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勇者04──防衛省異世界対策室の少年  作者: 朱実孫六
死と再生

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第3話 鬼妃 ニーム

 真琴は口をひらきかけたが、クラクションに思わず首をすくめた。


 見ると、こんな時でも、青信号で車は進み出そうとしている。


 けれど勇者は、こうして車道にいることを気にしていないようだ。抱きあげていた真琴を立たせると、その手へ何かを握らせた。


「使ってくれ、薬草だ」




 しかしそれは、どう見ても怪しい植物片だった。


「つかうって……どうやって」


 勇者は目を細めた。


「気にするな、わずかに残っていた!」


 そう言い残し、彼は腰を落とすとアスファルトを蹴った。一瞬で残像になった。動きに目が追いつかない。


 金属音がした。見ると、もうハルク前で勇者が、女剣士の細身剣に自分の片手剣を合わせて押し込んでいた。




 真琴は、ともかく駅側の歩道に駆け込んだ。けれど目はつい向こうの赤いマントに奪われてしまう。


 青い甲冑と赤いマント。

 その背中は、どう見ても、クレヨンで描いたあの少年だった。


 動悸がした。今になって顔が火照ってきた。


 けれど、刃と刃が火花を散らし、打ちあう響きには思わず身がちぢこまりそうになった。しかし真琴は親指をにぎりしめて、彼の背中を見守った。




 女剣士は剣を打ち合わせながら緩やかに後退する。だが攻勢をしのぐ表情自体は薄笑いで余裕だ。


「どうしたの勇者、息があがっているじゃない」


 言われるだけあって、動くたび彼のマントが出血で重たげにひるがえる。


 真琴は、眉を寄せた。


「薬草って、なんで自分に使わないの……」


 甲冑の下にどれだけの怪我を負っているのだろう。彼の肩でしている息が、あまりに痛々しくて直視できなかった。


 剣で打ち払い、青い盾で殴りつけ、突きを体さばきで避けている。衝撃に鎧の継ぎ目から血の雫が散る。真琴にも、彼の残り時間の少なさは明らかだ。


 一歩、足を踏みだすものの、真琴には、どう彼の手助けをすればいいのかが分からない。悔しさに顔を歪める。




 一方、女剣士は笑んだままだ。蹴りで彼を突き離し、胸の前で両腕をかざした。


防御魔法ダーマ! ……って、あららっ?」


 何も起きなかった。


「やだわ、片手が……なかったわ」


 そのまま女剣士のニームはステップインして勇者の腹を、ブーツのかかとで蹴り込んだ。


 群衆の垣根が割れ、そこに腹を押さえた勇者が後ずさった。


 真っ赤な口紅の高笑いが、ハルク前に響いた。


「──可笑しいったらないわ。足もとがふらついているわよ。そういえば、そっちは瀕死のままだったわね!」


 ニームは剣先を出しながら突進した。


「なら防御魔法がなくったって! 落ち首の一つや二つ!」


 スマホを構えていた駅側の野次馬たちが、悲鳴をあげて垣根をくずす。




 押し込まれる勇者は、そんな彼らをかばうように、車道で踏みとどまった。


 剣を押し合ったまま、勇者が一瞬こちらを向いた。


「キターラ、早く、それで回復しろ……!」


 真琴は、植物片を手にどうしたらいいのか、じだんだを踏んだ。


「だって! どうやったらいいの! 食べろっての⁉︎」


 なんとかしたい気持ちが前のめりにあふれている。


「傷に……塗り込め……! できれば防御魔法を頼む!」


 勇者は、押し込んできた出足に払いをかけ、そのまま背面跳びに跳躍した。ニームの頭上を飛び越えていく。




 真琴は薬草を手に、


「すごっ!」


 思わず声が出た。




 その時、真琴の脳裏に、浮かんだ白髪の記憶があった。


(──子どものころ、クレヨンで黄色い三角をしきつめて、画用紙に光る球を描いたでしょ)


 確かに、そう、声がした。


 真琴は頭をかかえかけたが、そこにまた声がした。


(……そう。あれが防御魔法。あなたには出来るわ)


 誰の声だろうか。いやそれよりも、


「できんのかよ……!」


 言いながら真琴の手が動いた。勇者にむけて両手を突き出す。





 宙返りしながら勇者は、ニームを見た。


 ニームも、振り返りながら彼を目で追う。細身の剣を抱き魔法弾の詠唱に入る。




 真琴にも、剣を構えたニームの背中に、その意図が読めた。彼が着地する瞬間を狙っているのだ。


 そして勇者は、魔法弾が来ると分かっていて、それを避けない。全弾、盾と体で受け止める気だ。


 なぜなら、その背後には、すっかり観衆になりきった野次馬たちがいる。


 ニームが口走った。


「バカな勇者ね!」


 その瞬間だった。真琴がまだ空中にいる勇者に突き出した両手が、勝手に印を組み、重なった。


 心の中で格子模様を描いた──勇者を囲めと。


 すると口が動いた。


「──防御魔法ダーマッ!」


 同時、勇者が着地した。


 彼を猛烈な爆炎が包んだ。






 高笑いが、ハルク前に響いた。


「やはり、あまいわね、勇者。それでも非情の器のつもり? 笑わせるわ」


 けれども、流れていく爆煙の中、その勇者が、立ったまま現れたことに女剣士は絶句した。


 しかも彼は、半球状の光のドームのなかに立っている。




 真琴も、まばたきをした。女剣士ニームが蛇のような瞳孔でこちらを振り返った。勇者も、敵ごしに仲間と再会したような、あたたかな視線を投げてきた。




 脳裏には、幼い頃のクレヨン画が浮かんでいた。


 絵の中で、自分はまさに、この魔法を使っていた。





ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、本日22:00に公開予定です!

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