王女の処刑
カンタール砦を落としたレスティ達。
その知らせは、伝達兵によってイシュカル城に伝えられていた。
「女王様、報告です!」兵士が叫ぶ。女王の間の前。
「入れ。何があった」女王が中に入るように告げた。
「ガルム将軍が敗れました。カンタール砦が、陥落しました」兵士が落ち込んだ声で言った。
そこにはグラリアとフランもいた。二人とも驚いている。
「馬鹿な、この短期間でだと。速すぎる、どういうことだ」グラリアが舌打ちした。
女王は考え込んでいる。
「ヘインセルです」フランが話し始めた。
「ヘインセルの戦力がレスティの部隊に味方している。そう考えるほかありません。
平和派とレスティの部隊の戦力を合わせても、こう簡単には突破出来ないはずです」
フランが考えを語る。
「ヘインセルか」女王が舌打ちする。「忌々しいやつらめ」
「女王様、どうされますか?我々はもしかしすると、不利かもしれません。
イシュカル城まで、突破されかないかと」グラリアが真剣に語った。
「各地の兵達を城に集めよ。そして、クレリアの処刑をイシュカル城下にて行う事も、
伝達するのだ。1週間後だ。1週間後に殺す。平和派がつけあがる前にだ」
女王が命令した。
「確かに、各地の戦力を集めれば遅れは取らないでしょう。
わかりました、そのようにいたします。しかし、その前にレスティ達が来てしまう可能性があります」
グラリアは不安げだ。
「カンタール砦の戦いで、流石に疲弊しているだろう。
兵達を集めるのは間に合うはずだ。城の守りを万全にし、クレリアは奪わせない。
そして、クレリアを処刑し、それでもなお抵抗するようなら、我々も最後の戦いに出るしかないな」
女王が最後の戦いと告げる。総力戦か。
「グラリア、フラン。お前たちは絶対に突破されてはならぬ。城を死守するのだ。
出来るな?」女王が訊いた。
「はい、必ずや守り抜いて見せましょう」フランがすぐに答える。
「もちろんです」グラリアがやや遅れて答える。
グラリアは考えていた。逃げることも視野に入れておかなければならないな、と。
「すぐに伝令兵を各地に出せ。時間が無い。城へ兵を招集せよ」
女王が命令を下した。
カンタール砦を落としたレスティ達は、勝利したがかなり疲弊していた。
「兵を休ませないとダメだな。拠点はどうする?」エイルがレスティに訊いた。
「クアトル砦に伝令兵を出す。主な拠点はこれから、カンタール砦にする。
この砦を中心に戦う。まずは、兵達に休息を取らせよう。俺たちも休まなければならない」
レスティが告げた。
部隊は休息を取ることになった。
レスティ達も休みを取ることにした。短い間だったが、色々な事があった。
この国のために正しい道を歩めているのか。
レスティは眠りについた。
「レスティ将軍!」兵士の声が聞こえる。レスティは目を覚ました。
「すまない、眠っていた。どうした?」レスティが返事をした。
「イシュカル城から伝令兵が来ました。王女を一週間後に処刑すると」
レスティが飛び起きた。もう、処刑するつもりなのか。
砦の平和派はざわついている。
もう少し猶予があると思っていたが、カンタール砦を落とされて女王も焦っているのか。
いずれにせよ、対策を打たなければならない。
王女がこのままでは死んでしまう。
「聞いたか、レスティ?このままじゃ王女が死んじまうぞ」エイルが部屋に入ってきた。
「わかっている。対策を考えなければならないな」レスティは早くも考え込んでいる。
おそらくは各地の戦力を城に集中させているはずだ。
イシュカル全土の戦力が城にいるとなると、今の戦力でも勝てるかどうかはわからない。
グラリアはともかく、フランもいる。白い甲冑のあの部隊。
総力戦を仕掛けるか。
もしくは、もう一つだけ作戦があった。
総力戦を仕掛けると見せかけて、その隙に城に侵入し、
王女を救い出すという作戦だ。
そして王女を救い出し次第、撤退し体制を立て直す。
「エイルよ。総力戦と、陽動作戦、どちらかいいと思う?」レスティがエイルに意見を求めた。
「今の戦力じゃ勝てるかどうかわからない。現状の戦力での戦いの様子を見るためにも、
陽動作戦がいいと思うがな。隙をついて城に忍び込もうってんだろ。
だが、単騎で行動出来て、城の内部に詳しく、いざとなった時は突破出来るほど強く、
出来れば王女と面識のある人物。そんな奴は一人しかいないぞ」
