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JACKET フリーワンライ企画

黄金と覚醒

第150回フリーワンライ企画参加作品です。


お題

打ち上げ花火の灯の下で

深海に沈む

向日葵の咲く丘

君は笑い、僕は○○

階段から転げ落ちて

全て使用


制限時間を10分オーバーでした。

 太陽を遠くひとけの届かぬ領域、地殻の懐、世界の最深部とされる海峡へと奪われ、世界は闇に包まれ久しかった。

 24時間体制、肌をじりじり焼きつける熱と、頭蓋を執拗につんざきながら鼓膜の痺れすら容赦することなく止まらぬ爆音に晒され続ける、ブラック企業と世界からの揶揄を失ういとまのない花火師たる職業を、君は気高い誇りと共に失わせることはなくて。

 極彩色の明滅水面に染ませてチカチカと、病的な怪しいほどの色彩美で輝いた。

 世界の灯を絶やさぬための措置。都市部は隈なく打ち上げ花火の灯の下でひっそりと、盛衰の満ち引きで呼吸した。


「この日が来たな」

 君は笑い、僕は虚ろだった。


 様々な色を写しながらも、わずかに太陽のしずくを漏らしている海。色濃い光を失って闇へ戻る一瞬に、強烈な生命力の脈動を海流の複雑な縞に変えてどよめかせる。サンイエローの睥睨。

 まるで向日葵の咲く丘のようだ、神秘的な海原にそう感じるのだった。

 砂金の海だった、僕は深海に沈むのだ。それは君が誇らかに絶え間なく打ち上げる使命感とはほど遠い、諦め、という逆説的な勇気にほかならなかった。


「君が太陽に届いた時、世界は君の色へと染められるだろう。羨ましいことこの上ないが、僕は僕の為すべきルーティンが待っているからね、僕の想いもくるめて君は君の天命を叶えてくれよな」

 君の声に振り向きざま君はそう云い、苦笑をにこやかな笑みと苦々しく引きつらせては行き先へ視線を戻しもう振り返らなかった。

 君の想い、か。

 

 太陽の海はまるで怪物のような闇の気配を巨大に含ませて、ゆたゆたと黄金の液と揺らめいていた。


 ぼーん。


 木霊する空気を全身に浴びるのが知覚される、直後、紅が眼球を焦がした。

 ぷくん。潮の轟き。耳を澄ましたら、さらさら、砂の音……

 冷静な心地ならこれは夢幻的な美しい情景と知覚して耽溺するほどの神々しさに包まれるだろうか。否、やはり、それも狂気の視野にほかならないだろう。

 僕は、そのどちらでもなく、傍観、たる意気地のない視線をそこに向けるのだ。奥深くずっしり満ちているであろう驚異の、黄金の気配、海。

 すでに諦めは僕の判断を占領し、覚悟は僕に踏み込ませていた、頭上から、未知へ……運命はこれなのだ、これが僕であり僕の生まれた理由だった、階段から転げ落ちて、僕はもう僕ではない僕に引きずられ転落しているのだ。


 水面を破った! まるで金色こんじきに発光する粒ほどの蠢く羽虫たちの、無数の、群れ……

 肉体は朽ちていた、肉に放たれた視力は金色こんじきから蒸散せされ、消えていた。

 ただ、精神だけ、魂の片鱗乗せて突っ切っていくばかりだった。

 肉体はきっと、怪物の臓腑のようなたぷたぷただただ不気味な舞踏を続けるばかりの、世界からの色、の便りだけがたったひとつのひとけ、であるこの世ならぬ海面、最も浅層の辺りに臓物ひとしく空しく浮んでいることだろう。

 結果、僕の魂は、新たな速度を得た。凄まじいスピードが魂へ抵抗する。魂の鼓膜、スピードの暴風を直撃し、すでに聴力は破壊され久しかった。

 五官は五感へと変貌し、感覚さえ直ぐ様失われ奪われてしまって、死の引力、魂さえ剥奪するばかりで、意識は、真直ぐな意志、という宇宙最高速の落下へと様変わりしていた。


 ストーーーーーーーーーーーン…………


 目眩めくるめく映像の連続と遮断、断続から高速は超速へ…………


 黄金であるはずの海、世界は、懐は、闇の視力以外に受け容れるおおらかさを持ってはいず、ただ、ただ、僕は真っ逆さま、闇の、掠奪という巨大な引力に導かれて……無惨に引き千切られ…………


 視えた。

 永遠。投身の真っ逆さま、永久落下の空しい運命はふいに、僕へと覚醒をもたらして。

 

 永久の落下は……無限の飛翔…………


 走馬灯を泳ぎ、泳いだ先、永遠を視たその時、この上ない衝撃にぶつかって、世界は金色こんじきに攪乱した。

 世界の懐へ届いたのだ。太陽。意志の超速船に乗せられた僕、この世の、かつての王が堰き止めるばかりで、天命とは、このことだったか、刹那君を思い出した、すべて、失い、突っ切った矢先に見た情景、君の言葉のたった一行という、途轍もなく日常的な風情で。


 遠い木霊がうっすらと鼓膜に届いて、きらきらと極彩色が星屑のように散る様を視た。

150回記念でしたが、これまでボクが参戦したワンライの集大成的な作品になったかなと思います。

よかったですね笑

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