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カストル砦

 セフィラと共にカストル砦まで行くことになったレスティ達。

しかし、セフィラは出発前にやらなければならない事があるということで、

少し時間を置いてから出発することになった。

レスティも、エイルに異界の出来事を説明する時間が必要だったので、

それを承諾した。

「で、さっきのは何だったんだ?お前は俺を庇って斬られた。

そして光に包まれて消えた。そして、再びいきなり現れた。傷も治っていた」

エイルが疑問を口にする。当然の疑問だ。

「信じてもらえるかはわからないんだが」レスティが前置きをする。

「異界という所に連れていかれて、そこにいた少年に復活させてもらった。

俺は、どうやら死んだらしい。そして、扉を抜ければ元の世界に戻れると言われ、

扉を抜けたら、無事元の世界に戻れた。その時にこの剣を授かった」

レスティが剣を見せる。ぼろぼろの剣。

「お前はこんな剣持ってなかったよな。信じがたい話だが、お前のいう事だ。

嘘をつく理由もない。本当なんだろう」エイルが難しい顔をしている。

「俺にもまだ呑み込めていないんだがな」レスティも難しい顔だ。

「俺はお前がいなければ死んでいた。これからは、お前のために戦う。

命を救ってくれたこと、感謝してるぜ」エイルが感謝の意を表した。

「これから忙しくなるな。女王との戦いだ。まったく、命がいくつあっても足りなそうだ。

ちょっと、兵達の様子を見てくるぜ」

エイルはそう言うと、兵達の方へ向かっていった。

レスティは部下に対して感謝の念を感じていた。

皆、嫌な顔一つせずついてきてくれる。

良い部下達を持った。俺は幸せだ、と。



 「セフィラ様、いなくなってしまうの?」一人の少女がセフィラに訊いた。

少女はゴホンゴホンと咳をしている。

「私は、戦いにいかねばなりません。あなたを置いていくのは心苦しいですが、

これも平和を勝ち取るため。あなた達家族が平和に暮らせるためでもあるのです。

出来れば、あなたの病気の経過を見守ってあげたい。

しかし、今この瞬間、戦いの時が来ているのです」セフィラが心苦しそうに言った。

「セフィラ様、行かないで」少女が泣き顔で言った。

「アリス、あまりセフィラ様を困らせるな。私たちがお前を見守っているよ」

少女の両親が言った。

「セフィラ様、必ず帰ってきてくれる?」アリスと呼ばれた少女が訊いた。

「約束します。必ず、帰ってきますから」セフィラが誓った。

「約束だよ。セフィラ様が頑張るなら、私も頑張る。ずっと、待ってるからね」

アリスはそう言うと、再び咳をした。

アリスは小さい子で、病気を患っていた。

治療のおかげで病気の進行は遅くはなっていたが、

確実に病気はアリスの体を蝕んていた。

セフィラにとても懐いており、セフィラはよく病気の経過の観察と、

治療のためアリスの家を訪れていた。

この子たちのような者が、戦いに巻き込まれるなど、あってはならない。

セフィラはますます戦う覚悟を決めた。

「私はそろそろ行かねばなりません。アリス、あなたの幸せを祈っていますよ」

出発をセフィラが告げる。アリスは悲しそうだ。

「必ず、戻ります。行ってきます」セフィラが最後の挨拶をした。



 「レスティ将軍、お待たせしました」セフィラがレスティの元にやってきた。

「セフィラ殿、もういいのですか?」レスティが訊ねる。思ったより早かった。

「セフィラで構いません。これからはあなた達の仲間なのですから。

用事は、もう大丈夫です。いつでも行けます」セフィラが出発出来ることを告げる。

「それでは俺もレスティで構いません。心強い仲間が出来て、頼もしい」

レスティが本心を告げる。イシュカル帝国は剣には強いが、

魔法はヘインセルの方が遥かに優れている。

