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王女の不在

 兵士たちは驚いた。

そして、相談し始めた。何かの罠かもしれない。しかし選択肢は一つしかない。

レスティ将軍が裏切った。その可能性に縋るしかない。

話はすぐにまとまった。レスティ将軍の部隊を招き入れる。それしかない。

門を見張っていた兵士が頷き、セフィラの元へ向かう。

「話がまとまりました。レスティ将軍達をこちらへ招いてください」兵士がセフィラに言った。

「承知しました」セフィラがお辞儀をし、部隊の元へ戻っていく。

「警戒はされるだろうな。話が通ってくれるかどうか」エイルが呟く。

セフィラが戻ってきた。

「レスティ将軍達を招いてください、とのことです。いきましょう。入れてくれるようです」

セフィラが報告をする。

「わかった。ありがとう、セフィラ。みんな、行こう」レスティが号令を出した。

部隊と共に砦に近づいて行く。

砦まで辿り着くと、兵士が緊張した面持ちでこちらを見ている。

「入れてくれること、感謝する。よく信じてくれた」兵士にレスティが言った。

砦の内部に入っていく。

すると、期待の眼差しのようなものを感じた。

砦の兵士が、縋るような目でレスティを見ている。

様子が変だ。王女も不在のようだ。何かあったのか?

「王女と話がしたい。王女は不在なのか?」レスティが兵士たちに訊いた。

「姫は」兵士が語りだす。「我々を逃がすため、敵の将軍に捕らえられてしまいました」

レスティは驚いた。王女が捕まった?

