怪人
これはあくまでも特撮です。
怪人、現る。
「きゃあああああ! たすけてええええ!」
街に響く悲鳴。
人混みを縫うように駆け抜ける足音。
一人の女性が必死の形相で逃げ惑う。
怪人がそれを追いかける。
緑色をして長い尻尾の生えた、
二足歩行のトカゲ男。
右手に剣、左手には盾。
トカゲ男は凄まじい速さで追い詰める。
人々は慌てて道を空け、なんだなんだと振り返る。
まあ、みんな考えることは同じ。
「なんだ、何かの撮影か?」
「ああ、そうだろうな。カメラマンは?」
「いるだろ、どっかに」
そして、みんなすることは同じ。
スマホにガラケーをやおら取り出し、撮影開始。
そして飛び散るシャッター音とツイートの電波。
とうとう女は追い詰められた。
「ちょっと! どうしてみんな助けてくれないの!?」
「ぐへへへ、死ねぇ!」
「いやあああ! やめてええええ!」
いやらしく笑うトカゲ男は、剣を振り上げる。
さあ、ヒーローが登場する瞬間だ。
「ライダーかな。それとも戦隊物かな」
「さあな――うん? 主役は来ないのか?」
そう、ヒーローは現れない。
振り上げられた剣はそのまま振り下ろされる。
ずばっ! ずばっ! ずばっ! ずばっ!
アスファルトに飛び散る血しぶき、肉の破片。
しかし、人々は気付かない。
尚も一層、鳴り続けるシャッター音。
「ぎゃああああああああっ」
すでに常軌を逸する女性の絶叫。
もはや演技の粋を超えている。
「……熱演だな」
「あ、ああ……それに、リアルだよな……」
「えーっと、あれだ。これは事件の発端なんだ」
「そうか。まず犠牲者が出て、タイトルが」
「そうそう、怪人トカゲ男現るってさ」
そう、人々は気付かない。
それは何故か。
それは勿論、気付きたく無いからに決まっている。
「い、一応、警察に――」
「え?」
「……ああ、いや、なんでもない」
「い、いこうか。先方との約束が」
「ああ、急がなくちゃな」
そう、人々はみんな忙しい。
誰も構ってはいられない。
でも、心配はいらない。
ツイートぐらいは、してくれるから。
(完)
参考元:そういえば、ヱヴァンゲリヲン「Q」の前座で、ジブリブランド「炎の七日間」の短編映画がありまして、そこで現れた巨人を人々はケータイでひたすら撮影しているシーンがありました。あれは物凄く不気味だった。




