セフィラの帰還
セフィラ達は平和の砦まで向かっていた。
ヘインセルまで様子を見に行くためだ。
イシュカルに悪魔が現れた。ヘインセルにも悪魔が現れているかもしれない。
平和の砦まで向かう途中、何度か悪魔に遭遇した。
狼のような悪魔から、空を飛ぶ獣まで、様々だ。
このような脅威がヘインセルにも迫っているとしたら、早く状況を伝えなければならない。
セフィラはイシュカルにも愛着を覚えつつあった。
ヘインセルがもし無事なら。
イシュカルのために、レスティ達と共に戦ってあげたい。そう思った。
強硬派の脅威は去ったが、国を共に守ってあげたかった。
やがて、平和の砦に辿り着いた。
砦に慎重に接近したが、砦に悪魔がいる様子は見られない。
砦の内部に入っても敵の気配はなかった。
この様子だと、ヘインセルは侵入されていないかもしれない。
砦を出て、カストル砦まで歩を進めた。
進んでいく途中にも悪魔には遭遇しなかった。
悪魔一匹見当たらない。
そして、カストル砦に辿り着いた。
見張りの兵士がセフィラ達に気がつく。
すぐに見張りの兵士の一人が、ローウィンに報告に行った。
セフィラが見張りの兵士に話しかける。
「セフィラです。戻りました。今、大変なことが起きています。急いでローウィンと話がしたい」
「ご無事で何よりです。兵が今ローウィン様に報告に行きました。
セフィラ様、中にお入りください」兵士がセフィラ達を招き入れる。
セフィラが中央の広間まで進むと、ローウィンが顔を出した。
「無事で何よりだ、セフィラ。戦いは、どうなった?」ローウィンが尋ねる。
「戦いには、勝ちました。しかし大変なことがイシュカルで起こっています」
セフィラが一呼吸してから語りだす。
「女王は伝承上に存在する、悪魔に操られていたのです。
そして、悪魔は宴を始めると言ってその場から去りました。紫色の異形です。
人間同士を戦わせ消耗させ、制圧すると言っていました。
ここに来るまでにイシュカルで何度も悪魔の姿を目撃しました。
このままでは、イシュカルが悪魔に侵略されてしまいます。
ヘインセルでは、異常はないですか?」セフィラが説明をし、尋ねた。
「悪魔だと。それで、女王は豹変したのか。まさか、伝承上の悪魔が出てくるとは。
ヘインセルでは特に異常はない。悪魔は発見されていない。
だがしかし、国境の砦に兵力を置く必要があるな」ローウィンが驚いている。
「はい。特に平和の砦は守る必要があると思います。それと」
セフィラが言い淀んだ。
「それと?」
「強硬派の危険は去りました。ヘインセルはひとまず安心でしょう。
しかし、イシュカルはまだ危険な状態です。それで」
セフィラはまたもいい淀む。
「イシュカルのために、続けてヘインセルの者に戦ってほしいと言うのだな?」
ローウィンが察して言った。
セフィラが申し訳なさそうにする。
「はい。私はイシュカルにも愛着を覚え始めました。もちろん、無理にとは言いません。
ただ、もしイシュカルのために戦ってくれる者がいるのなら、一緒に来てほしい。
今、レスティ将軍達が国を救うために奔走しています。
ヘインセルに今危険がない以上、ヘインセルの兵達が戦う必要は無いことはわかっています」
ローウィンは少し考え込んだ。
「いや、戦う必要は、ある」考え込んだ後、ローウィンが言った。
「悪魔はまずイシュカルから侵略しようと思っているだけだ。
イシュカルを侵略して、それで終わるとは思えない。
イシュカルが崩れれば、次はヘインセルが狙われるだろう。
むしろ戦うならば、イシュカルの戦力が残っている今しかない。
我が国もこのままでは危ないことは間違いない」ローウィンが語った。
セフィラは考えた。確かにその通りだ。
悪魔はただ、分裂したイシュカルから狙っているだけのこと。
ヘインセルまで牙を向いてくる姿は容易に想像出来た。
「それでは、このヘインセルの戦力はどうするのです?」セフィラが部隊の者を見ながら言う。
「国王から授かった部隊にはとりあえず、平和の砦を守ってもらおう。
私の砦の部隊は、引き続きセフィラと共にイシュカルで戦ってほしい。
戦う相手が不透明であることはわかっている。
だが、今戦わなければイシュカルが崩壊してしまう。
お前たちに今後の未来がかかっている」ローウィンが部隊の者を見ながら言った。
「私は再び国王に相談しに行く。今後どうすべきかを。
セフィラは、自分のやるべきことをやってくれ」
「ありがとう、ローウィン」セフィラが礼を言った。
そして部隊の者たちをセフィラが見た。
「私に、ついてきてくれますか?」
「はい。ローウィン様の命令です。それに、私たちもイシュカルを救いたい」
砦の兵達が次々に言った。皆、戦ってくれるようだ。
「国王の部隊はすぐに平和の砦に向かってくれ。国境の守備は、まずはあそこだ。
残りの砦については国王に相談する。皆、頼んだぞ」
「では私は急いでイシュカルに戻ります。イシュカルの各地が危ない。
すぐにレスティ将軍達と合流します」
「それがいい。行ってくれ。大陸が平和になることを、信じよう」
ローウィンが言った。
セフィラは一礼すると、砦を出るために歩き始めた。