あの女王に捕まったとなれば、生きているかもわからない。

加えて、平和派はリーダーを失ったことになる。

「レスティ将軍は、強硬派と戦ってくださるのですか?我々と共に?」

兵士が訊いてくる。声がひどく弱々しかった。

レスティは思った。この砦の兵士は、今、王女を失い弱っているのだ。

「ああ、強硬派と戦う。今更遅すぎるかもしれないが、平和派と共に戦おう。

王女も必ず救出しに行く。詳しい状況を聞かせてくれ。何故捕まった?」

レスティが問う。兵たちの間にわずかに希望の芽が芽生えつつあった。

「カレル港を奪うため、少数の部隊でカレル港へ赴いたのです。

しかし、そこには何故か帝国の三将軍がおり、王女は自分が投降する代わりに、

部下は見逃してくださいと言い、私たちを守って捕まりました」

兵士が悔しそうに言った。

レスティは話を黙って聞いていた。三将軍を根拠もなく動員するなど、

普通では出来ない。おそらくは、スパイがいたのだ。しかしそれを口にすることは、

兵たちの間に動揺を走らせかねない。ここは黙する。

おそらくは、グラリアの仕業。

「部隊を指揮していたのはグラリア将軍ではなかったか?」レスティが質問した。

「はい、おそらくその通りです。最初は姫のいう事にも耳を貸さず、

我々を皆殺しにするつもりでいたようです。

しかし、フラン将軍がグラリア将軍に何かを告げた後、

姫の要求を飲みました。指揮官は、グラリア将軍です」兵士が答える。

フラン将軍。おそらくは、なにか知恵を使って皆殺しを止めさせたのだ。

「状況はわかった。すまない、もう少し早く合流できていれば」レスティが謝った。

「いいえ、将軍が我々についてくださって、心強い限りです。

我々は、レスティ将軍とフラン将軍は信用できる人物だと、姫から聞いております。

もう、みんな諦めかけていたところでした。

でも、まだ希望がある。それだけで我々は戦えます」兵士が語る。

「王女が、そう言っていたのか」レスティが呟く。

彼女は俺とフラン将軍を信頼していたのだ。俺はその信頼に応える事が出来なかった。

唇を噛みしめる。

「少し、この砦で部隊を休ませてくれ。俺はその間に作戦を考える」

レスティが言う。戦うためには休息も必要だ。

「わかりました。砦はご自由にお使いください。我々兵士も、少し相談事をしてきます」

兵士たちは相談事があるようだ。

レスティは部隊に休息の指示を出し、作戦を考え始めた。



 帝国三将軍が城に帰還した。

ガルムは不満そうな表情をしており、フランは暗い顔つきをしている。

グラリアだけが満足そうに、クレリアを連行している。

「戦えばよかったものを。そんなに焦って連行する必要もあるまいに」

ガルムが不満を口にする。

「女王様の命令だ。一刻も早く遂行するのが、部下としての務めというものだ」

グラリアが答える。

始めは皆殺しにするつもりだったのに、こいつは。フランが苛立つ。

三将軍が女王の間へと進んでいく。

「エリシア様、姫をお連れしました」グラリアが女王に成果を報告した。

「この短時間でか。お前の読み通りだったというわけか。素晴らしい。

見事だぞ、グラリア将軍」女王がグラリアを褒めたたえる。

「ありがたきお言葉」グラリアは自慢げに笑みを浮かべている。

「母上、どうか考え直してください。こんなやり方は間違っています」

クレリアが女王を説得しようとする。

「黙れ。この裏切り者め。お前は処刑する。見せしめとしてな。

平和派が抵抗などという無駄なことをすればどうなるか、わからせてやる」

エリシアが残酷な事を口にした。

「エリシア様!母が実の子を殺すなどということは、あってはなりません!」

フランが抗議する。

「控えよ、フラン。お前もレスティと同様に寝返るつもりか?」

エリシアがフランに視線を向けた。

「私は、エリシア様を裏切りません。わかりました、姫は牢に閉じ込めておきましょう」

フランが悲しげな声で言う。

「さあ、姫。こちらへ。牢に入ってもらいます」フランがクレリアの手を掴んだ。

クレリアの心情は複雑だった。

どうして優しかった母上が、こんなに変わってしまったのか。

もう昔の母上は戻ってこないのか。

きっと、私の手を掴んでいるフランも同じことを考えているはずだ。

フランに連れられて牢まで歩いていく。

「姫、申し訳ありません」フランが歩きながら小さな声で言った。

「いいのです、フラン。あなたは私の部下を助けてくれました。将軍としての立場も、

理解しているつもりです」クレリアはフランを責めない。

フランは自分が情けなかった。

今、無理やり突破しようとすれば姫を助けることも可能だ。

しかし、エリシア様は裏切れない。

いつかきっと、あの優しかったエリシア様に戻ってくださる。

そして誓ったのだ。エリシア様の忠実な部下であると。

しかし、姫を処刑するなどと、悲劇だ。

フランが立ち止まる。

突破しようと思えば、出来るはずだ。

牢に入れられたら、もう処刑の運命からは逃れられない。

今しかない。

今、私がやらなければ。

その時、クレリアがフランに話しかけた。

「フラン、迷っているのですね。しかし、いいのです。全ては私の考えが甘かったせい。

あなたは自分の信じる道を行ってください。私は牢に入ります。

フラン、あなたは私にとても良く接してくださりましたね。

あなたへの恩義は、忘れません。さあ、行きましょう」

クレリアが逆にフランの手を引っ張って歩いていく。

「申し訳ありません、姫」フランは泣いていた。



 クアトル砦の兵士たちは相談事をしていた。

レスティ将軍について。彼を信頼してもいいものなのか。

全員が全員、すぐに状況を受け入れられたわけではなかった。

ヘインセルの者が仲間な事から、彼が本当に仲間なのだとわかってはいたが、

すぐには受け入れられなかった。

しかし姫は言っていた。彼は信頼できると。

姫が信じるなら、我々も信じなければどうするのか。

レスティ将軍の元で戦おう、ということで話がまとまった。

そう決めた瞬間、レスティ将軍がとても頼もしく思えた。

帝国最強の将軍が、仲間。それにあのレスティ将軍の部隊と。ヘインセルの部隊もいる。

姫を救い出す事も、不可能ではない。そう思えた。

姫がまだ無事である事を祈るだけだ。

レスティ将軍は作戦を練ると言っていた。

