人間として
キーンコーンカーンコーン♪
7限目の終了のチャイム、これで僕の退屈で長い1日が終わりを告げたわけだ。
鞄を持って帰ろうとした僕をひとりの男が呼び止める。
「ちょっとまて瑞牆、話がある。」
担任の森村先生だ。
なんですか?という不思議めいた顔で先生と共に進路相談室へと入った。
まぁ、中3の夏だもんな
進路相談ぐらいするかとも思ったがどうやらそうではないらしい。
中へ入るとそこにはひょろ長い別府教頭と数学の駒沢先生がいた。
部屋中央部にある椅子に座らされると、いきなり森村先生がこう切りだした。
「お前は、能力者か?」
っ!?
僕は一瞬焦ったがバレるわけにはいかない。
バレたが最後法律という大義名分のもと僕は警察に突き出されるだろう。
そうなってしまえばどうすることもできずに殺されてしまう。
僕は自然に笑顔を作って「違いますよ?」
と言った。
その態度を見た森村先生は
「実はな、駒沢先生が数学の時間君の様子がおかしかったと仰ってな。こちらも公務員としてそういった疑惑の芽は摘んでおきたいんだ。」
やっぱり最後のアレがまずかったか。
僕は内心反省しながら、話を聞いていた。
「それで、本当に能力者じゃないんだな?」
「はい、違います。」
毅然とした態度で僕は否定する。
森村先生はタバコを吸い始めた。
生徒の前で吸うなよ。
と言いかけたが耐えた。
「瑞牆、俺はお前を信じるぞ?」
そう言って、僕の右手をガシッと掴んで森村先生は火のついたタバコを僕の右手に押し付けた。
「アァァアッ!?あつ!」
今まで感じたこともない痛みと熱をその手に抱きながら僕は扉を後ろしてに立っていた。
「クソが。」思わず口走った。
あまりの痛みに怒りがこみ上げてくる。
いや、こみ上げた怒りは別の怒りだ。
……………バレた……………
前に立っている3人の顔を見ると驚いた顔、怒りにも似た顔、そして汚物でも見るかのような顔が並んでいる。
やってしまった。
これから先何があってもバレるわけにはいかなかった僕の能力がバレた。
「しゅ…瞬間移動?」
駒沢が言った。
僕は勢いよく反転して扉を開け、廊下に飛び出す。
「教頭は警察に連絡!駒沢先生は俺と来てください!」
森村の怒号が飛んだ。
生徒の波をかき分けて僕は走る。
絶対に捕まるわけにはいかない。
三階建の校舎の中央階段を降りて一階へ
そして下駄箱で靴に履き替えたところで僕を呼び止める声がした。
「なにやってんだ?巧」
「和也、渡島!?」
最悪のタイミングだ。
すぐ後ろで森村の怒鳴り声がする。
「待て瑞牆!この能力者がぁ!」
それを聞いた2人の顔がこわばる。
2人を背に僕は玄関口まで走ると、2.5mという短い距離を一瞬で移動して見せた。
他の人間からすれば、そこにいたはずの人間が足を動かさずに一瞬消えてまた現れるといった感じで見えるはずだ。
2人はきっと唖然としているだろう。
そして、僕との縁を切るだろう。
それでいい。それがこの国での常識なのだ。
人間として平和に暮らすためには僕のような者と関わるべきではない。
そう心の中で自分をなだめながら、僕は足を動かした。
ハァッハァッハァッ
走り続けて何分経っただろうか心臓が潰れそうなほど痛い。
僕が通っている学校は山の上に建っており麓の町までは曲がりくねった一本道だ。
下り坂ということもあってペースは速いのだが、なにぶん帰宅部である僕にとっては地獄である。
しばらくすると目の前に一台のパトカーと2人の警官が立っているのが見えた。
いくら通報されたとしても早すぎるだろと内心思いつつも僕は走り続けた。
警官は2人、僕の能力である「瞬間移動」をもってすれば余裕でかわせる。
そして、警官の目の前で立ち止まると警官が話しかけてきた。
「こら君、もう授業は終わったのかね?」
どういうことだ?僕の特徴ぐらい聞いているだろうに僕のことを怪しまない?
とりあえず
「はい、先ほど終わったところです。用事があって急いでて…」
すると警官はそうか、と言いながら通してくれた。
本当に知らないのか?と思いながら僕は検問を通過する。
「あ、そうだ」
警官の声にギクリとしたが
「この地域でまた1人能力者が見つかった。君も気をつけて帰れよ」
とにこやか顔で言ってくるので
なにやってんだ警察はと呆れながらその場を後にした。
ピーピー「本部よりその山の頂上の学校でまた1人の能力者が発見された。能力者はその道を通ると予想されるので注意してくれ。」
その無線を聞いた警官のひとりが言った。
「かぁー、同じ地域で2人もか!こりゃ大ニュースだなぁ。」
ちょっとして若い警官が
「先輩!?もしかしてさっきの子が!」
2人の警官は急いでパトカーに乗り込み先ほど走り去った少年を追った。
ハァ…ハァ…
荒い息を抑えながら、僕は町唯一の家電量販店の店頭に並べられたテレビを見ていた。
そのテレビには、僕のことは放送されていない。
その代わりあるニュースが流れていた。
それは、僕の学校の建つ山と谷のように町を跨いだところにある山の少年院で1人の能力者が発見されたというニュースだ。
…なるぼど、さっきの警官は学生を守るためにあそこに…
といっても僕のことがニュースに流れるのは時間の問題だ。
急いでこの町を離れなければならない。
僕は急いで寮に向かった。
「自転車に乗ればよかったな…」