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悪役令嬢に転生したけれど、攻略不可の公爵様にだけは勝てません  作者: 凪乃


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5/12

聖女の綻び

 断罪フラグの三つ目——「図書室の密会目撃」。


 ゲームでは、ヴィオラが図書室で男子生徒と話しているところをエステルに目撃され、「不貞行為」として殿下に報告される。それが断罪の材料になる。


 回避策は簡単だ。図書室で男子生徒と二人きりにならなければいい。


 ——と思ったのだが。


「ヴィオラ様、図書室にレヴィアンス公爵がいらっしゃいます」


 レティシアの報告に、足が止まった。


 セシルは男子生徒だ。公爵だけど学園の生徒登録はしている。つまり——セシルと図書室で二人きりになったら、フラグが発動する可能性がある。


「レティシア、今日は教室で勉強するわ」


「え? でも今日のヴィオラ様、図書室に行きたそうでしたよね?」


「気のせいよ」


「詩集を鞄に入れてるのに?」


「……教室で読めるわ」


 セシルの詩集を返したかったのだけど、今日はやめよう。フラグ回避が最優先だ。


 教室に向かう途中、廊下の角でエステルとすれ違った。


「あら、ヴィオラ様。今日は図書室には行かれませんの?」


 心臓が跳ねた。


「ええ。今日は少し気分を変えようと思いまして」


「そう。——ヴィオラ様は最近、よく場所をお変えになりますわね」


 エステルの微笑みが崩れない。完璧な聖女の表情。でも、その言葉の裏に——何かがある。


「場所を変えるというのは、色々なところに興味がありますの。それだけですわ」


「ふふ。好奇心旺盛でいらっしゃるのね」


 エステルが去った後、背中に汗が滲んでいた。


 あの言い方。「場所をよく変える」——私の行動パターンの変化を、エステルも把握している。


 セシルだけじゃない。エステルも見ている。


 でもエステルの観察は、セシルのそれとは質が違う。セシルは「興味」で見ている。エステルは——「管理」のために見ている。


 フラグが発生しないことを、エステルは不審に思っている。



 結局、その日の図書室イベントは不発に終わった。


 私が図書室に行かなかったので、「密会目撃」のフラグは発動しない。三つ目の回避成功だ。


 でも、胸の中のざわつきが消えない。


 放課後、テラスでクラウディアとお茶をしながら考えを整理した。


「——ヴィオラ様? お顔の色が優れませんわね」


「ちょっと考え事を」


「エステル様のことですか?」


 クラウディアの勘も鋭い。類は友を呼ぶのだろうか。


「クラウディア。聖女様について、一つ聞いてもいいかしら」


「ええ、もちろん」


「エステル様って——情報の集め方が、すごく上手じゃない?」


 クラウディアが紅茶のカップを置いた。


「……ええ。わたくしもそう感じておりました。エステル様は、まだ起きていないことを——まるで知っているかのように動くことがあります」


 まだ起きていないことを、知っているかのように。


 その言葉が、胸に刺さった。


 ゲーム知識で先の展開を読んでフラグを回避しているのは、私だ。でも——もし同じことを、エステルもやっているとしたら?


 エステルが断罪イベントを「演出」していた可能性。花壇イベントで私を「待っていた」不自然さ。私の行動変化に対する素早い認識。


 まるで——エステルもこのゲームのシナリオを知っている。


 いや、知っているどころか、シナリオ通りに進めようとしている?


 鳥肌が立った。


「ヴィオラ様?」


「——ごめんなさい、少し驚いてしまって」


 考えすぎかもしれない。でも、もし本当にエステルも転生者なら——ゲーム知識を持つ者同士の対決になる。


 私はフラグを回避する側。エステルはフラグを発動させる側。


 ——攻略する者と、攻略される者。


 その構図が見えた途端、これまでの回避成功が——薄い氷の上を歩いていたような気がしてきた。


 テラスの風が冷たくなった。



 帰り際、廊下の窓からエステルの姿が見えた。


 中庭を一人で歩いている。日記帳を手に持って。


 その横顔は——微笑んでいた。


 聖女の微笑みではない。もっと——計算的な。


 エステルが振り返った。窓越しに、私と目が合った。


「あら、ヴィオラ様。まるで——先が見えているような動きをなさるのね」


 声は届かなかったはずだ。でも、唇の動きが読めた。


 あるいは——読めてしまった。


 足が震えた。


 この聖女は——ゲームの知識を持っている。私と同じように。


 いや、もしかしたら、私よりもずっと前から。

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