撤退
レスティがクレリアと階段を上る。
上った先にも兵士の姿はない。
「こっちだ。脱出する」レスティが先行した。
一番隠れた入り口から外に出て、辺りを確認する。
敵の姿は見えない。
戦いの音が聞こえるだけだ。
「まだ、持ちこたえてくれているみたいだな。急ごう、クレリア」
レスティ達は戦いから少し離れた道を通り、合流に向けて急いだ。
エイル達は持ちこたえていた。
攻め切る必要はないのだ。時間さえ稼げればいい。
だが、適度には攻めないと気づかれる恐れがある。
前進と後退を繰り返し戦っていたが、ここに来て戦況が変わってきた。
敵の白い甲冑の部隊が異常に強い。フラン将軍の部隊。
「もう少し後退するぞ!手ごわい部隊がいる!白い兵士に気を付けろ!」
エイルが指示を出した。
じりじりと押されていく。
レスティ、まだか?
レスティが戻ってくるまでは戦闘を終えるわけにはいかない。
しかし、レスティ無しであの白い甲冑の部隊と戦い続けるのは危険だ。
早く戻ってきてくれるのを待つ。それしかなかった。
「セフィラ!」レスティがクレリアを連れて、後方のセフィラの元に戻ってきた。
「姫を救出出来たのですね、レスティ!急いで連絡を出します!」セフィラが安堵した。
魔法を空に向けて放つ。
エイル達がそれに気がついた。
「撤退だ!よくやった!撤退するぞ!」エイルが号令をかけた。
後方の兵士達から撤退していく。
その時に、敵側ではフランが部隊に戻ろうとしていた。
「今戻った!すまない、戦況はどうなっている?」フランが白い甲冑の部隊に合流した。
「敵に無理やり突破しようとする意図が見えません。不利な状況でもないです。
問題なく守りきれています。撤退していくようですね」兵士がフランに告げた。
「そうか」フランは頷いた。
エイル達も撤退していく。
グラリアはどうするか考えたが、有利に戦えたのはフランの部隊の力だ。
下手にグラリアの部隊で追撃するよりは、守りきれたことを女王に報告すべきだ。そう考えた。
「追撃はするな!尻尾を巻いて逃げ出す連中など構わぬ!」グラリアが号令を出した。
逃げ出すエイル達を目で追う敵の兵士達。
「グラリアの指示だ。我々も追撃はしない」フランも命令を出す。
やがて、すべての兵士が撤退していった。
激しい城下での戦いが終わった。
「レスティ、成功したんだな!」エイルがレスティとクレリアを見つけて声をかける。
「ああ、クレリアが無事でいてくれてよかった。皆にも、迷惑をかけたな。
皆のおかげだ。感謝している」レスティは安堵している。
「構わんさ。無謀な戦いではなかったんだ。作戦が成功して、一安心だな。
王女様、俺はエイルといいます。よろしく頼みます」エイルが笑顔をクレリアに向けた。
「え、ええ、よろしくお願いします。クレリアで構いません」クレリアはまだ少し動揺している。
いったいどういう状況なのか。
「じゃあ遠慮なく呼び捨てにするか。
クレリア、あなたを救出するための陽動作戦を行ったんだ。
レスティの部隊と、それにヘインセルの部隊もいる。平和派の戦力もだ。
上のやり方が許せなくなったレスティが、強硬派に反旗を翻したんだ」
エイルが説明した。
やはりレスティは味方についてくれたのだ。
それに、平和派のみんなも戦ってくれていた。それに加えてヘインセルの部隊まで。
クレリアは込み上げてくるものがあった。
戦ってきたことは無駄ではなかった。
しかし、泣いている場合ではない。詳しい状況をもっと聞かなければならない。
私は平和派のリーダーなのだ。
「説明、ありがとうございます。もっと詳しい話を聞かせてください。
ヘインセルの方とも、話がしたいです。皆さんに、感謝します」クレリアが説明を求めた。
「ああ。だがまずは砦まで戻ろう。戻りながら話す。カンタール砦まで」レスティが提案する。
カンタール砦は強硬派が制圧していたはず。占領に成功したのか。
クレリアは驚いていた。
「クレリアを奪還された事に、すぐ気がつくだろうな。そうなったらどう出てくるか。
まず砦に戻って体制を立て直すべきだな。賛成だ」エイルが頷いた。
クレリアを奪還したレスティ達は砦に向かい始めた。