第3話 ②
女剣士は、ひと息をつくように剣先を地面に向けた。
「お目覚めのようね、女僧侶キターラ」
その細身の剣の先が、ゆっくりと鎌首をもちあげる。
「でも残念。さっそくおやすみの時間なの。死に損ないと共に逝きなさい」
そこに駆けつけた警官たちが発砲した。次々、ニームの顔面に命中し、女剣士の顔がそむけられて赤い髪にかくれた。
「──っ痛いわね」
反響の止んだ静けさのなか、赤く腫れた頬をさすった彼女が牙を見せた。
「かわいらしい威力だけど……」
金切り声が響いた。
「女の顔を狙うとは、許せない!」
細身の剣が、警官を三人まとめて横薙ぎに斬った──ように見えた。
真琴は思わず顔を覆った。
けれど、恐る恐る目を開くと、その剣は、割り込んだ勇者が剣で止めていた。
「相手は僕だ……。ニーム」
肩で息をし、勇者は、頬の汗を拭った。
遠巻きにしている人々から、歓声があがった。同期しているかのように、勇者の青い装備が光の粒子を帯びはじめた。
マントが風もなく、揺らぎはじめている。
真琴も目を奪われた。
「ひかりが、集まっているの?……」
勇者が、ニームを見据えたまま呟いた。
「そうだ。心が集まってきた」
スマホを掲げる人が、さらに増えている。その後ろからも視線と声援が、見えない光の粒になって甲冑に吸いこまれていく。
勝ちを見つけたのか勇者は、笑みを浮かべた。敵剣を打ち払う。
ニームは素早く跳び下がった。
深追いをせず、勇者は、片手剣の柄を眉間の高さに上げた。
「……転化の甲冑よ」
魔から生じた甲冑を、祈りの力で聖へと転化する。その祝詞に応じて甲冑が激しい光を放ち始めた。
まぶしさに真琴も手をかざし、顔を背けながら、勇者を見守る。
彼は、剣を霞──こめかみの高さで水平に構えていく。
「我を、立たせたまえ。有情の民の、願いのままに……!」
無風で赤マントが吹き上がり、同時、音より早く勇者が消えた。
爆風のような光の塊りが、女剣士の巨躯とかち合った。その中心で、雷光をまとった勇者が剣を合わせて押し込んでいる。
スマホを掲げる人が、さらに増えていく。勇者は、上背で勝る女剣士をのけぞらせ、また一歩押し込んだ。
「……魔法使いの仇、ここで討たせてもらう!」
一方、巨大化したはずのニームは野次馬を見渡した。
「なぜなの、信託共鳴が、ここでは、こんなにも早く集まる……」
群衆が前のめりになるほど、装備が激しく輝く。
誰かが叫ぶたび、勇者の足がまた一歩、女剣士を押しこめていく。
ニームは、細身の剣をしならせて防ぎながら汗を浮かべた。
「だからって、いつまでも調子に……乗るんじゃないよ!」
横っ飛びに地を蹴った。真琴を串刺しにするつもりだ。
真琴は閉じかけた目をこらえる。歯を食いしばって身を乗り出す。逃げだしたい。けれど今逃げたら、二度と彼に会えない。
逃げたい気持ちに逆らって、女剣士をみすえて両手をかざす。
ニームの喉の中央で、構えた剣先が細すぎて、点に見えたまま真琴に迫る。
怖い。だからこそ──声でぶつけていくしかない。
理屈じゃない。
綺麗事でもない。
みっともないまま生きてやる。
「防御魔法ッ!」
光る球体が、突き出した両手の印の前でたわみ、細身の剣先を押しとどめた。前髪のなかで、真琴が歯を食いしばった。
「何年待たされたとおもってんの……」
無言で押し込みをはじめる。ニームの鼻先めがけ、火花を散らしながら刀身が捻じ曲げていく。
「な、なんのことよ!」
剣先から顔を避けつつ、ニームがたじろぐ眉を寄せた。
真琴は、音も気にしないで鼻をすすると、涙目の顔を上げた。
「今日のわたしを……」
髪が逆立つほどの力で、防御魔法の光球を押し込んだ。
「邪魔すンなああああああ!」
くみしやすいと見た相手に反撃をくらい、のけぞったニームの腕が伸び切った。
そこめがけ、勇者が顎を引き、獣のように笑んだ。
その場で逆手に剣を持ち換える。
「──烈、空斬ッ!」
音速の刃が飛ぶ。トラックを両断した衝撃波に真琴もニームも、髪を激しく乱され後ずさり──
衝撃波は観衆の頭上をかすめて歓声があがった。
だが、その後方で、駅ビルの壁面が爆煙をあげて、歓声は悲鳴へと変わった。
歩道に尻もちをついた真琴は、ニームの手に細身の剣がないことを見て、行方を目で探した。だがそれは、湾曲した状態で、赤い爪の手に握られたまま車道に転がっていた。
向かいの歩道で、逃げていく群衆を背に、巨大な女剣士ニームが、両手を失ったまま勇者を振り返った。
「女僧侶っ……! それに、勇者っ……!」
彼女は牙をむき、唇をふるわせた。
「覚えていらっしゃい!」
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次回は、明日9:10に公開予定です!




