12話 想いを缶詰に【2】
からん……ごろごろ
「あーあ、崩れちゃったか。残念」
彼女はそう言って缶開けを再開した。
オレにとっちゃー大チャンス。
「あさ…」
「は?何?……!」
缶を左手に持って振り返ったあさの肩から5cm先には皆堂の整った顔があった。
皆堂がまた名前を呼び、一歩を踏み出す。
「あ!そこは危な……!」
ずりっ
!
ずべしゃっ
「だから危ないって言ったのにさー、聞ーてねーんだからホント困るよ」
急に外がガヤガヤと騒がしくなった。
からからと部室の扉を開けたのは他の1年たち。
「あっ、もう来てる人いんじゃん。ってゆーか英輔なんで寝てんの?」
「もーしかして缶に躓いてコケたとか?」
「うわダサくね?」
先頭の男子が口々に言う冷やかしを黙って耐える皆堂。
まぁ元はと言えば自分が蒔いた種は自分で刈り取らねばならない。
そんなトコかな。
で、かくして皆の協力により15分後の部活開始時にはかご10個がテニスボールで埋まっていた。
峯「おーおー、やっぱスゲェなぁ。缶100個分のテニスボールってのは」
1年(やっぱり100個あったのかよ!!)
1年の一斉ツッコミ。
そー思うのも無理は無いと思うけど……(汗
峯「意欲の有る1年生諸君!今日もテニスコート50周だ〜!!」
1年「……え〜〜〜〜!!またぁ?!」
峯「えーではない、はいだろはい」
1年「……はい」
峯「ほら行った行った」
……部長ドSですか!?
峯「お疲れさーん、今日の部活はこれで終わり。あ、当番の一年は片付けしといてね」
私当番じゃん!
うわ〜ん、今日アニソン取り込もうと思ってたのに〜。
がちゃがちゃ…
ごそごそ…
カシャッ
部室の鍵を掛けて振り向くと峯部長がいた。
「っ何ですか部長!なんかまだやる事ありましたか?」
峯「…別にないんだけどな、俺の用事はあるから」
「?」
結構女子の中では背の高い私でも、高校3年の男子にはかなわない。
部長って180ぐらいあるんじゃないかな?
「何の用…ですか?」
峯「その前に眼鏡外しなよ」
「…こうですか?」
峯「そうそう」
にっこり笑った先輩の顔は校舎の窓ガラスに反射した夕日の逆光でよく見えなかった。
良く見ようと目を細めたとき、口唇に暖かいモノが触れた。
「!?」
それは一瞬だったから良く分からなかった。
慌てて見上げると笑みを浮かべた先輩がいた。
峯「あさちゃん可愛いんだからもっと自分に自信を持ったほうがいいよ、って俺が言えた義理じゃないんだけどね」
ぽかんとしている目の前の後輩がとても可愛かった。