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あるコンビニシリーズ

あるコンビニのクリスマス

作者: KG

 本当は25日までに書き終えたかったんですけど、想像以上に時間がかかってしまいました;

 で、でも今はまだ25日の27時ってことでギリギリセーフ! というのはどうですか? ダメですか? ダメですか。

 クリスマスにコンビニで仕事をしている彼らを見守ってくれたら幸いです!

「いらっしゃいませー! ただいまピザまん割引中でーす! ぜひお買い求めくださー!」


 コンビニエンスストア『列島』男ではあるが看板店員(?)の桐嶋アキラが今日も変わらず声を張る。

 現在午前9時過ぎ。

 クリスマスだというのに、コンビニはいつもと変わりなく盛況――といっていいのかは分からないが、大体いつもと同じ様子である。

 アキラは店の外へと目をやった。

 外は晴れてはいるものの、粉雪がちらほら降っている。クリスマスには絶好の天気と言えるだろう。

 外は仲のよさそうなカップルが歩く姿も見える。

 手を繋いで歩く二人の姿はとてもほほえましい。


「しかしアッキーはいつしかそんなカップルに嫌悪感を抱くようになる。妬ましい。羨ましい。その邪悪な思いは、やがて憎悪となりアッキーは道行くカップルを襲うようになるのだった。そしてアッキーの残虐なる犯行はカップルたちの記憶に遺恨を刻みこみ――」

「店長、勝手に変なナレーションを挟まないでください。あといい加減アッキーって呼ぶのやめてください」


 湿度90%は超えているだろう目で店長――新島秀雄を見るアキラ。相変わらず野球選手っぽい名前だ、と思う。名前なんだからそう簡単に変えようが無いのは分かっているけれど。

 アキラからそんな視線を受けつつも、店長からは全くの反省の色が見えない。反省していたら20も半ばのいい年をした男が『てへぺろ』だなんてお茶目なリアクションはしないだろう。