エイルが意見した。該当者。レスティしかいない。
「俺が忍び込む役か」レスティは考える。
「部隊の指揮は俺に任せとけ。セフィラもいる。お前は牢屋まですぐに侵入して、
王女を連れて帰ってくればいい。敵は戦力を総動員してくるはずだ」
エイルが部隊の指揮を買って出た。
「それしかないか」レスティが意見を受け入れた。
「だが、無理はしないでくれ。あくまで陽動作戦だ。慎重に攻めようとしているように、
見せかけるんだ」
「わかってるさ。無茶はしない。適度に攻めるさ」エイルは飄々と語る。
「部隊の者たちにこの作戦を伝えよう。王女が処刑されると聞き、
みんな動揺しているはずだ。希望の芽を絶やしてはならない」
レスティが語った。次に目指すのはイシュカル城下ということになる。
王女が処刑されるまで、あと一週間。迅速に行動しなければならない。
レスティ達は部下達に作戦を伝えに行った。
部下達は皆賛成した。王女を救い出せる道があるのなら、それに賭けるしかない。
「準備が出来次第、イシュカル城に出発する。ヘインセルとの連携を取るため、
平和の砦も落としたかったが、その時間は無さそうだ」レスティが語った。
カンタール砦から出撃の準備をする。
目指すは、イシュカル城。
ついに城まで攻め入る時が来たのだ。陽動作戦だが。
兵士たちも緊張した面持ちだった。
「イシュカル城には入り口がいくつかある。その中の一つから、俺が潜入する。
皆は時間を稼いでくれ。無理をする必要はない。捨て身の攻撃など仕掛けないようにな」
レスティが注意を呼び掛けた。
やがて、出陣の準備が整った。
城まで攻め入る時が来た。
部隊に出発の号令を出すレスティ。
王女奪還作戦の、始まり。
グラリアとフランは城で守りの布陣を引いていた。
紫のグラリアの部隊と、白のフランの部隊。
共に前線。グラリアとフランの二人で守り切る。
「伝令兵がカンタール砦へも辿り着いているはずだな。
レスティ達は急いで王女を救出しにくるだろう」グラリアが予想した。
「そうだろうな。王女の救出は平和派にとっては一大事だ」フランも同意した。
「守り切れると思うか?」グラリアが訊ねた。
「各地の戦力も集結している。衝突してみないとなんとも言えないが、
我々は女王のために負けるわけにはいかない」フランが覚悟の表情で答える。
こいつはまだ女王に忠誠を誓っているのか。グラリアは心の中で馬鹿にした。
「恐らくもうすぐレスティ達が来る。グラリア将軍、準備はいいか」フランが訊ねた。
「完了している。集結した兵達への指揮は私の役目だったな。
既に、全員配置につかせた」
「了解した。む、伝令兵が来たな」フランが伝令兵を見た。
「報告です!レスティ将軍達が、イシュカル城下に潜入してきました!」
来たか。将軍達に緊張が走る。
「迎撃する!ヘインセルの魔法をまともに喰らってはならない。
城下の建物を利用し、魔法を受けないように戦うぞ!」フランが号令をかけた。
フランの部隊が迅速に動き出す。
レスティ達の部隊がやってきた。しかし、先頭は副指揮官のエイルだ。
レスティは後方か?フランは考えた。
しかし、レスティは前線で指示を出すタイプのはずだ。何かある。
もしかしてレスティはここにいないのではないか。
もし、この隙をついて城に潜入しようとしていたら。
しかしフランはその可能性をグラリアに告げなかった。
兵士たちの衝突が始まる。
グラリアの大部隊が、エイル達と衝突していく。
エイル達とほぼ互角。それでも戦える。慎重に時間を稼ぐんだ。
ヘインセルの部隊も魔法で援護する。
しかし、地形のせいか上手くは敵に当たらない。
「妙に慎重だな。撤退も視野に入れているのか」グラリアが思案する。
様子見。その可能性はあった。
その時フランが部隊の副指揮官に指示を出した。
「こんな指示を出してすまないと思う。しかし、どうしても気になることがある。
ここの指揮を任せれらないか。どうしても、気になることがある」フランが副指揮官に告げた。
「わかりました。フラン将軍の命令ならば。我々だけで戦って見せましょう。
我々の部隊は百戦錬磨。後れを取ることはありません」副指揮官が答えた。
「すまない。ここを、頼んだぞ」フランは城に向かって走り出した。
グラリアには気づかれていない。
フランは急いで城に戻った。