兵達は様子を見に行くことにした。

砦の一室で、レスティとエイルが話し合っていた。

「おそらく、王女はすぐには処刑されない。民たちを集めて、その目の前で処刑するはずだ。

ただ殺すつもりなら、港で既に殺されている。まだ猶予はある、焦りは禁物だ」

エイルが話している。

「直接、イシュカル城に飛び込むのは悪手か。帝国三将軍もいる。

すぐに助けに行ってやりたい所だが」レスティが悔しそうに言った。

「ここからイシュカル城まで大分距離がある。城に有利に攻め込み、

王女を救い出すための作戦を立てやすくするには、カンタール砦。

あそこを落とすべきだ。あの砦は守りに強い。一度占領してしまえば、

完全に拠点として活用出来る。イシュカル城へも大分近くなる。

それに、もう一つ狙いがある」エイルが作戦を練っている。

「狙い?」レスティが訊いた。

「あの砦が重要だってことは、女王もわかっているはずだ。

帝国の将軍を一人くらい配置してくるかもしれない。三人まとめて置いてくるということは、

まず無いはずだ。城の守りが薄くなる。あそこの砦にもし、将軍を一人配置してくれれば、

それを撃破すれば残りは二人だ。城に攻め込みやすくなる。将軍が配置されていなければ、

単純に兵力差で占領すればいいだけだ。どうだ?」エイルが提案する。

レスティが考え込む。悪くない。将軍を一人ずつ削っていくという考えは、

これから先有利になるように思えた。単純にイシュカル城に特攻するだけでは、

恐らく王女は救えない。

カンタール砦を占領すれば、城への距離が近くなり、兵もそこから出発出来る。

陽動作戦のような作戦を立てることも出来る。

カンタール砦を落とせば、平和の砦にも近い。

平和の砦を落とせば、ヘインセルとの連携も取れる。

「いい作戦だと思う。次の目標は、カンタール砦にしよう」レスティが口にした。

「よっしゃ。もし、将軍が来るとしたら、誰が来ると思う?」エイルが拳を握りしめ訊く。

「グラリアは恐らく女王の傍にいるだろう。フランの部隊も守りに徹するという部隊じゃない。

来るとしたら、ガルム将軍だ。戦いだと聞いて、喜んで飛び出してくるだろう」

レスティがガルムの顔を思い浮かべる。手ごわい将軍だ。

「手ごわい相手だな。さて、方針が決まった所で俺たちも少し休むか」

エイルが提案した。我々も休まねばならない。

「そうだな。なあ、エイルよ」レスティが何か聞きたそうな様子だ。

「どうした?」

「俺は、正しいことをしていると思うか?

この大陸のため、国のため、正しき道を歩んでいると思うか?

俺には誰が本当に正しいのかわからない。

どこかで道を踏み外しているかもしれない」レスティが不安げに口にした。

「お前は正しい道を歩んでいる。勇気もある。俺を庇ってくれた。

お前が変化する状況に不安なのはわかる。

しかし、部下達もお前を信頼しているぞ。

俺もお前を信頼している。昔、この国の未来を語ったことを覚えているか?」

エイルが昔を思い出しながら語る。

「お前は俺に言ったな。自分のために戦い、民のために戦うと。

そして必ずこの国の平和を守り抜いてみせると。

俺が気に入ったのは、自分のために戦うって言った所だ。

民のためだけじゃない、自分の意思も大切にする。

お前は自分の意思でこの道を選んだんだ。自信を持て」

エイルがレスティを励ました。

「俺も、お前と共に最後まで戦おう。例え女王に敗れたとしても、

お前を恨みはしない。お前と共に戦えることは俺の誇りだ。

もしまた迷う事があるのなら、俺に相談しろ。

俺は最後までお前の味方だ。何があってもだ」

エイルが決意を込めた表情で言う。

「すまない、エイル。お前には助けられてばかりだな」レスティが感謝の言葉を告げる。

その時、レスティのぼろぼろの刃が光りだした。

まばゆい光を放ち、やがて光は消えた。

「なんだ?何が起きた?」エイルがレスティの剣を見る。

「剣が」レスティが剣を取り出した。

「刃が欠けていない。見た目も、古びているがぼろぼろの状態より鋭くなっている」

その剣は、強い意思を持った真の仲間と共に力を合わせることで、

真の力を発揮する。

ストラの言葉を思い出す。

エイルのことか?レスティは考えた。

「ぼろぼろの状態よりまともになったな。だが実用性は無さそうだ。

まったく、不思議な事ばっかり起きやがる」エイルが訝し気に見ている。

「少し休め。疲れで不安になっているのかもしれん。俺も、少し休ませてもらう」

エイルが席を立った。

レスティも席を立つ。

二人は休憩に向かった。



 二人はしばらくの間だけ休憩し、兵たちの元に向かった。

次の作戦を伝えるためだ。

「作戦を考えた。まず、カンタール砦を落とす」レスティが話し出す。

「しかし、姫が捕らえられてしまいました。すぐ、助けに行かねば」兵達が意見を出した。

エイルと話した内容を兵達に説明する。

クアトル砦の兵達はすぐにでも王女を助けに行きたかったが、

無謀に突撃しては助けられないという説明も、説得力があった。

「将軍がいなければ、兵力差で一気に制圧する。

問題は、将軍いた場合だ。まず、グラリア。これはハッキリ言って今の俺たちなら大したことはない。

通常通り押し切れる。次にフランだが、フランの部隊は数が少ないが、

兵士の質が異常に高い。人数が少ないからと油断しないことだ。

フランの部隊がいれば、無茶に突撃しないでくれ。

俺なら不覚は取らない。俺が先陣を切る。

最後に、恐らく一番いる可能性が高いと思われるガルムだ。

力で戦う、斧を持った兵士が多い。

セフィラ達のヘインセルの魔法部隊が頼りになるだろう」レスティが詳しく説明した。

「わかりました。力押しでは、被害が多く出るわけですね」セフィラが頷く。

「各自、カンタール砦への出発の準備をしてくれ。

準備が整い次第、出発する。

俺たちが裏切ったことは、恐らくクラトスの部隊が伝えているはずだ。

向こうも布陣を整えているだろう。

間違いなく、戦いにはなる。

いいか、命を無駄にはするなよ。

お前たちが死ねば、俺は悲しい。王女も悲しむだろう」レスティが出発の準備の指令を出した。

カンタール砦。守りに固い、鉄壁の砦。

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