるのに発砲しようなんてすると、銃身が破裂するって習っただろう?」


 咳き込みながらジョエレは笑った。

 既に柱の陰から走り出していたバルトロメオに振り向き叫ぶ。


「バルトロメオ、斬れっ!」

「むんっ!」


 気合い一線。

 横薙ぎの一撃の前に機関銃が差し込まれたけれど、その程度《魔王の懐刀(へしきり)》は容易く切り裂く。刃の勢いは一切削がれず機械化人間の首筋へ迫り、切断した。

 目から光を失った頭部が落ち、続いて、身体も重い音を立て崩れ落ちる。


 バルトロメオはしばらく警戒するように太刀を構えていたけれど、やがて納刀した。そうして、ジョエレのもとへ歩いてきて手を差し出してくる。


「冷や冷やさせるな。本気で裏切る気かと心配したぞ」

「上手いもんだっただろ? 俺の演技」

「にしては教皇庁への文句がスラスラ出てきすぎだったように感じたのだが。あれ本当に演技か?」

「演技演技。いやー、俺ってば役者すぎ。主演男優賞間違いなしだな」


 1人で立ち上がろうとしてジョエレは腹を押さえた。

 蹴られたダメージが思いの外大きく、すぐに動くのは嫌だと身体が全力で訴えてきている。

 腕時計を見てみると時間は22時30分。ゲームが始まってちょうど1時間だ。


「10分休憩だ。お前も休んどけよ。まだ《悪魔イル・ディアヴォロ》もいるしな」


 少しでも回復が早まるよう、開き直って地べたに寝転んだ。巨大蟻は舞台へ進行するのに夢中なようでこちらには来ていない。もし来ても、バルトロメオがどうにかしてくれると楽天的に考える。


 残り時間は半分だし急ぎたいところだが、こういう時こそきちんと休んだ方が良い。

 疲れは能力を低下させる。

 このまま休まずに進むより、休憩して急いだ方が効率は良いだろう。

 それが分かっているからか、バルトロメオも異議は唱えない。


「そういえば、それがし絆創膏を持っているのであった。使うか?」


 腰のポーチを漁り、大きめの絆創膏を出してくる。


「あー。使う。てか、お前こんなの携帯してたんだ?」


 そんなタイプには見えないと思いながらジョエレは身を起こし、絆創膏を受け取った。


「以前、某が手傷を負っていた時、お主の連れが絆創膏をくれただろう? あれが中々に役立ってな。それ以来携帯するようにしている」

「そんな事あったっけか?」


 言われても全く思い出せないあたり、流れで適当にとった行動だったのだろう。ネクタイを解きチーフをどけ、1度ジャケットとベストとシャツも脱いで絆創膏を貼り付ける。

 ついでに身体を確認してみると、蹴られた所以外にもあちらこちら色が悪くなっていた。地下通路から落ちた時の打ち身がほとんどだろうが、痛いはずだ。


「あの機械化人間サイボーグ、とっさに斬ってしまったが、壊さずにおいた方が良かったのだろうか」


 バルトロメオが機械化人間の残骸を見下ろした。


「いいんじゃね? 綺麗に斬ってるからデータを集積している部位は無事だろうし。全部終わったら回収して解析してやれば、何か情報を拾えるだろうさ」


 服を着直し、用無しになったタイとチーフはポケットに突っ込む。そうして再び寝転がった。




 きっちり10分休憩し、ジョエレは身体の痛みを無視して立ち上がった。

 機械化人間の残骸の傍でしゃがみマスクを外す。


(どこまでも普通の顔してんな)


 そんな感想を抱きつつ、マスクを持ったまま巨大蟻達の進んでいた方向に歩き出した。


「その仮面、どうするつもりだ?」


 横を歩きながらバルトロメオが尋ねてくる。

 ジョエレは苦笑し、マスクを軽く顔に被せた。


「どうにも忘れられてるようだけど、俺、一般人だから。お前達みたいに大々的に人前で顔とか晒したくないわけよ。だから、舞台に上がる時用にな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジェエレとバルトロメオ、意外と相性が良い気がしてきました。 バルトロメオの堅物感が敵を欺くのに一役買っていますし、それでいて割と柔軟ですね。 流石、初登場時に死亡フラグを回避した男、伊達…
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