「部下たちに出発の合図を伝えてきます。行きましょう、カストル砦へ」

レスティが部下達の元へ向かっていった。

部下達に号令をかける。

「これから俺たちはカストル砦へ向かう!戦力を補充するためだ。

このままの戦力では、平和派と力を合わせても帝国に勝つことは難しい。

交渉は難航するだろうか、わずかな可能性でも、賭けてみたい」

レスティの号令。兵士たちが頷いた。

「攻めようとしていた砦に失礼な話だが、今後の事を考えれば、

行くしかねえな」エイルが立ち上がる。

部下たちを引き連れセフィラの元へレスティが戻っていく。

「セフィラ、待たせた。こちらもいつでも出発出来る」レスティが準備が整ったことを告げる。

「では、行きましょう。カストル砦へ。必ず説得してみせます」セフィラが歩きだす。

「気を付けるのだぞ、セフィラ。必ず生きて村に戻るのだ」村の長がセフィラを見送った。

セフィラを先頭に東へ歩いていく。

相変わらず、緑豊かな情景が広がっている。

「ここは、本当に美しい国だな」レスティが風景を見ながら言った。

「我が国の誇りです。この国が戦火に巻き込まれることになるとは」セフィラが暗い表情で言った。

レスティは自分を悔やんだ。自分は女王の命ずるがまま、この国を攻めようとしていたのだ。

「俺はこの国に攻め込む所だった。申し訳ない」レスティが謝る。

「将軍としての立場も、十分わかります。イシュカルの女王は、

今まで温厚だったと聞きますから。将軍としての立場にありながら、

反旗を翻したあなたは勇敢です。帝国には、五人の将軍がいるのでしたね?」

セフィラが国の事を質問した。

「ああ。俺と、クラトス将軍。クラトスは、村の者を皆殺しにしようとした将軍だ。俺が倒した。

それと、グラリア将軍。こいつが厄介だ。強硬派に積極的に協力しているのがこの男。

卑劣な手段も平気で使う。女王への忠誠心のために動いているのではない。

自分の為だけに戦っているような男だ」レスティが語る。

「そして、ガルム将軍。戦いを好み、戦いが生きがいのような男だ。

戦いが出来るという事で、現状を喜んでいる。グラリアに比べればマシな方だが、

この将軍も厄介だ。そして」レスティの顔が曇る。

「最後の一人が、フラン将軍。女性だ。彼女は義理人情に厚い。部下からも尊敬されている。

帝国五将軍の中では、俺が最強とされているが、俺はフラン将軍が最強だと思っている。

彼女が本気を出して戦っているところを俺は見たことがない。

だが、振る舞いでわかる。彼女は間違いなく強い。

彼女なら、もしかしたら俺たちの味方になってくれるかもしれない。

だが、女王への忠誠心が半端じゃない。

どうして今の女王へあそこまで忠誠を誓えるのか俺にはわからないが、

そこが難しい所だ。だが、説得出来るようなら、説得したい」レスティが語る。

「なるほど。フラン将軍、覚えておきます。平和派には、リーダーがいるのですか?」

セフィラが続けて問う。

「王女クレリアが、平和派のリーダーとなっている。女王エリシアの唯一の子だ。

実の母と戦うだけでも辛いだろうに、気丈に戦っている。

俺も何度も城で話をしたことがある。考えのしっかりした、出来た人間だ。

彼女とは、是非合流して話をしたい」レスティが王女の事を話す。

「王女と合流することが第一の道ですね。わかりました」セフィラが頷く。

歩いていくと、カストル砦が見えてきた。

「もうすぐ、カストル砦です。レスティ達が先行すれば警戒されるでしょう。

戦いになるかもしれない。私が、先に行ってきます」セフィラが先行する。

「頼む。もし話をしてくれるなら、俺が部下たちを置いて一人で話に赴こう。

一人なら、警戒はされないだろう」レスティが提案した。

「わかりました、少し時間がかかるかもしれませんが、またここへ戻ってきます。

