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第一話 


 開いてくださり、ありがとうございます。

 僕はアカツキと申します。

 この小説は姉とのてきとうなやり取りの中で口に出したキャラを元にして書いてみました。

 とりあえず、もしお暇があるなら読んでみてください。

 どうぞ。


 季節は始まりの春。

 学生たちが心機一転、いや一新させて新たな学校生活に心を踊らす、もしくは励む時期である。

 太陽が自己主張するためなのか、その輝きを邪魔する者(雲)が一つも存在しない今日この日、市立関定中学校ではこの春から新しい学校生活を始める新入生たちの入学式が行われていた。

 式は滞り無く進み、学校長の式辞、新入生たちの点呼とスムーズに進行していく。

 ……と、所代わり、

 

「♪~~♪~~」

 

 会場である体育館から漏れる音を、上機嫌なのか目を瞑り、鼻歌を歌いながら耳を傾けている一人の少年の姿があった。その光景は、何故か一枚の絵画のように惹かれる魅力がある。

 先に断っておく、少年の容姿は特別ということはない。

 むしろまだ年齢に相応しい幼さを残した、あえて言うなら少々身体の線が女子の様に細い至極普通の少年である。

 ならば周りの景色が平均以上に美しいのであろうか。いや、そんなことはない。

 確かに咲き散る桜や、晴天の空、場所が学校とらしい条件は揃っている。

 だが、これはそんな話では説明できないのである。

 

「♪~…ん?あ、終わったんだ」

 

 式の終わりが聞こえてきたため、少年は歌を止め、何かリズムを刻むように不規則に足を運びながら正門へと向かう。

 そして門から一歩出ると、クルっと身体を反転させ、少年はこれから世話になる学校舎へ頭を下げた。

 

「これから、よろしくおねがいします」

 

 最後にニコリと微笑みを残し、今度はしっかりとした足取りで帰路に着いた。 

 

 

 

 新学年、新学期、新クラス。

 並び立つ新で活気だったり萎縮したりしている教室に、座席に座って気だるそうにする新藤竜司の姿があった。

 

(ああ、うざってぇ)

 

 頭を掻きながら竜司は思う。

 彼はクラスメイト達の浮き足立っている様子を見て不快に感じていた。

 なぜなら、この新学期やらその他諸々は小学校の時もあった。さらにこの関定中入学した一年前も、そこから過ごした時間の中でも味わっている。

 どうしてこうも皆毎回同じような反応を示すのか。

 竜司には理解出来なければ、する気も無かった。

 こんな自分は周りから外れているのだろうか、と竜司は考えたこともある。

 そして、何時間の思考の末ににそうなのだろうと結論付けた。

 だからだろうか、竜司は周囲の人と自分は違う世界の人間なのではないかという考えに至った。

 それからだ。彼は周囲の人達と距離をとるようになった。

 あいつらを見ていると、自分が惨めに感じてくる。

 口には出さないが、内心で何度も口ずさんでいると、気付けば彼の周りに誰も寄り付かなくなっていた。

 ……これでいい。

 これで自分を誰とも比較する必要が無くなる。

 竜司はその答えに満足して、今に至っていた。

 

「はい、皆さん席についてください」

 

 竜司がボーっとしていると、いつの間にか担任が教卓に立っていた。

 特に気にすることも無く竜司が机に突っ伏して眠りに就こうとする。

 

「…はい。皆さん出席していますね。さて、今日は一つ大事なお知らせがあります。なんと!今日は一人転校生の子がこのクラスに入りします」

 

 担任の言葉に、クラスがおおっとざわめきだす。新学期が始まってほんの数日、まだ熱気が冷め止まぬ中でさらに仲間が増えるというイベントがあるなどと誰が考えるのだろうか。

 どんな奴なのかとそれぞれ話していると、ふと気づいた一人の生徒が質問する。

 

「先生。何で今日なんですか?始業式の日に知らせがあるのが普通だと思うんですけど…」

 

 そういえば。とクラスの視線が教卓に集中する。

 

「ああ、それはですね。その子の引越しの都合で少々遅れてしまったんです。また学年集会の時にでもこの旨は全体に知らせますので」

 

 なるほど。という空気の中で竜司は別の感想を抱いていた。

 ―――また、あいつらが増えるのか。けど、関わらなければ問題ねえ。

 絶対に接さない。そう竜司が誓っていると、そんな彼の考えなど知る由もない先生が外で待っている件の少年に声を掛け、教室内へと引き入れる。

 その少年が教室に足を一歩踏み入れた瞬間、教室の空気が一変した。

 

『……』

 