 アキラのイライラゲージが溜まってゆく。


「アッキー、彼女とデートできないからって他人をひがむのは止めなよ。男の嫉妬は見苦しいぜ?」

「別にオレ彼女いませんし……。というか店長、彼女いたらバイトすっぽかしてデートしてきていいんですか」

「いいわけないでしょ。デートと仕事、どっちを選ぶというんだアッキーは!」

「仕事に彼を取られた女ですか店長は……」


 アキラは呆れ顔で店長を見る。


「そういう店長こそ彼女とデートしてきたりしないんですか」

「……しろ」

「え?」


 店長がぶつぶつと何かを呟いている。

 アキラは耳を澄ませて店長が何を言っているのか聞き取ろうとする。


「……リア充……爆発しろ」


 すると店長は何を思ったか店を飛び出し、手をメガホン代わりにして、


「クリスマスなんかクソッ喰らえ! 非リア万歳!」


 なんか突然叫びだした。

 慌ててアキラは店長を店内へと引っ張り込む。


「ちょ、店長! あんた突然何しやがるんですか!」

「うるせぇ! これが叫ばずにいられるかってんだ! なんでアッキーこそ彼女いないのにそんなに冷静なんだよ!」


 ああ、店内のお客さんたちからの視線が痛い。

 視線に殺傷力があったら自分は既に串刺しになっているだろうなどと思いながら、店内にいる客がみんな常連さんばかりで良かったと思った。

 そんな時である。


「はぁ、相変わらずねーあんたは」


 一人の女性客が店内に入ってきた。

 素早くアキラは、


「いらっしゃいませー!」


 にこやかな営業スマイルを繰り出す。

 さっきまでのやり取りがまるで嘘のような対応の早さだった。


「おっす新島。クリスマスだってのに随分不景気な顔してるわねー」

「……玲子(れいこ)か」


 店長――秀雄の態度がちょっと苦い感じになった。


「店長、こちらのお客さんと知り合いなんですか?」

「知り合いっつーか、まぁ……」


 なんだか店長の歯切れが悪い。

 そんな店長の言葉を引き継いだのは、玲子と呼ばれた女性客だ。


「知り合いっていうか、腐れ縁ってやつかしらね? あたしと秀雄は」


 玲子はにしし、と笑っている。


「腐れ縁? 幼馴染っていうやつですか?」

「幼なじみではないわな。玲子とは中学からの付き合いだし」


 つまらなそうな顔で言う店長。


「もしかして、昔の店長の彼女さんですか?」


 とアキラが言った途端である。


『ないないないない!』


 店長と玲子は同時に首と手を振りながら否定した。


「んで? 玲子お前、何しに来たんだよ」

「何って普通に客としてきたのよ。後ついでにクリスマスなのに彼女もいないあんたのザマを見て笑ってやろうかとも思ってね」

「お前に売る品物なんてねぇ! さっさとどっかに行きやがれ」

「店長いつも言ってるじゃないですか。お客さんは神様だって」

「待ってくれアッキー。こいつは害虫であって、決してお客様なんかじゃないんだ」


 その店長の言葉に、玲子の瞳が凶暴に輝いた。


「ほう……新島、あたしを害虫呼ばわりとは随分偉そうになったもんじゃない」

「おいおい俺とやる気か? 女だからって容赦しねぇぞ」


 二人とも「コホー」などと息を吐き、場は急転直下。まさに一触即発の危機的状況となった。


「待ってください店長。クリスマスに男女のすることは愛を育むことであって、決して喧嘩をするものではありません」

「俺を止めないでくれアッキー。この(アマ)とはいつか決着をつけなければならないと思っていたんだ」

「そうそう、少年邪魔をしないでちょうだい……って、え? きみがアッキーくん?」


 突然玲子の矛先が店長から自分に向かって、戸惑うアッキーもといアキラ。


「えーと、アッキーではなくてアキラですけど……どこかでお会いしたことありましたっけ?」


 思案顔のアキラに向かって、玲子が態度を急変させ、朗らかに話しかける。


「いやーきみがアッキーだったのかぁ。いやね、うちの生徒たちが近所のコンビニにかわいいアルバイトがいるって結構前から噂になってて」

「うちの生徒?」


 アキラの頭上に?マークが浮かぶ。


「アッキー、信じられないかもしれないが、この女は高校教師なんだ」


 ほら、すぐそこに見えるだろ? あそこの高校。と店長は補足する。

 アキラは数秒固まって、


「えええええ!? 玲子さん学校の先生なんですか!?」


 普段冷静沈着なアキラも、この時ばかりは驚きを隠しきれなかった。

 うちの店長なんかの知り合いに、学校の教員だなんて人物がいるとは思いもよらなかった。


「な? 驚くだろ?」

「ええ、驚きました。まさか店長みたいな不良を大人にしたような人物の知り合いに学校の先生がいただなんて……」


 アキラのその言葉にちょっと傷つく店長。アキラはその様子には気付かない。


「いつもうちの生徒がご迷惑をおかけしているようで」


 玲子がアキラに向かって頭を下げる。


「いえいえ、こちらがお礼を言いたいくらいです。こんなコンビニにわざわざ来ていただけるなんて。あ、そうだ割引券いります? 生徒さんの分もありますので」


 何故かこのコンビニには割引券なるものが存在する。

 まぁ店長が気まぐれで作ったのだろう。


「ほんと? ラッキー! こんな男の元でバイトなんて大変だろうけど、きみ、生徒たちからも人気あるみたいだからやめないでね! あたしもアッキーくんのこと気に入ったわ!」