誰かを連れてくるかもしれません。待っていてください」セフィラがカストル砦へ歩きだした。

レスティ達がそれを見守る。敵国の将が、協力を申し出るなどとんでもない話だ。

あまり期待しないほうがいいだろう。最悪なのは戦いになってしまうことだ。

それは避けたい。

長い間、待った。そして、セフィラが一人で戻ってくるのが見えた。

「どうなった?」エイルが待っ先に訊いた。

「事情は説明しました。話を直接聞くため、覚悟があるならレスティ将軍が一人で来い、

一人で来るなら戦いはしない、とのことです。

もちろん私も同行します。どうしますか、レスティ?」セフィラが問いかける。

レスティは考えた。

ここで一人で赴き、もし砦の中で囲まれて狙われたら終わりだ。

部下達を残して一人で死んでしまう。

しかし、自分たちは最初この砦を攻め落とそうとすらしていたのだ。

その償いをしなければならない。

カストル砦の者は一人で来るなら戦いはしない、と言っている。

リスクは背負わなければならない。なにせ、戦力が欲しいという無茶な要求なのだ。

「わかった、一人で行こう」レスティが決断した。

「おい、レスティ、状況がわかってるのか。お前一人で死んじまったらどうする。

もちろん、セフィラを信じないわけじゃない。だが、全ての可能性を考えておかなきゃいけない」

エイルがレスティを止める。

「わかっている。しかし、ここでカストル砦の者を信じられなければ、

どうして相手がこちらを信じてくれようか。

こちらから、信じるんだ。これがもしただの理想論で終わってしまったときは、

部隊を頼む。エイル、もし俺が死んだら部隊を頼れるのはお前しかいない」

レスティが語った。

「わかったよ。そんなお前だから部下もついてくるんだろうな。行ってこい」

エイルが承諾した。

「必ず戻る。セフィラ、行こう」レスティが歩きだす。セフィラも歩きだした。

「私たちを、信じてくださるのですね」歩きながらセフィラが言った。

「ああ。話す機会を作ってくれて、感謝する」レスティが礼を言った。

二人が歩いていく。カストル砦の入り口に辿り着いた。

入り口の兵がレスティを凝視している。

部隊長らしき人物がレスティ達の前に現れた。

「本当に一人で来たのだな」部隊長がレスティを見ながら言った。

「はい。この武器も預けます。ただし、このぼろぼろの刃。これは大切なもので、

手放すことは出来ません。このぼろぼろの刃では戦えないでしょう。

これだけは、どうか持たせてください」

レスティはそう言って、自分の武器を部隊長に預けた。

部隊長はそれを受け取り、考え込んでいる。

「セフィラ殿の言う通り、今のところは信頼出来る将軍のようだ。

わかった、この砦の主、ローウィン様の元までお連れしよう」部隊長がそう言って、

レスティを招く。セフィラはほっとした。

砦の中に入る。砦の中の兵が、レスティの方をじっと見ている。

砦を進んでいくと、部隊長が止まった。

目の前に背の高い男がいる。

「この方が、ローウィン様だ。ローウィン様、将軍をお連れしました。

将軍から武器も預かりました」部隊長が言う。

茶髪の、彫の深い顔だちをした男。この男が、カストル砦の主。

「貴方がレスティ将軍か。セフィラの村を救ってくれたこと、感謝する。

しかし、本当に一人で赴き、武器まで預けるとは。勇気があるのか、無謀なのか」

ローウィンは考え込んでいる。

「いや、しかし、これは勇気だろう。帝国を裏切ってまで村を救った人物だ。

私たちを、信頼してくれたのだな」ローウィンが言う。

「こちらから信じなければ、到底こちらを信じてもらうことなど出来ません。

こちらは無茶な要求をしようとしているのですから」レスティが返す。

「兵力のことか。兵力を我が砦が出せたとして、それをどうする?」

ローウィンが問う。

