忠臣フラン
城下を通り、イシュカル城へと向かうレスティ達。
正面から堂々と通っていく。
入り口の扉を開き、城内に入る。
敵の姿は見当たらない。
三方向に通路が伸びている。
女王の間へは、中央へ真っ直ぐだ。
「慎重に行こう。必ずフラン将軍がいる」レスティが言った。
中央の通路を先へ進んでいくと、人影が見えた。
フラン将軍と、僅かな部下達かそこで待ち構えていた。
「やはり来たか。だが、ここから先には通さない」フランが剣を構えた。
「グラリア将軍は降伏した。もうこれ以上の戦いは無意味だ、フラン将軍!」
レスティが叫ぶ。
「無意味などではない。私はここを必ず守り抜く。レスティ、一騎打ちだ。
お前に一騎打ちを申し込む」フランが突然提案した。
「おいおい、数ではこっちが勝ってるんだぜ。そんな要求、受ける必要がない」
エイルが抗議する。
「私はレスティと話をしているのだ。私が負ければ、部下達は大人しく降伏させよう。
私に勝てる自信がないか?」フランが挑発した。
「レスティ、どうするのですか」クレリアが不安そうに訊いた。
「彼女には一度見逃してもらった恩義がある」レスティが剣を握り言った。
「わかった、受けよう。迷っている今のあなたには、負けはしない」
「おい、レスティ!大丈夫なのかよ」エイルが心配する。
「大丈夫だ。それに、クレリアとフラン将軍を戦わせたくないというのもある。
必ず勝つ。信じてくれ」レスティがエイルに言った。
「お前の判断なら、しょうがないな。反対したいところだが。負けるなよ」
エイルが諦めたように後ろに下がった。
「一騎打ちを受けてくれること、感謝する。
お前は帝国最強の将軍だったな。その実力、見せてもらおうか」
フランが構えを取った。
レスティも構えを取る。
しばらくの間、硬直が続いた。
仲間たちは息を飲んで見守っている。
硬直を破ったのはフランの方だった。
速い速度で切り込んできた。
レスティが剣撃を全て防ぎきる。しかし、鋭い。
フランは連続攻撃を放った後、再び後退した。
「(全部防ぎ切った。レスティは読み切ってる。大丈夫だ、勝てる)」
エイルがそう思っていた。
しかし、レスティは違っていた。
今の連続攻撃の中、一度だけ確実にこちらが死んでいた。
だがフランがその隙を攻めてこなかった。
やはり迷っているのか。
「甘く見ているのか?それとも、迷っているのか、将軍」レスティが問いただす。
「迷うだと?慎重なだけだ。言葉で動揺させようとしても無駄な事」フランが再び構える。
言葉ではそう言っている。しかし、フラン将軍は確実に心のどこかで迷っている。
こちらから攻める。心の隙を狙うようで悪いが、いつもより捨て身の構えでいく。
今度はレスティの方から飛び出した。
連続攻撃ではなく、強い正面からの一撃を叩き込む。
フランがそれを剣で防いだ。
その威力が想像以上だった。フランの剣がぎりぎり持ちこたえるが、
その隙をついて、レスティがフランの胴を狙う。
一発入った。フランがその場に倒れ込む。
「決まったな」エイルが安堵した。
「フラン」クレリアが心配そうに見つめている。
「勝負あった。約束通り、部下達には降伏してもらうぞ、フラン将軍」
レスティがフランに言った。
フランは苦しそうに床に伏している。
ここを突破されれば、もう女王の間はすぐだ。
エリシア様を守れない。
「エリシア様、何故泣いていらっしゃるのですか?」フランがエリシアに問いかけた。
昔の出来事だ。
「フラン、私、自信がないの。この国を、民を、正しい方向に導いていけるかどうか。
私は父上にも母上にも愛されなかった。こんな、愛情を受けずに育った人間が、
民のために、優しい女王になれるのかしら」
「なれます。あなたなら」
「フラン、もし私が選択を誤っても、間違った道を進んでしまっても、
あなたは、あなただけは私の傍で戦ってくれる?」
「はい。もちろんです。エリシア様の傍でいつまでも戦いましょう」
フランがよろよろと立ち上がった。
「私はまだ負けてはいない!」フランが剣を構える。
仲間たちは驚いた。まだ戦うつもりなのか。
「フラン、もう無理です!お止めなさい!」クレリアが叫んだ。
「負けてない!私が倒れたら、誰が他に戦えるというのだ!
エリシア様のために死ねるなら本望!」フランがレスティに切りかかる。
しかしその剣撃にはまったく力がなかった。
レスティがフランの剣を弾き飛ばす。
そして、壁際に向けて突き飛ばした。
フランが再び倒れ込む。
「剣も失った。勝負ありだ。潔く負けを認めるんだ」レスティが言い放つ。
フランは動けない。
クレリアがフランに駆け寄った。
「もう、無理です。あなたは十分戦いました。誰か!フラン将軍の治療を!
武器が無ければ大丈夫です、早く!身柄を拘束してください!」
クレリアが部下達に向けて叫ぶ。
フランの意識は朦朧としていた。
エリシア様、申し訳ありません。
最後まで、力になれず。
どうか、ご無事で。
フランは意識を失った。




