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勇者04──防衛省異世界対策室の少年  作者: 朱実孫六
死と再生

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第3話 ②

 女剣士は、ひと息をつくように剣先を地面に向けた。


「お目覚めのようね、女僧侶キターラ」


 その細身の剣の先が、ゆっくりと鎌首をもちあげる。


「でも残念。さっそくおやすみの時間なの。死に損ないと共に逝きなさい」


 そこに駆けつけた警官たちが発砲した。次々、ニームの顔面に命中し、女剣士の顔がそむけられて赤い髪にかくれた。


「──っ痛いわね」


 反響の止んだ静けさのなか、赤く腫れた頬をさすった彼女が牙を見せた。


「かわいらしい威力だけど……」


 金切り声が響いた。


「女の顔を狙うとは、許せない!」


 細身の剣が、警官を三人まとめて横薙ぎに斬った──ように見えた。


 真琴は思わず顔を覆った。


 けれど、恐る恐る目を開くと、その剣は、割り込んだ勇者が剣で止めていた。




「相手は僕だ……。ニーム」


 肩で息をし、勇者は、頬の汗を拭った。




 遠巻きにしている人々から、歓声があがった。同期しているかのように、勇者の青い装備が光の粒子を帯びはじめた。


 マントが風もなく、揺らぎはじめている。


 真琴も目を奪われた。


「ひかりが、集まっているの?……」


 勇者が、ニームを見据えたまま呟いた。


「そうだ。心が集まってきた」


 スマホを掲げる人が、さらに増えている。その後ろからも視線と声援が、見えない光の粒になって甲冑に吸いこまれていく。


 勝ちを見つけたのか勇者は、笑みを浮かべた。敵剣を打ち払う。


 ニームは素早く跳び下がった。


 深追いをせず、勇者は、片手剣の柄を眉間の高さに上げた。


「……転化てんげ甲冑こうちゅうよ」


 魔から生じた甲冑を、祈りの力で聖へと転化する。その祝詞に応じて甲冑が激しい光を放ち始めた。


 まぶしさに真琴も手をかざし、顔を背けながら、勇者を見守る。


 彼は、剣を霞──こめかみの高さで水平に構えていく。


「我を、立たせたまえ。有情うじょうの民の、願いのままに……!」


 無風で赤マントが吹き上がり、同時、音より早く勇者が消えた。




 爆風のような光の塊りが、女剣士の巨躯とかち合った。その中心で、雷光をまとった勇者が剣を合わせて押し込んでいる。


 スマホを掲げる人が、さらに増えていく。勇者は、上背で勝る女剣士をのけぞらせ、また一歩押し込んだ。


「……魔法使いの仇、ここで討たせてもらう!」


 一方、巨大化したはずのニームは野次馬を見渡した。


「なぜなの、信託共鳴しんたくきょうめいが、ここでは、こんなにも早く集まる……」


 群衆が前のめりになるほど、装備が激しく輝く。


 誰かが叫ぶたび、勇者の足がまた一歩、女剣士を押しこめていく。




 ニームは、細身の剣をしならせて防ぎながら汗を浮かべた。


「だからって、いつまでも調子に……乗るんじゃないよ!」


 横っ飛びに地を蹴った。真琴を串刺しにするつもりだ。




 真琴は閉じかけた目をこらえる。歯を食いしばって身を乗り出す。逃げだしたい。けれど今逃げたら、二度と彼に会えない。


 逃げたい気持ちに逆らって、女剣士をみすえて両手をかざす。


 ニームの喉の中央で、構えた剣先が細すぎて、点に見えたまま真琴に迫る。


 怖い。だからこそ──声でぶつけていくしかない。


 理屈じゃない。


 綺麗事でもない。


 みっともないまま生きてやる。




防御魔法ダーマッ!」


 光る球体が、突き出した両手の印の前でたわみ、細身の剣先を押しとどめた。前髪のなかで、真琴が歯を食いしばった。


「何年待たされたとおもってんの……」


 無言で押し込みをはじめる。ニームの鼻先めがけ、火花を散らしながら刀身が捻じ曲げていく。


「な、なんのことよ!」


 剣先から顔を避けつつ、ニームがたじろぐ眉を寄せた。


 真琴は、音も気にしないで鼻をすすると、涙目の顔を上げた。


「今日のわたしを……」


 髪が逆立つほどの力で、防御魔法の光球を押し込んだ。


「邪魔すンなああああああ!」




 くみしやすいと見た相手に反撃をくらい、のけぞったニームの腕が伸び切った。


 そこめがけ、勇者が顎を引き、獣のように笑んだ。


 その場で逆手に剣を持ち換える。


「──烈、空斬ッ!」


 音速の刃が飛ぶ。トラックを両断した衝撃波に真琴もニームも、髪を激しく乱され後ずさり──


 衝撃波は観衆の頭上をかすめて歓声があがった。


 だが、その後方で、駅ビルの壁面が爆煙をあげて、歓声は悲鳴へと変わった。




 歩道に尻もちをついた真琴は、ニームの手に細身の剣がないことを見て、行方を目で探した。だがそれは、湾曲した状態で、赤い爪の手に握られたまま車道に転がっていた。


 向かいの歩道で、逃げていく群衆を背に、巨大な女剣士ニームが、両手を失ったまま勇者を振り返った。


「女僧侶っ……! それに、勇者っ……!」


 彼女は牙をむき、唇をふるわせた。


「覚えていらっしゃい!」


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日9:10に公開予定です!

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