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カンタール砦

 女王の間で、女王と三将軍が話し合っていた。

「姫は捕らえましたが、問題はレスティですね。

恐らく、南の砦からイシュカルに入り、平和派と共に攻めてくるでしょう。

レスティの力は侮れない。迅速に布陣を引く必要があると思いますが」

グラリアが話した。

「お前たちがレスティなら、まずどこを狙う?」女王が問う。

「城じゃないのか?平和派は姫を取り戻そうと必死になってるはずだ。

短期決戦で決めに来ると思うが」ガルムが意見を出した。

「それはない。いくらレスティが強いとはいえ、

帝国三将軍を相手に無茶をして突撃してくるとは思えない。

南の砦からこの城まで、大分距離がある。

まず城の近くに拠点を作ろうとするはずだ。

この帝国の地で戦うにおいて、占領されて一番厄介なのは、中央のカンタール砦。

あそこを一度占領してしまえば、次はどこにでも攻撃の手をつけられる」

グラリアが意見を否定した。

「カンタール砦を占領されては、こちらが不利になる。それはわかる。

しかし、カンタール砦は守りに強い砦だ。あそこの兵士たちに任せておけば、

心配ないのではないか」フランも意見した。

「それでは駄目だ。先ほども言ったが、レスティの力は侮れない。

万が一にも占領されようものなら、平和派も調子に乗る」グラリアがまたも否定した。

「では、どうするのだ?グラリアよ」女王がグラリアに訊いた。

「城の守りを薄くしないためにも、城から三将軍を出す事は出来ません。

私は無いと思いますが、ガルム将軍の意見が万が一にも当たっていたら、

レスティを迎撃しなければならない。しかし、二将軍を城の守りに当て、

一人の将軍をカンタール砦に向かわせる事はできる」グラリアが作戦を語った。

「つまり?」ガルムが続きを促す。

「我々から一人だけ、カンタール砦にて防衛戦を行う準備をするということだ。

一番適任な将軍を選んでな」グラリアが将軍達を見ながら話した。

「カンタール砦に陣取れば、レスティ達がどこへ攻めようとも、

すぐに連絡がカンタール砦へやってくる。迅速に対応することが可能だ。

どうですか?エリシア様?」グラリアが女王に意見を求めた。

「それでよい。だが、誰が行くのだ」女王はグラリアの意見を肯定した。

「フラン将軍はだめです。レスティと共に裏切る可能性がある」グラリアが淡々と言う。

「なんだと、貴様。もう一度言ってみろ」フランが険しい目つきでグラリアを見る。

「甘いもの同士が手を組む可能性があると言っているのだ。

フラン将軍は城の守りにつくべきだ」グラリアは発言を撤回しない。

「私を侮辱する気か!」フランがグラリアに近づく。

「やめよ、フラン。フランには城の守りについてもらう。一人たりともこの間まで通すな。

この城を死守せよ。お前なら出来るな?」女王が間に入った。

「わかりました、エリシア様の命令ならば」フランが悔しそうに元の位置に戻っていく。

グラリアは笑みを浮かべている。

「残りは私とガルム将軍になります」グラリアが話す。

「俺がいこう。仲の悪い将軍二人を残していくのは多少不安だがな」ガルムが笑う。

「レスティが来る可能性があるのなら、骨のある戦いが出来る。

俺の部下達の士気も上がるだろう。グラリア、お前も城に残れ」ガルムはもう行く気でいるようだ。

「わかった、私も城に残ろう。だが、戦いに熱を上げすぎないように気を付けることだな。

裏をかかれるぞ」グラリアが承諾し、そして警告した。

「戦場で裏を取られるほど甘くはない」ガルムは自信のある表情で答えた。

「エリシア様、ガルム将軍がカンタール砦に赴くという事で、よろしいですか?

グラリアが女王に訊ねる。

「よい。ガルム将軍、戦果を期待しているぞ。残りの二人は城の死守だ!

