君の声が聞こえる
「続いてのニュースです。おととい岡山県備前市で警官13名が惨殺された事件について、警視庁は現在逃走中の国内6人目、7人目の能力者の犯行とみて調べを進めていることが判明しました。現在逃走中の能力者の行方は分かっておらず…」
ラジオから身に覚えにある地域のニュースが流れている。
ラジオから流れる国内7人目の能力者本人である僕、瑞牆 巧弥は現在、兵庫県の山のど真ん中を歩いている。
交通手段は徒歩なワケだから、このスピードでも仕方ないといえるだろう。
「あー、足が痛い。」
さすがに元帰宅部である僕に山登りはキツイものがある。
しかもこの二日間ろくに食べ物を食べていない。
いわゆる絶体絶命というやつだ。
「出雲にあんなこと言っておいてておいて情けねーな。」
出雲とはあの日以来会っていない。
ニュースの内容からは、現在も逃走中のようだが実際は分からない。
デモを起こす…か
今更だけど本当に何も考えてないことがわかるな。うん
ジジジ…ジジ…
ラジオの電波が届かないとこまで来たらしい
ところで今僕はどこを目指していると思う?
ヒントは東に進んでいるってところ。
東京…は最終目標だな、デモ起こすし
正解は名古屋だ。
本州の真ん中あたりに位置する名古屋に向かっているわけだが、なぜ名古屋なのか?
それは僕の足元をチョコチョコ歩くこの柴犬に聞いてほしい。
なんとも生意気な奴で僕に色々と指示を出してくる。
全く何様のつもりなのか…
ガブ!
「っいってえ!?」
どうやら噛み付かれたらしい。
くそ!狂犬病を持ってないだろうな!?
「失礼だぞ、チビ」
頭の中に声が響く。
「うっせーよ、このクソ犬が!」
そう、今頭の中で響いた声はこのクソ犬のものなのだ。
なぜ、そんなことが可能なのか?そんなことは僕が聞きたい。
どうやらこのクソ犬いわく「テレパシー」
が使えるらしい。
しかも、自分の意思を伝えるだけでなく相手の考えていることも分かってしまうというハイスペックなやつだ。
そして何より、こいつの2.5m内に入った人間はその範囲から出ても1時間ほどはどこに居てもこいつと心が繋がっているらしい。
「全く、犬のくせして僕よりも能力を使いこなせてるのが腹立つな!」
ガブ!
「っがぁ!」
また噛み付かれた。
かれこれ3時間ほどこのやり取りの繰り返している。
もう耐えられないぞ。
「オイ!そろそろ教えてくれよ名古屋を目指す理由ってのを!ただでさえもう空腹と疲労で死にそうなんだ!」
犬を問いただす。
「ハッピーだ。」
?何がハッピーだというのか?
「ハッピー。俺の名前だ」
…ぷっ
ガブ!
「あだぁ!」
噛み付かれた…
「それで?ぷ…はっぷぷぷ…ハッピーはなんで俺を案内してくれぷぷ…んの?」
ダメだ、こいつの声と名前のギャップに耐えられない…こいつ声が無駄にダンディーだから…ぷっ…
「おい、これ以上笑うと噛むぞ。」
ハッピーぷ…が怒りを露わにする。
ガブ!
!?!???!!
「っっっっっつ!?」
声で言い表せないほどの痛みを僕の下半身、主に下腹部あたりを襲う。
男として絶対に攻撃されたくない場所を噛まれた…それはもう死ぬほど痛い。
「なにしゃがんだこのクソ犬がぁ!」
「ふん、お前が悪いんだろう。」
ハッピーは冷静に返答を返してくる。
………ふぅ…なんとか持ち直してまた歩き始める。
「それで?なんでなんだよ?」
今度は真面目に聞く。
情報収集は必要なことだ。
「お前に会いたいという奴がいてな。」
ハッピーが答える。
僕に会いたい奴?誰だろう…
いろんな憶測を立てながら僕は質問を続ける
「どうして会いたいんだ?そいつは」
するとハッピーが何秒か黙り込んだ後こう言った。
「お前の声が聞こえたと…言っていたな。」
はぁ?何言ってんだ?
僕は訳の分からないハッピーの答えをバカにしながらひたすら歩き続けた。