「この小説を読破しなければあなたは一ヶ月以内に不幸に見舞われます」
有名な掲示板の、「どうすれば閲覧者数が増えるのか」というテーマに出てきたお題で、一作書きました。
その時、少年が開いたそのリンクの先に踊っていた文字はこうだった。
「この小説を読破しなければあなたは一ヶ月以内に不幸に見舞われます」と。
一昔前、自分の携帯メールのタイトルにそういう文字が目に付いた時期があったのを思い出す。
少年は苦笑いをし、なんとなく気になったその小説に、眼を通し始めた。
そこはとある小説サイト。最近書籍化が目立ってきたため、様々なメディアで紹介されていた場所だった。
時間を忘れて読む事も多く、夕餉を知らせる母親との摩擦の原因にもなっていた。
彼が読み始めたその小説は、ある少女の物語だった。
日記めいた内容から始まる少女が徐々に病魔に侵されていく。そんな内容のものだった。
日付が進むにつれて、徐々に腕の力が入らなくなっていく描写がずいぶんリアルだった。
部屋の明かりを付けずに、モニターの灯りのみが少年を照らしている。
夏の終わりから始まったその日付は、章の構成から見るに秋の終わり、最初の雪が降るまで続いている。
少女は、秋のはじまりには文字が書けなくなっていたらしい。
「……ここからは、わたしのたいせつな人に文字を綴って貰います」
描写は、隣にいる人が如何に大切な人かを記す文章が暫く続いた。
だが、秋の中ごろには熱が出た。おなかが痛い。首以外には動かない。そういう描写が目立つようになっていった。
少年は、少し心が締め付けられる。テレビでよく見る、涙を誘う難病患者のドキュメンタリーが、嫌いだった。
涙しかない結末を、どうして見なければならないのか。
彼はこのリンクをクリックしてしまった事を後悔し始めた。
秋が終わる時、少女の死亡を知らせる日記があった。
ほら、見た事か。彼はそう呟く。
だが、まだいくつかのリンクが続いていた。
最初の文言どおりだと、その残りのリンクもクリックしなければならない。
そうしなければ、少年は不幸になってしまうのだ。
死の先に、何があるのだろう。
少年は、単なる興味から、その次のリンクをクリックした。
少女は、最初から眼が見えていなかった事が記されていた。
この日記は、少女ではない誰か――恐らく、彼女の「大切な人」が綴っているようだ。
彼女は最後まで、戦って亡くなった。そう書いてある。
今日、雪が降りました。そう書いてあった。
そして、次のページで、その小説は最後のページとなっているようだった。
少年は、そのリンクをクリックする。
そこには、たった一言。こう記されてあった。
「つぎは、あなたの番です」と。
少年は、息苦しさを感じた。
何が自分の番なのか。この不可解な文句で、一体どのように不幸が回避されたというのか。
彼は、ブラウザを閉じるボタンを押そうとするが、右手に力が入りづらくなっており、数度のクリックを要した。
だが、消す瞬間……一瞬スクロールした画面のその先には、「次の話」のリンクが見えたような気がした。
閉じた後、その小説をいくら探しても、再度見つかる事は無かった。
少年は、一ヶ月後、ある病でこの世を去ってしまった。
彼がうわごとのように、呟いていた言葉がある。
「あったんだ。最後のページがあったんだ」と。
ダミーのリンクのずうっと下に、巧妙に隠された本当のリンク。最後のページへのリンクには、死神が笑う画像が隠されていたと少年が知ったのは、もう眼が見えなくなってからの事だったという。
「この小説を読破しなければあなたは一ヶ月以内に不幸に見舞われます」
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なぜなら、「彼」が気まぐれを起こした時しか、その小説は読めないから。
運よく最後のページを見つける事が出来た人は、まだ某インターネット掲示板の一部にしかいないらしい。
※これを読んでも呪われません。2chにて晒し中です。