三将軍、今すぐ行動せよ!」女王が号令を出した。

「はい、エリシア様のために」三将軍が答える。

三将軍は女王の間から出ていった。



 南のクアトル砦では、レスティ達が出陣の準備を行っていた。

レスティの部隊、ヘインセルの部隊、それに平和派の三割の部隊。

平和派の七割は砦に残ることになった。

「俺たちが出陣している間に、

この砦を落とされるのはまずい。まずはカンタール砦を落としてからだ。

それまで、慎重に攻めていくべきだ」エイルの提案だった。

総指揮官がレスティ。イシュカルの勢力の副指揮官がエイル、

ヘインセルの副指揮官がセフィラということになった。

「カンタール砦に将軍がいた場合、やはり厳しい戦いになるだろうな。

しかし、落とせれば追いつめられてるのは向こうの方だ。絶対に負けられない」

エイルが口にした。

「ああ。必ず勝利しよう。俺たちなら、出来るはずだ」レスティが答える。

出陣の準備が整っていく。

カンタール砦は、守りに強い砦。

内部に侵入するのも難しく、内部の作りも攻めには向いていない。

恐らくいるとしたら、ガルム将軍だ。

ガルム将軍は斧を、剣を振るうかのように軽々と振るう猛将だ。

相手をするのは恐らく自分になる。

レスティは思った。

だが、遅れは取らない。

共に戦ってくれる兵士達のためにも、負けるわけにはいかないのだ。

出陣の準備が整った。

レスティ達が兵士達を見て、出発しようと決めた。

「準備は出来たようだな。カンタール砦へ出撃する!残るものは、砦を頼む。

この砦は重要な拠点だ」レスティが号令をかけた。

「さて、誰がいるものかな」エイルが剣を抱え、独り言を言った。



 カンタール砦にはガルム将軍がやって来ていた。

砦の兵士たちは驚く。

「ガルム将軍、どうなされたのですか?部隊まで連れて」兵士が問う。

「女王の命令だ。この砦を死守する。レスティが裏切った」ガルムが状況を告げた。

「お前たちにも守りの布陣を引いてもらう。これから俺の指揮下に入ってもらう。

相手はレスティだ。油断は出来んぞ」ガルムがさっそく兵士達に指示を出し始めた。

「わかりました。しかし、レスティ将軍が裏切るとは」兵士は困惑している。

「甘い男だ。実力は確かだが、性格が甘い。あんな奴に負けはせん」

ガルムは鼻息を荒くしている。

カンタール砦で慌ただしく守りの準備が行われた。

総指揮官はガルム将軍。それに副指揮官が二人ほどついた。

ガルムは前に出たがっていたが、砦の中で待機する組についた。

「何故俺が前に出てはいけないのだ。俺なら兵士共をなぎ倒せる」

ガルムが兵達の説得に抗議する。

「万が一将軍が倒されたら、総崩れです。それよりは、砦で指揮を出していただいて、

砦に侵入されたときの最後の砦として待機していただいた方が良いかと」

兵達が説得した。

「仕方ないな。砦に侵入された場合は、俺がなんとかするというわけか」

ガルムが骨を鳴らす。

ガルムは勝つ気でいた。しかし、一つ見落としをしていた。

レスティと平和派以外の戦力を視野に入れていなかったのだ。

緑の平和の王国、ヘインセルの戦力。



 レスティ達はカンタール砦へと出発した。

道のりは少し長い。

大部隊を率いて先へと進んでいく。

兵達が緊張しているのがわかる。

「みんな、大丈夫だ!俺たちなら、勝てる!」緊張を見抜いたレスティが声をかけた。

長い道のりを進み、ついにカンタール砦が見えてきた。

もう少し近づかないと兵の様子はわからない。

徐々に接近していく。

接近していくと、砦の前に部隊が展開されているのがわかった。

「部隊を展開している戦力があるってことは」エイルが口にした。

「いるな。将軍が」レスティが先を続けた。

数の少ないフランの部隊ではない。グラリアかガルムだ。

