5-16 開戦の兆し
倉庫で勝った後もレオナルドは集落を回らされ、聖遺物のある部屋で戦闘を余儀なくされた。進むごとにゴロツキの人数は増え、相手した人数は10人を超える。
(さすがに6人同時は無理があり過ぎたな)
切れた唇から流れる血を手の甲で拭った。
教理省で行っている戦闘訓練でも対複数の模擬戦は組み込んでいるが、精々が4人までだ。それまでのダメージや疲労の蓄積もあって、最後は非常に手を焼いた。
長引いた分だけ負傷も増え、身体中が鈍く痛む。
(私には武術しかなかったから訓練に励んだだけだが、役に立つものだな)
いくら頑張っても、勉学ではベリザリオ、それどころかエルメーテにすら及ばなかった。ならばと、少しでも芽のありそうな武術の訓練に励んだ。
結果としては正解で、強い者が正義的土壌を持つ教理省で地盤を固める役に立った。
今も、こうして3つの武器を取り戻すまではできている。
けれど、一番危険な槍が無い。
ゴロツキ達の道案内も太刀を最後に途絶えた。
(まぁ、《穿てし魔槍》はさすがにジュダが持っているか。しかし、なぜ《魔王の懐刀》まである?)
強引にベルトに差している太刀に触れる。
(バルトロメオも私と共に眠らされて奪われたか?)
その上でこの地に囚われているのか、もしくは殺されたか。情報が皆無なために、彼がどうしているのか全く分からない。
しぶとい男なので、死んではいないだろうが。
ほどなくしてチヴィタの端まで来た。崖から落ちぬよう、外壁に手を付けながら下界を見下ろす。
(今にも開戦しそうだな)
教会軍と暴徒達が荒野を挟んで動きだしていた。
人数はほぼ同じ。
幸いまだ開戦していない。けれど、互いにもっと接近すれば銃弾が飛び交いそうな雰囲気をしている。
(私に集落を回らせたのは時間稼ぎの意味もあったか?)
とも思うが、たんに嫌がらせなような気がしなくもない。
(何にせよ、私が戻るまで早まってくれるなよ。参事官)
《不滅の刃》さえあれば《穿てし魔槍》に対抗できる。そうすれば勝機も見えるだろう。
重い身体を引きずり、レオナルドはチヴィタを降りる道を探した。




