窓から飛び出てきた人
今回はまた一人窓ガラスから出てきます。
「…………………………………」
沈黙。
以前、誰かが窓ガラスをぶち破ってここへ入ってきた。
今私が思っていることは、一般な常識を持っている人なら共感できること。
―ありえない―
ただそれだけのことだ。
ただでさえ厚い窓ガラスを自力で割って、
それでもって、すぐに立ち上がるなんて…
見た目はごく普通の男の人に見えるが、
さっきの光景を見てしまったせいで、とても一般人には見えくなってしまう。
その人は、よくホラー映画で出てくるミイラのように、ゆらり、と立ち上がり、
こちらをじっと見つめてきた。
よく見ると、所々に血が滲んでいる。
周りの人達はその人を見つめ、様子を伺っているように見えた。
私も胸に当てていた手に力をこめる。
だが、
「も~聞いてくれよー!!!なんか知らねぇ兄ちゃん達が、金よこせって急に言ってきてさぁ」
輝くような笑顔。
この状況に、あまりにも遭わない顔。
…どうしてここの人たちって、こんなにも能天気なのだろうか。
というか、なぜ金を要求されただけなのに、窓ガラスをやぶってまで出てきたのだろう。
ニカッと笑ったその顔は、完全に後の窓ガラスや怪我のことなど気にしていないようだった。
そしてひとつ分かった。
「(不死身ってこんな人のことを言うのか…)」
心の中で呟いたら、いきなりその人が振り向いてきた。
「ん?そこの女の子は誰?」
「…お前………」
呆れた様子で冷耶さんは言う。
「よく死ななかったな……」
「だって俺不死身だもんっ☆」
「……………」
片手でピースマークをつけながら舌をだす。
どうもこの人には緊張感がない。
しかし突然、その人は普通の顔に戻り、視点をこちらに向けた。
「……うん。」
見た感じ、少し不気味な笑顔。
「そこのお嬢さんの思った通りに、ね♪」
「っえ…」
唐突に言われ、驚いた。
心の中で言ったはずだった言葉が、なぜ気づかれていたのだろう。
自分に中では、言った覚えがない。
「ま、とりあえず…」
だんだん近づいてくる笑顔。少し怖くなって身を引く。
「俺翔馬。よろしくね、お嬢さん♪」
無意識に、単純に差し伸べられた手。
「ぁ…………………ども………」
思わず手をとる。
「あっ!てめぇっ!!!」
「そーいうとこだけは感心するんだよなぁ…こいつ…」
「ナイスだ翔馬!」
「どこがナイスだよ!!!」
「…………女タラシ。」
「誰だ今女タラシって言ったやつ!」
「…………………………………………………………」
すると今度は忘れそうになっていた人達が騒ぎ始めた。
「まーいいや。とりあえず自己紹介してなかったから一応しておくか。」
「ごほんっ」と、胡散臭い咳払いをしたその人は、少しドヤ顔で言う。
「俺は來。よろしくっ。」
「………………………………………………………なんかうぜぇ」
静かになった部屋の中、一人だけ衝撃な言葉をポツリと零す。
「なっ!!うざいとはなんだ失礼なっっ!!」
「もぅいいよ。次俺ね。」
大人っぽく緑のパーカーを着た人が立ち上がる。
「俺明斗。んでこっちの赤いのが…」
続いて赤のパーカーを着た人が立ち上がる。
どうやら着ているパーカーはお揃いらしい。
「麗斗。よろしく。」
「俺ら双子なんだー」
「はぁ…」
必死に顔と名前を覚える。
結構な人数のため、なかなか覚えるのには時間がかかりそうだ。
……それにしても、どちらが兄なのだろう。
見た目ではなんとなく………明斗…さん?が兄っぽい。
「あーー………いちおう兄が俺ね?」
「え」
…以外だ。
驚いた私に來さんが笑う。
「以外だよね。顔立ちでは明斗が兄っぽいのに。」
「……………………………………」
「むやみに足をけらないでくれるかな?痛いんだけど。」
殺気を立てた麗斗さんは高速で來さんの足を踏んだり蹴ったりしていた。
あの速さと勢いで、見た目はすごく痛そうなのに、
あまり動じない來さんはすごいと思う。ある意味。
そして來さんは何事も無かったかのように、話し始めた。
「んで、こっちの寝てるバカでアホで無能なのは恭太。」
ニコニコはなす來さんと裏腹に、明斗さんがすこし呆れた顔で突っ込む。
「お前……ここで恭太が起きてたら顔面に靴飛んできてるところだったぞ…?」
「まぁそんときは避けてやるよ。それからこいつが…」
「冷耶だ。」
「……とのことです。」
「…………………そうですか………」
「で、お嬢さんは?」
「へ?」
「なんて名前なの?」
こんな人たちに名前を教えてもいいのだろうか…
戸惑ったが、辺りの空気がもう「紹介しろ」という感じになっていて、これは言わざるおえない、と思い、それにお茶もご馳走してもらったので、
言うことにした。
「――――――知美」
「ん?」
「知美です。平塚、知美…」
「…ほぅ。」
「―――――知美ちゃんかぁ。」
翔馬さんの顔に笑みがかかる。
その途端、翔馬さんが私の手の甲に、唇を落とした。
瞬間、自分の顔が火照ることを実感した。
「------!!!」
「いい名前だ。よろしくね、知美ちゃん♪」
「ちょっとまてぇぇい!!!」
「ストォォォォォォップ!!!翔馬ストップ!!!」
空気をぶち破るような声。
またさっきのように、言い争いが始まって、少し可笑しくて、クスッと笑ってしまう。
それだけ仲がいいのだろう。
すこしうらやましいなぁ、と思っていたら、
家に帰らなくてはいけないということに気が付いた。
――――――――――――――――――――――――――――
「…あの、」
「……ん?」
「ありがとうございます。わざわざ送ってもらって…」
「………………………あぁ」
すっかり暗くなっていた道。
一人で帰るわけにもいかない、と
冷耶さんがわざわざここまで付いてきてくれたのだ。
しかも路地裏。影が多くて足元にとどく光がさえぎられている。
冷耶さんに続いて付いていく。
いつのまにやら、元来た場所についてしまった。
「ここまででいいのか?」
「はい。本当にありがとうございました。」
頭を下げると、冷耶さんは少し照れくさそうにうなずいた。
しかしまた先ほどのように無表情になる。
そして、なにか言いたげな感じで私を見つめてきた。
「……あのさ」
「?はい…」
かなり深刻そうな目で見てくる。
何を言われるんだろう。
「…もう二度とここにくるな」
「―――――――――――――――――――――――――――――――――え」
今、なんて?と聞きたかったが、口が思うように開かない。
かなり衝撃の言葉だった。
「………んじゃ。気をつけて帰れよ。」
その言葉を最後に、冷耶さんは帰ってしまった。
「…………………………………」
それから数十秒くらいしたあとに、やっと体が家に向かいはじめた。
"もう二度とここにくるな"
さっき言われた言葉を思い出したら、胸が少し痛んだ。
次回もお楽しみにっ☆←←←