「あの……アッキーって言うのはちょっと勘弁してもらいたいんですが……」

「? なんか言った? アッキー」

「あ、もうアッキーでいいです、はい」


 最近諦めがよくなりすぎている気がする。

 そうアキラは思ったが、年上の女性に対して反論できるはずもなく、ただ肯定するしかなかった。

蚊帳の外になってしまった店長は、ちょっとつまらなそうな顔をしていた。


 結局、玲子は文房具を数種類。ついでにプリンを一つ買ってコンビニから出て行った。


「店長」

「……なに? アッキー」

「友人は大切にしないとダメですよ」

「だからーあいつとは別に友達でもなんでもないって。ただの腐れ縁」


 この場面だけを見ていると、店長とアッキーどちらの方が年上なのか分からない図である。


「玲子さんの仕事が終わったら、彼女を誘ってみたらどうですか」

「は? まさかアッキー、俺にあいつをデートに誘えとでも言ってるのか?」

「はい。別に仕事はオレ一人で出来ますし、せっかくのクリスマスくらいデートしてきたらどうですか」


 店長は、突然アキラが見せた懐の深さに戸惑いを隠せない。


「なんか今日のアッキー大人っぽい……」

「ここでバイトしてたら嫌でも大人にならざるを得ませんから」


 言っている意味はよくわからなかったが、店長にはそう答えるアキラが知らない誰かのように思えた。


「いーんだよ高校生がおっさんの事なんか気にしなくて。そういうアッキーこそデートとかしないの? デートじゃなくてもクラスの連中とクリスマスパーティとか」

「オレはクラスでそこまで人気のあるポジションの人間ではないですし。友達がいないことはないですが、クリスマスなんて関係ない部活バカな奴らばかりなので、特にそういうものにお呼ばれはしてないです」


 大体、そんなものに呼ばれていたとしてもバイトがあるから行く暇なんてないじゃないですか。とアキラはつまらなそうに言った。

 仮に彼女とデートをしたいとしても、店長ならリア充死すべし! とか言いながら全力で妨害してきそうですし、とも。


「ところで店長、うちのコンビニでもクリスマスケーキの予約をしてましたけど、どこにケーキなんてあるんです?」

「ああ、ケーキなら昨日のうちに作ったぞ。俺が」


 アキラは耳を疑った。


「俺が……?」

「そう、俺が」


 それがどうかしたか? とでもいうような顔で店長がアキラを見る。


「店長、ケーキなんて作れたんですか……」

「そりゃケーキくらい楽勝よ。うちの店に並んでるものにも俺が作った商品があるぞ」


 商品登録とか、そういったあれこれの問題はクリアしているんだろうか……?

 不安に駆られたアキラだったが、ここでバイトして半年以上経つのにそういった問題はこれまで無かったことを思い出し、なんとか自分を落ち着けた。

 オレはひょっとして、想像以上にヤバいところでアルバイトをしているのかもしれない。

 アキラは戦慄した。


「大丈夫だって。今まで何事も無くやってきただろ? 大船に乗ったつもりでこれからもやっていこうぜ!」


 店長は言うが、今一信用しきれない。

 その後クリスマスケーキを予約していた主婦たちがケーキを取りに来たのだが、アキラの想像以上に売れた。20以上売れたと思う。

 ちょっとだけ店長を尊敬したアキラだった。


 新事実に驚愕しつつも特に問題も無く午前の仕事を終え、いつの間にか午後の時間帯となっていた。


「いやー店長、クリスマスだからですかね? やたらアレが売れますね」


 無表情でアキラが言う。

 それに対して店長も、


「そーね。今は性の6時間とか呼ばれる時間帯があるらしいからね。まぁね、少子化とか今の日本は言われているし、いい傾向なんじゃない?」


 という割にはこめかみに青筋を立てながら無表情という難易度の高い顔をして、アキラの話に相槌を打った。

 そう、クリスマスのせいかなのか、やたら店内にはカップルがやってきては近藤さん――もとい避妊用具を買っていく。

 その時のカップルの照れながらレジに並ぶリア充特有のオーラを発する様子が、非リア充であるアキラと店長を悪い方向に刺激した。

 最初はアキラも「はいはい幸せそうなカップルでいいですこと」などと思いながら無心でレジを打っていたのだが、近藤さんを買い求めるカップルが10組を超えたところで流石のアキラも謎の苦痛を感じてきていた。

