ラドの街
グラリアとフランが女王の間にいた。女王に報告をする。
「エリシア様、城の防衛に成功いたしました」グラリアが告げた。
「そうか、よくやった。戦力を集めた甲斐があったというものだな」
女王は淡々と言った。
フランの心境は複雑だった。
そろそろ、誰か気がつくだろう。
すぐに報告が入ってくるに違いない。
「女王様、報告です!至急の知らせです!」兵士が大声で叫んでいる。
「何事だ。騒がしいぞ」エリシアは不機嫌そうだ。
「地下牢に、姫がいません!見張りの兵も倒されております!」
兵士が報告をした。
「なんだと?」エリシアの顔つきが険しくなる。
グラリアは舌打ちした。そういうことか。
そういえば、レスティの姿を見なかった。
レスティが城に侵入した可能性は十分にある。
妙に慎重だったのは、これが狙いだったのか。
甘かった。
「敵に見事に騙されたというわけか。見抜けなかったのか?」エリシアがグラリアを見た。
「は、はい。申し訳ありません」グラリアは必死に言い訳を考えている。
「私の考えが至らなかったせいです。どんな処罰もお受けいたします」フランが言った。
「そ、そうだ。私は前線での指揮に忙しかった。
状況を判断してフラン将軍なら気づくことができたはず」グラリアがフランを責める。
「では、前線で活躍したのはお前の部隊だということか?」女王が問いただす。
「それは」グラリアは言葉に詰まる。活躍していたのはフランの部隊だ。
「情けないぞグラリア。つまらぬ言い訳などするな。フランの方がよほど潔い」
エリシアが冷たい目でグラリアを見た。
グラリアは思った。
情けないだと?
形だけの女王め。
黙って従っていれば、調子に乗りおって。
お前の下で必ず力をつけ、帝国を手中に入れてやる。
「申し訳ありません」グラリアが謝った。
「フランに責任があるのも事実だ。クレリアは処刑出来なくなった。
次の手を打つ必要がある」エリシアはグラリアから興味を無くしたように、フランの方を見た。
「次の手が、決まっているのですか?」フランが訊ねた。
「クレリアを見せしめに使えないのなら、別の手段を使えば良い。
北にあるラドの街。あそこの兵達は、街の者と深く繋がっており、
招集になかなか応じなかったそうだな。平和派の住人も隠れていると聞いた」エリシアが語る。
「そうですが、どうなさるおつもりでしょうか」フランがさらに訊ねた。
「ラドの街の者を皆殺しにせよ。平和派などという甘い考えを持てばどうなるか、
わからせるのだ。これはフランに命じる」エリシアが突然の命令をした。
「な、しかし、それは」フランは動揺している。
「エリシア様への忠誠を誓っているフラン将軍なら当然出来るのだろうな。
城の守りは私がやろう。皆殺しにしてくるといい、早急にな」グラリアが笑みを見せた。
「一応、私も後で見に行きましょう。命令違反をしないとも限らないのでね」
グラリアが調子を取り戻したように話す。
ここから北にあるラドの街。
フランの管轄の砦が北にあり、フランがよく世話になった街だ。
「フラン、返事をしろ」エリシアの厳しい声が飛んだ。
「わかり、ました」フランは弱々しい声で答える。
「各地の戦力を集めれば、陽動作戦とはいえ、レスティ達に遅れは取りませんでした。
さらに戦力が結集すれば、レスティ達に勝つことも可能です。
こちらから出ていくことも出来ますが、まずは防衛が第一でしょう」
グラリアが提案した。
「街の者を皆殺しにする時間も必要でしょうしね」笑みを浮かびながら続ける。
「グラリアは城の守備。フランは命令を遂行せよ。フランが帰ってきたら、
グラリアには成果を街に見に行ってもらう」エリシアが今後の指示を出した。
「行け!もう失敗は許さない。私への忠誠心を見せてみろ」
エリシアの号令と共に、グラリアとフランが女王の間から出ていった。