 ガヤガヤと騒いでいたクラス全体がスーッと静まりを見せる。

 一人顔を伏せていた竜司はクラスメイト達の変化と、明らかに変わった空気に困惑する。

 何だ?と普通ではない何かを感じ取った竜司は顔を上げ、事態の中心人物であろう転校生に目を向ける。

 

「なっ……」

 

 転校生の少年を視界に入れた瞬間、竜司は目を見開いた。

 一見、別に何も特別な部分は見ない少年。

 だが、その少年から確かに発せられる‘普通ではない何か‘を感じ取った竜司は思わず体を硬直させる。

 そんな竜司も、静かなクラスのことも気にも留めないとでも言うように、少年は一歩。一歩と足を運ぶ。

 その足が一回教室の床を踏む度に、それどころか少年がただそこに存在するだけで、空気に、人に、さらには世界にまで少年から発せられる‘普通ではないなにか‘いや‘オーラ‘とでも言うべきものが訴えかける。


 ―――跪け―――

 

(…っ!なんだよ、今のは!)


 竜司はたった今聞こえてきた声の出所を探る為、視線を忙しなく周囲に走らせる。

 その際、その声とは全く別の事に彼は気がついた。

 竜司と先生以外の人が、まるで魂を抜かれたようにただただジーッと少年を見ているのだ。

 自分(と先生)以外の変化にまた呆気に取られていると、その間に少年が黒板の前へと立っていた。

 少年は徐にチョークを手に取り、流れるような動作で自身の名前を黒板の書いていく。

 その書くという動作をした際、クラスの皆の目に光が宿る。一見すると正気に戻ったように見えるが事実は違う。

 彼らの瞳が今度は恍惚とした色に変化する。まるで自身の信仰する神の啓示を示された時の信者の様に。

 カッと音を立てて掻き終えるとチョークを置き、回れ右をして少年はクラスメイトとなる少年少女達を視界に収める。

 少年は自分に集中砲火されている視線をその身に受けた。

 だが、少年はそれに対して僅かも動揺したような様子は見せず、それどころか口元を僅かに綻ばせる。

 少年の微笑みに対してクラスの恍惚の色が深まると同時に、茫然としていた竜司ふと正気に戻り、蕩けた視線を少年に向けるクラスメイトたちを見て唖然とし、ギギギッと機械のようにぎこちない動きで再び少年へ顔を向ける。

 そんな不思議、というよりは不可解な生物を見たという目をしている竜司と少年は目が合う。

 少年は竜司に先ほどと同じように笑いかけると同時に、黒板に書かれている自身の名前を告げた。

 

「僕は山田太郎と言います。趣味は友達と時間を過ごすことでーす。これからよろしくお願いします」

 

 ペコリと礼儀正しく少年―――山田太郎は礼をする。

 シンと教室を静寂が支配する。ゴクリと竜司の喉が音を鳴らす。極度の緊張が一気に彼を襲い、額から一筋の汗がツーっと流れる。

 永遠に続くと思われたその時間を破ったのは、朝の出席の時から絶やさず、数ミクロンも表情筋を動かさずに笑顔を保っている先生であった。

 

「はい。というわけで山田太郎くんです。皆さん仲良くしてくださいね」

 

 先生がそう告げると同時に、クラス全員がハッと夢から覚めたように正気を取り戻す。

 竜司も深く息を吸って己を落ち着かせようと励む。

 そして漸くこの意味がわからない状況が終わったと安堵の息を吐く――――が、竜司と先生以外の全員がガタッと全く同時に席を立ちあがったことで、まだ終わっていないことに気がついた。

 二人以外の生徒たちは右腕を敬礼の形にして、またもや全く同時に腹のそこから声を出した。

 

「サー!イエッサー!!!」

 

 クラスメイト達の行動に竜司は絶望したと表すように額を机に叩きつける。

 そしてこれは夢だ、そうだ。と自分自身に言い聞かせようとするも、鈍く痛む額がそれをあっさりと否定する。

 そして竜司は一つの結論にほぼ無意識に達し、認識してしまった。

 今教卓で立っている少年。訳の分からないオーラを発したり、この意味不明な状況を作り出している原因である山田太郎こそが、世界の違う人間と言えるのだろうと。彼と比べたら自分なんか普通の人間でしかないんだと。

 それはさておき、とりあえず軍人並みの統率で敬礼しているクラスメイト達と、それを受ける太郎、さらにその光景に対して特に疑問も言わずに眺めている先生を見て、竜司は机で頭を抱えて心の中で絶叫した。

 

(何じゃこりゃあああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!)

 

 その竜司の声に同意してくれる人は、残念ながらこの場には一人として存在しなかった。

 

 


 更新は不定期です。

 感想などは気楽にどうぞ。

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