 アキラでさえ感じるのだから、店長の感じるそれは想像を絶するものである。

 それから数時間の間、避妊用具を売り続ける機械となった二人であった。


 何時間経っただろうか。気付くと外は真っ暗になっている。

 そして店内にも人の気配はなくなり、レジには不景気な顔をした男が二人、佇んでいた。


「そろそろ性の6時間か……」


 虚ろな顔で、虚ろな声で店長が呟いた。


「ねぇ店長」

「なんだいアッキー」

「なんでオレたち、こんなとこにいるんでしょうね……」

「さぁな……彼女がいないせいじゃないか……」


 そのままレジにボーっと突っ立って、時間が過ぎて行った。

 外はいつの間にか、大粒の雪が降ってきている。明日はかなり積っていそうだ。


「今日、もう店閉じていいんじゃないですかね……」

「そうだよな……これ以上店開けていても、突然近藤さんが必要になったカップルとかしか来なさそうだよな……」


 酒を飲みたい気分って、こういう気分のことを言うのかな。なんてアキラは思ったりした。

 そのまま、5分ほどの時間が流れる。


「アッキー」

「なんです店長」

「実はさ、クリスマスケーキ1個だけ残ってんだ。俺が自分用に取っておいた、超巨大クリスマスケーキ」

「ほう」

「ほんとは一人で食べようと思ってたんだけど……アッキーも一緒に食べる?」

「いいですね。食べましょう。男二人で虚しくクリスマスを過ごしてやりましょう」


 決まればやることは早い。

 二人はにやりと笑い、レジをそっちのけて休憩室へと向かった。

 クリスマスツリーを飾り付け、ライトを点ける。

 そして売れ残りのサンタの帽子を二人は無言で装着した。ついでにサンタの衣装も着る。店長はトナカイの衣装――というよりコスプレだ。

 店長がケーキを持ってくる間にアキラは湯を沸かし、紅茶の準備をする。ナイフとフォークを用意するのも忘れない。


「アッキー……ちょっとこれ、手伝って……」


 巨大ケーキというからには、それなりに巨大なのだろうとアキラは思っていたが、店長の作ったそれは度を超えていた。

 普段のアキラなら、


「店長、流石に限度っていうものがあるでしょう。もうちょっと考えて作ってください」


 などと言っただろうが、今のアキラは流石にそんな野暮なことは言わなかった。

 アキラはケーキを安物のスチール机へと運ぶのを手伝いつつ、


「これ、二人で食べきれます?」

「いやぁ、食おうと思えば食えるだろ。そう言えば意外と忙しくて昼も夜も食べてなかったし」


 にしても本当にデカいケーキだ。ウェディングケーキ並みなんじゃないだろうか。なんと5段重ねである

 あまりにデカすぎて逆に笑えてきた。

 店長がどこから切ろうかと考えている間に、アキラは紅茶を淹れる。

 その時だ。

 みょうちくりんな音楽(このコンビニの入店したときになる音である)が鳴り響いた。

 つまり、誰かが店にやってきたということである。

 アキラはどうせカップルが近藤さんを求めにやってきたんだろ、と半ば自棄(やけ)になってレジへと向かうと、そこにいたのは――


「やぁアッキー! めりーくりすまああああああああああす!」


 と言って、その人物はアキラに向かってクラッカー(この店の売り物だ)を鳴らした。


「……水島さん? 何してるんですか、こんな時間に」


 水島さんとはこのコンビニの常連の女子高生である。

 いつも何かと『ツケ』でこの店で無料で買い物(買い物という表現が正しいのかはわからないが)をしていくお客さんである。

 突然の来訪者(というか客)に呆気にとられるアキラ。


「いやー、アッキーのことだから真面目にクリスマスだというのにバイトしてるんじゃないかと思ったからね! お姉さんがなぐさめに来てあげたわけだよ」


 むふー、と鼻息を荒くし、水島は腕を組んで偉そうなポーズを取った。

 ちなみに彼女は高校2年生なので、1年生のアキラからすればお姉さんと呼べないこともない……人物である。

 実際にはただの客と店員の関係であるのだが。


「というのは建前でね。さっきようやくバスケ部の練習が終わってお腹が減ったからさー。からあげっちでも買ってこうかと思って。……ていうか、どうしたの? そのカッコ」


 水島はサンタルックのアキラを指さして笑った。

 ちなみにからあげっちというのは、店長力作の串に刺さった唐揚げのことである。

 からあげっちが店長の自作だというのをアキラが知ったのは、今日であるが。

 というかクリスマスなのに、こんな遅くまで部活をしていたのか水島さんは。

 水島さんみたいな女子ならクリスマスなんて予定が詰まってて忙しそうなのに。彼氏がいるのかは分からないけれど、などとアキラは思った。