「みんな、将軍がおそらく砦にいる。将軍の相手は出来るだけ俺がする。

将軍は強い。気を付けてくれ」皆に注意を呼びかけた。

レスティの部隊と平和派の部隊を先頭に、ヘインセルの部隊が後に続く。

向こうもこちらに気がついた様子だ。

「ガルム将軍!恐らくレスティ将軍の部隊と思われる部隊が現れました!」

兵士がガルムに報告をする。

「来たか。胸が躍る。さて、いかに戦ってみせようか」

ガルムが笑みを浮かべている。

「しかし、将軍」兵士が不安そうな顔をしている。

「どうした。まさか戦うのが怖いなどと言うのではあるまいな」ガルムが睨み付ける。

「数が、多いです」兵士が口にした。

「数が多いだと?まだ距離はあるな?」ガルムが訊いた。

「はい、今なら見にいけると思います」兵士が答える。

ガルムは急いで砦から出て、外の様子を見にいった。

ガルムは驚いた。

確かに、数が多い。

おかしい。レスティの部隊はこんな大部隊ではなかったはず。

平和派の戦力を総動員したのか?

いや、南のクアトル砦を放棄するとは思えない。

いったい何故こんなに数がいるのか。

ガルムは焦っていた。

この戦、負けるかもしれない。

今までの経験からそんな予感がよぎった。

砦に戻った自分の出番は、間違いなく来る。

「確かに数が多い。しかし臆するな。質の違いを見せつけてやれ」

ガルムが部下を激励した。

「砦の中は任せておけ。必ずこのガルムが死守しよう」

ガルムは負ける予感がしつつも、胸が高鳴っていた。

戦いはこうでなくてはならない。

ぬるい平和の中では味わえない感覚だ。

レスティ達の部隊が接近してくる。

もうすぐ、衝突になる。

しかし、レスティ達の部隊が途中で止まった。

衝突戦になるギリギリの距離。

副指揮官は考えた。何故止まった?

しかし、これはチャンスだ。

砦に一気に接近されれば、簡単に中への侵入を許してしまう。

こちらから仕掛ける絶好のチャンスだ。

こちらの部隊から仕掛ける。そうした方が砦は安全だ。

「全員!こちらから仕掛けるぞ!突撃!」

副指揮官が指揮を出す。

号令を合図に、砦の前の部隊が突撃していく。

「来るぞ!ヘインセルの部隊、頼むぞ!」レスティが号令をかけた。

「平和のため、私たちの力を見せる時です!」セフィラが叫ぶ。

接近してくる部隊に対して、ヘインセルの部隊が魔法を放つ。

炎の弾がまるで投石のように部隊に命中していく。

副指揮官は焦った。魔法だと?馬鹿な、イシュカルにそんな力はない。

ヘインセル?ヘインセルの部隊を連れてきたのか?

それでこんなに大部隊なのか。

部隊に戦力差がある上に、完全に誘い込まれた。

魔法で戦力が削られていく。

しかし、もう後退は出来ない。無駄な損害になるだけだ。突撃するしかない。

魔法で削られつつも、突撃し、レスティ達と衝突になる。

だが、勝敗はもうついていたようなものだった。

兵力差がありすぎる。

レスティの号令で、兵士達が敵の部隊を殲滅していく。

あっさりと敵の部隊は殲滅された。一部の兵が、報告のためか砦に戻っていく。

「追撃する!この速度で殲滅されるとは思ってないはずだ!布陣を変えさせるな!」

レスティが叫ぶ。

レスティが部隊と共に前進していく。

カンタール砦に急いで兵士が入っていった。

「ガルム将軍!砦の前の部隊が、殲滅されました!」兵士が報告する。

殲滅だと?馬鹿な、早すぎる。何が起きた?

「何が起こったのか説明しろ!今すぐにだ!」ガルムが叫んだ。

「先にこちらから仕掛けたところ、接近するところを魔法で削られ、

衝突になる頃にはもうかなりの戦力差になっており、力で押されました」

兵士が状況を説明する。

ガルムは理解した。連中、ヘインセルの部隊を連れてきたのだ。

何故、敵国の将軍であるレスティにヘインセルが協力する?

