北の砦
フランは暗い気分だった。
あまりにも、あまりにも酷い命令だ。ラドの街の者を皆殺し。
あの街の者にはなんの罪もない。
自分の砦が近くにあることもあり、世話になった事も何度かある。
自分はどうするべきなのか。
間違った道を歩んでいることはわかっている。
それでも、エリシア様を裏切れない。
だが、この命令はあまりにも。
フランは自分のすべきことを決めた。
フランはラドの街よりも先に、一人で北にある自分の管轄の砦に向かった。
砦につくと見張りの兵士が気がつき、声をかけてきた。
「フラン将軍!お久しぶりです」兵士は嬉しそうだ。
「最近顔を出せていなくてすまなかったな。砦の兵士に相談したいことがある。
皆を集めてくれないか」フランが暗い表情で言う。
「わかりました、すぐに兵達を集めましょう」フランの雰囲気を察した兵士がすぐに言った。
フランは砦に入った。
中央にある広間で考える。
どこまでも中途半端な自分。
そして今、砦の兵達までも巻き込もうとしている。
皆は許してくれるだろうか。
私は将軍の器などではないのかもしれない。
「フラン将軍、兵達を招集しました」兵士がやってきてフランに告げた。
「ありがとう。皆久しいな。今日は皆に話があって来た」フランが語りだした。
「話とは?」兵士たちが訊いた。
「ラドの街の者を皆殺しにせよとの命令が出た。エリシア様の命令だ」
フランが命令の内容を公開した。
兵士たちがざわつく。
「しかし私にはラドの街の者を皆殺しにすることなど出来ない。
だが、グラリアが様子を見に来る。街を焼き払い、皆殺しにしたことにして、
街の者にはヘインセルまで逃亡してもらうつもりでいる。
だが、そのためにはこの北の砦を通らなければならない。
皆に話があるとはそのことだ」フランが説明を続けた。
フランは地面に膝をつき、地に頭をつけて頼み込んだ。
「頼む、どうか、見逃してやってはくれないか。
見逃したことが気づかれれば、お前たちも危ないことはわかっている。
しかし、ここの北の砦以外から脱出するのは難しいのだ」
「フラン将軍!顔をお上げください!」兵士達が慌てて言った。
「将軍は間違っておりません。いくらでも見逃しましょう。
皆もそうだよな?」一人の兵士が皆に問いかけた。
皆、次々に頷く。
「すまない」フランは顔を上げた。
泣きたくなる衝動があった。
しかし、将軍が皆の前で涙など見せられない。
ただただ、砦の者たちに感謝するばかりだった。
「街の者たちが来たら、フラン将軍に見逃すように言われたと伝えます。
この道を通しましょう。ここは、大丈夫です。街にはもう行かれたのですか?」
兵士が訊いた。
「ありがとう。街にはまだ行っていない。先に、ここに話を通しに来た」
「では、街にお向かいください。我々は準備をしてここで待っています」
兵士がフランを促した。
「すまない。お前たちには、迷惑をかける」フランが謝った。
「とんでもない。よく、相談してくれました」兵士たちが答えた。
「ありがとう。街に、行ってくる」
フランは砦を後にして、ラドの街へ向かった。