 彼女ならクリスマスだろうが彼氏がいたとしても部活を優先しそうだ。

 どうしたものかとアキラが思案していると、そこにまた訪問者がやってきた。


「おいーっす、秀雄元気にしてるかー? って、あれ」


 訪問者と水島が顔を見合わせる。


「中島先生? どうしてここに……」

「おいおいそれはこっちのセリフだよ水島」


 水島の次の訪問者は、なんと午前中にこのコンビニへやってきた玲子だった。

 どうやら彼女の本名は中島玲子というらしい。


「えーっと、二人はどういったご関係で?」


 なんとなく見当が付きつつも、アキラは二人に尋ねた。


「え? アッキー中島先生のこと知ってるの? 中島先生はねー、うちらバスケ部の顧問なの」


 と水島が答える。

 やはりそうでしたか、とアキラは納得した。


「で、中島先生はどうしてここに?」

「いやぁ、ここの店長と知り合いだからさ。ちょっとからかってやろうと思って」


 想定外の出来事にお互い混乱していると、


「おーいアッキー何してんの? さっさとケーキ食べよ……げっ!」


 レジの奥から店長が出てきた。


「おい玲子。なんでここに」

「あんたのことからかいに来たのよ。そういうあんたたちは何してるのよ?」


 すると突然水島が鼻をひくひくさせながら声を上げた。


「あっ! 紅茶の匂いがする! もしかして二人してケーキ食べるつもりだったな?」


 水島はにやりと笑う。


「店長、どうします?」

「ふん! これか俺とアッキーは二人で男だけのむさ苦しいクリスマスを送る予定なんだ! 女は帰れ帰れ!」


 女性二人を冷たくあしらう店長。

 しかし既に彼女らは店長の話なぞ聞いていなく、


「うっわ! このケーキすっごいおっきい! しかもめちゃくちゃ美味しそう!」

「へーえ、秀雄のやつ腕上げたわねぇ。もうケーキ職人にでもなればいいのに」


 勝手に休憩室に侵入して、ケーキを物色していた。


「…………」

「店長、諦めましょう」


 アキラは店長の肩に、手をポンと置いた。

 そして――


「メリークリスマーーーーーーーーーーース!!」


 休憩室にはテンションの高い女性の声が響く。その後に鳴るクラッカーの弾けた音。

 その声を聞き、荒んでいた男二人の心も少し軽くなる。


「さ、店長オレたちもケーキ食べましょう。放っておいたら水島さんと中島先生に全部食べられてしまいますよ」


 恐ろしいことに、水島と玲子の二人はものすごい勢いでケーキにパクついていた。

 それはもう、恐ろしいほどのスピードで。

 きっと部活に熱中していて、満足に食べていなかったんだろうなぁとアキラは推察する。

 女子があんなにカロリーの高そうなものにがっついていいんだろうか、とも一瞬思ったがクリスマスにそのことについて指摘するのは野暮というものだろう。

 それに、あの二人ならあっという間にカロリーを消費してしまいそうだし。


「おぉ~いひでおぉ。はやくしないとあたしがれんぶくっちゃうろぉ!」


 呂律の回らない声で玲子が店長に声をかける。


「……なんか中島先生、酔ってませんか」

「ケーキにちょっとだけ酒を使ってるけど、酔わねぇぞ普通」


 酒に弱いのは知っていたけど、ここまでとは……。

 そう呟き店長は青くなった。

 玲子さんが酔って昔店長に何かしたのかな、と考えたアキラだが、今のアキラにはそれを知る術はなかった。


「おぅいあっきぃ! な~になかじましぇんしぇいなんてよそよそしいよびかたするんだよぉ! れいこしゃんってよびなしゃい!」


 アキラは苦笑するしかない。

 流石は店長の知り合い、といったところだろうか。


「ほらアッキーもボーっとしてないで! クリスマスの夜はこれからだぜぇ?」


 水島さんがアキラの口にケーキを突っ込む。

 それを黙って咀嚼するアキラ。

 店長もついに吹っ切れたのか、玲子と競うようにガツガツとケーキを貪り食っている。

 そして彼は思うのだ。


 ――こういうクリスマスも、悪くないかな


 コンビニエンスストア『列島』は、クリスマスでも楽しく営業中です。


 昨年の夏ごろに書いた短編の続編、のようなものです。

 彼らに興味を持っていただけましたら、筆者の短編の『あるコンビニの日常』も読んでくださると嬉しいです。


 実はオチは『日常』の方と同じにしてみようかと思ったのですが、結局こうなりました。

 まぁたまにはこういう感じでほっこり終わるのもいいんじゃないかなーと思ったのですが、どうでしょう。

 これがほっこりなのか!? と言われると否定しきれませんが……!


 次にの彼らの登場はいつになることやら(笑)

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