そんな馬鹿な事があるものか。

しかし、事実として今、ヘインセルの部隊が存在する。

平地での戦いは魔法相手には不利だ。俺の、判断ミス。

砦に籠って戦うべきだった。

しかし、今後悔しても遅い。

出来ることをするしかない。

「砦の兵士達よ!戦力差がかなりある!一人、三人は仕留めろ!いいな!

すぐにレスティ達がやってくるぞ!」ガルムが号令をかけた。

その通りレスティ達がすぐにやってきた。

迷わず砦に突撃してくる。

ガルムの兵達と、レスティの兵達が衝突する。

ガルムは一人で三人は仕留めろと言った。

しかし、そんなに甘くはない。

レスティの部下達は精鋭だった。

一人で三人仕留めるどころか、一人も倒せず終わってしまう。

レスティがガルムの姿を発見する。

「ガルム将軍!ここまでだ!」レスティがそちらへ向かっていく。

「調子に乗るなよ、小僧!」ガルムが構えた。

ガルムが先制した。斧を振りかざす。

スピードがとても速い。レスティは距離を慎重に取った。

このガルム将軍は強い。油断すれば、一瞬でやられてしまう。

しかし、レスティも遅れは取らない。

慎重に隙を探していく。

ガルムは斧を振りかざし続ける。結界を張るように。

そうしなければ、すぐに接近されて倒されてしまう。

レスティはそれだけ強い。ガルムはわかっていた。

しかし、このままではレスティを倒すことは出来ない。

時間が経てば、恐らく自分の部隊は負ける。

そうなる前に、レスティを撃破しなければならない。

ガルムは攻めの構えに出た。

ただ斧を振りかざすのではなく、レスティに向かって突撃していく。

捨て身の一撃を叩き込む。

しかし、レスティはその捨て身の一撃をギリギリの所で回避した。

レスティは体制をすぐに立て直し、ガルムの隙だらけの体を叩き切る。

勝負あった。

ガルムがその場に倒れ込む。

「よっしゃあ!」遠くで戦っていたエイルが声を上げた。

ガルムの部隊に動揺が走った。

将軍が、倒された。

「ガルム将軍は倒れた!ここまでだ、砦の兵士達よ!」レスティが叫ぶ。

伝令役の兵士がすぐに砦から脱出した。

しかし、残りの兵士はまだ戦うつもりで斬りかかってくる。

「将軍がいなくても、我々だけで!」敵の兵士が叫んだ。

出来れば逃げてほしかった。レスティは思った。

しかし相手に戦う意思がある以上、こちらも対応しなければならない。

「将軍は倒したが、まだ敵に戦う意思がある!油断するなよ!」レスティが号令をかけた。

レスティが動けるようになった事により、レスティが敵の兵士たちを切り刻んでいく。

戦いは続いた。しかし、その戦いも終わる。

砦のガルム将軍の部隊が一掃された。

「我々の勝利だ!負傷した者の手当てをしてくれ!」レスティが勝利を告げた。

味方の兵達が沸く。カンタール砦を占領した。

今の我々なら姫も救い出せる。平和派にはそんな予感がよぎっていた。

負傷者の手当てをヘインセルの兵達がしていた。

「やりましたね。一歩、いや、二歩前進です」セフィラがレスティに近づき声をかけた。

「仲間達、特にヘインセルの戦力のおかげだ。魔法のおかげで有利に戦う事が出来た。

あれがなければ、どうなっていたかはわからない。本当に、感謝する」

レスティがセフィラに礼を言った。

「その言葉、皆さんに伝えておきます」セフィラが答える。

カンタール砦を占領した事で、レスティ達には選択肢が増えた。

各地の占領されている村を解放する。平和の砦を落とす。城に攻め入る。

様々な選択を出来るようになった。

何を選択すべきか、慎重に判断しなければならない。

レスティはそう思っていた。

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