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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅱ.ヴァチカンの笛吹き男
22/183

2-12 貧民街での遭遇 中編

 ◆


 発砲音が聞こえた気がするけれど、無視してルチアは駆ける。

 だいたいが、ここは暴力の巣窟貧民街だ。銃による殺傷事件だってしょっちゅう起きている。銃声がしても特に不思議ではない。


 建物と建物の隙間に入り込むといい感じに狭い小路に出た。足元にはゴミが散乱していて、走りにくさも抜群だ。何より、光が届いていなくて視界が悪いのが素晴らしい。


 走りながらルチアは手を振った。そうして、たまに壁に手を付きつつ進む。

 それを続けていると後方から叫び声が聞こえてきた。数分声は響いていたけれど、やがて聞こえなくなる。


 静かになった路を彼女は引き返した。

 しばらく戻ると路地を塞ぐように司祭達が立っている。ただし、何かに吊られているような歪な格好で、だが。

 先頭の神父が顔だけを動かしルチアを睨んだ。


「貴様、何を……」

「口調変わってるわよ。親切な神父の仮面はどうしたの?」


 ルチアは彼に近付き司祭服カソックの裾をめくる。先程はちらっとしか見えなかったが、裏地はやはり青だ。わざわざ確認せずとも他の3人も同じだろう。


「あんた達、誰に言われてあたしを追ってきたの?」


 返答は期待できなかっものの、とりあえず聞いてみた。けれど、案の定、誰1人として答えてくれない。

 仕方なしにルチアは女司祭の1人を指さした。すると、指された彼女は眉間から血を吹き下を向く。


「な!? ちょっと、どうしたの!? ねぇっ!」


 隣にいる女司祭が叫びながら変な動きをした。俯いている彼女に近寄ろうとしているのだろうが、距離は縮まらない。それどころか、糸を巻かれた肉のような見た目になってきている。

 自らを締め付けるそれに、血が流れ滴っていることに気付いていないのだろうか。


「あんまり動くと糸が絡まるだけよ?」


 なんとなく忠告してやる。けれど、女司祭から睨まれた。


「あなたがこれをやっているというのなら、今すぐ我らを解放しなさい!」


 高圧的に言われようとも聞いてやる義理はない。無視してルチアは先頭の神父に顔を向ける。


「で、誰の命令で動いてるの? さっさと答えないと、お仲間がどんどん減っていくわよ」

「……」


 彼は答えない。周囲も同様だ。

 ルチアは腕を動かす。今度指さしたのは2人目の神父。

 彼も女司祭と同じく眉間から血を吹いて項垂れた。


「答えは?」


 残った神父は歯を食いしばり、その後ろで女司祭が発狂したように騒いでいる。あまりのうるささにルチアは彼女も指さした。途端に周囲が静かになる。


「もうあんたしかいないけど、どうする?」


 1人残された神父に視線を向けた。

 彼は動かせもしない身体をひねろうとしたようだけれど、ハムの状態に近付くだけだ。

 他の3人の前例でそのことは学んでいたのか、神父はすぐに無駄な足掻きを止めた。そして、達観した表情で口を動かす。

 次の瞬間には何も言わずに俯いた。


 ルチアはしゃがんでそんな彼を見上げる。


「毒を飲んじゃったか。成果無しね」


 すでに事切れているように見えるが、一応のために彼の眉間にも"糸"を刺した。


 追手達を翻弄していたものの正体は糸。それも、ルチアの体内で合成した特別製だ。使うアミノ酸の種類を組み換えれば様々なタンパク質を合成でき、強度や粘度も自由自在。

 そんな物を指先の小さな穴から出せる。


 もっとも、そんなことが出来るというのはルチアだけの秘密だ。両親を始め、ジョエレ達にだって教えていない。

 こんなわけの分からない特異体質がばれて、白い目で見られるのは御免だから。


 ルチアが見ている前で司祭服の4人が地面に崩れ落ちた。

 すぐに分解してなくなる糸を使ったので、拘束が解けたのだろう。


(あーあ。スパイスさっき投げ付けちゃったから、また買いに行かなきゃ)


 物言わぬ亡骸を跨ぎ、彼女は店への道を戻った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 口に出さない信頼感系っていいですよね! [一言] 八刀皿さんの活動報告で知り、徐々に読み進めています。 レベルの高い安定感があって、面白いですね~。
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