「その兵力と共に、南のクアトル砦から平和派と合流します。

南の砦は平和派が制圧しているのです。

そして王女クレリアと会い、団結して帝国と戦うつもりです。

帝国に残る将軍は、三人。

もちろん小規模な部隊は他にも存在しますが、三将軍の三部隊を打ち破ることが出来れば、

女王の元へたどり着くことも不可能ではありません。

始めは我々の部隊だけで行こうと思いましたが、

今の平和派は押されている。我々の部隊だけの力添えでは、戦力が足りない。

そこで、共に戦ってくれる兵力をこの砦に求めに来たのです」レスティが説明した。

「なるほど。しかし、敵国の将と共に戦う兵士がいると思うか?」

ローウィンが厳しく問いただす。

「ローウィン、もうレスティは敵国の将ではありません。この国を救う希望でさえ思えます」

セフィラが助け舟を出した。

「心情の話だ。今は味方とはいえ、元は帝国の将軍。

兵士たちがレスティ将軍を信じきれるかどうか」ローウィンは険しい表情をしている。

「私がいます。自分を高く評価するわけではありませんが、

私に対しては信頼を兵士たちは置いてくださっているはずです。

その私が、レスティを信じている。それでは不十分ですか?」セフィラは真剣だ。

「今、戦わなければ帝国の平和派は殲滅されてしまいます。

そうなれば、残りの三将軍をヘインセル侵攻に回すことが出来る。

帝国の将軍は強い力を持っていると聞きました。

ヘインセルを救うには、今、立ち上がらなければならないのではないですか」

セフィラが説得を続けた。

「確かに、さらに帝国の将軍が攻めてくるのは脅威だ。

レスティ将軍が寝返ってくれたから助かったものの、将軍一人に村が滅ぼされる所だった」

ローウィンは考え込んでいる。

「待っているだけでは、何も出来ぬか。確かに、戦うべき時が来ているのかもしれない。

しばらく時間をくれ。兵達に、話をしてみる」ローウィンが決断した。

「私は賛成です。私からも兵達に交渉してみましょう。この将軍は、信頼出来る」

近くで話を聞いていた部隊長が言った。

二人が兵達の元に向かっていった。号令をかけている。

セフィラと二人でその場に残ることになった。

「すまない、セフィラ。助かった」レスティが助け舟を出してくれたことに感謝した。

「いいのです。今は戦うべき時。交渉が、上手く行ってくれるといいのですが」

セフィラは交渉がどうなるか案じている。

ローウィンと部隊長が兵たちの前で話をしている。

「無茶な話だというのは、わかっている。しかし、彼は信頼出来る将軍だ。

彼のおかげで村は救われたのだ。彼自身も、危険に晒される覚悟で。

今、ヘインセルのために立ち上がるべき時が来ている!

覚悟のある者だけ、前に出てくれ!」

ローウィンが号令をかける。

しばらくの間、誰も動かなかったが、一人の兵士が前に進み出て、

それに続々と別の兵士たちも続いた。

全員の兵士が、前に出た。

「ローウィン様の命令なら、私たちは従う覚悟です。ヘインセルのため、戦いましょう」

兵士たちが言った。

「お前たち」ローウィンは涙ぐんでいる。

「すまない。レスティ将軍と共に帝国の強硬派と戦ってくれ。ヘインセルを、頼む」

ローウィンが震えた声で言った。

部隊長とローウィンはレスティ達の元に戻った。

「兵たちは来てくれるようだ。それも、全員だ。私たちの部下を、よろしく頼むぞ。

レスティ将軍」ローウィンがレスティに告げる。

全員。レスティは驚いた。それだけの信頼を、この人は得ているのだ。

そして、兵たちは皆勇敢だ。

「感謝します。必ず、強硬派を打ち破って見せます。あなたの部下達と共に」

レスティが礼を言った。

こうして、頼りになる戦力がレスティの部隊に加わった。

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