14話 過去と未来
シャアァァ…
シャワーを浴びながら考える。
口唇に触れた柔らかな温もり。
ずっと求めていた安らぎ。
優しさ。
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時は1990年、バブル期最後の年だった。
私の父親は大手パソコンメーカーの秘書をしていた。
秘書ってのはいわゆる社長の何でも屋だと父から聞いた。
海外の取引先に行くときの護衛とか、通訳とか…とにかく何でもやってたそうだ。
母は有名なデザイナーでジュエリーから和服、生活インテリアまで…そこそこ儲かっていたらしい。
バブルがはじけた年のある春休みの日、父親の会社が倒産した。
バブルがはじけた煽りで父の会社も多少のダメージは受けたそうだが、これからを担うパソコン機器だけに倒産など有得ない事だった。
後になって分かった事だが、父の会社が国内で多く納品していた企業がフロント企業だったらしい。
あ、フロント企業ってのは暴力団が一枚噛んでる企業の事で。
当時恐れられていた『連鎖倒産』だった。
それから父は再就職もせず、家で酒に溺れて暮らした。
ただでさえリストラされる人が多い中、40過ぎのおっさんが再就職するところなんてなかった。
母はそんな父を見かねて、昼夜を問わずに馬車馬のように働いた。
お陰で元々体の弱かった母は体調を崩して入院した。
それから数ヵ月後に私が生まれたそうだ。
しかし父では私を育てきれない為、私は祖父母たちの家に預けられた。
その間、母の看病は父がしていたらしい。
やっと母が退院してくると聞いた。
そして母が家に到着してから1時間後、祖父母と私が家に着いた時。
家の中は血の海だった。
私の父親は将来を悲観して、幼い私を残して母と無理心中をしたのだった。
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シャアァァ…
水が表面をなぞるように流れる鏡に手をつき、鏡の中の自分を見る。
平均以上とは言えないが、しっかりと存在感のある年頃の女子の体つき。
あの頃から年月は流れ、赤ん坊だったあさも高校生になった。
『この子の名前はあさ。どんな日でも夜は明ける、それを知って欲しいから』
病院を出る前、母が言っていた言葉だと言う。
母の願いを受け継いだ名前、そう思いたかった。
その名の通り暗いイジメと言う名の夜も耐え忍び、無事に朝を迎えた。
高校生になって自分もそういう歳になったんだなぁ、と思う。
部長の優しいくちづけ。
何で自分なんかにしたのかは分からないけど。
のわあああぁぁぁぁ〜〜ーー!!
おっくれてすいませぇぇーーーーん!!
もー土下座土下座土下座っ
すいませんすいませんっ(大泣
あ、その前にどれだけ待ってくれた人がいるんだろう……?