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勇者04──防衛省異世界対策室の少年  作者: 朱実孫六
死と再生

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第2話 ②

 呼吸をととのえると、真琴は宙吊りのまま自分の腰を両手で叩いて気合いを入れた。


「なんの手品か知りませんけどね……!」


 男の仮面の細いスリットに顔を近づけて、その奥を睨みつけた。


「ドッキリの撮影だったら、事前に許可をくださいね?」


 けれど、その仮面の意匠には、やはり見覚えがあった。胸を突き動かすような違和感に真琴は首をかしげた。


 玉座の間、ゆらめく松明がフラッシュバックした。


 その瞬間、彼女は宙吊りのまま、のけ反った。


「夢の……魔王!」




 仮面の男は、女剣士の横へと真琴を降ろした。


「ニーム。女僧侶の処分は任せた」


「御意。魔王さまはどちらへ?」


「余は、この世界をつついてみる。付き合え、ソルバウ」


 ソルバウと呼ばれた蛮族コスの大男は、湿ったチラシのシワを律儀に伸ばし、真琴へ返すと、黙ったまま斧を担ぎあげ、仮面の背中につき従った。




 ふたりを見送る女剣士に肩を組まれたまま、真琴は首をすくめた。


「……もしかして、なんですけど……」


 真琴が言いかけたところで、女剣士の指先がそのあごを持ちあげた。


「なあに」


「以前にお会いしたこと……あります……?」


 女剣士は、彼女のいたずらウイッチの衣装に目を上下させながら言った。


「そうね。いつ魔法使いに転職したの、キターラちゃん」


 真琴は顔をそむけ、眉を寄せてひとりごちた。


「じゃあ、これも夢の続きってコト……?」


 女剣士の真っ赤な爪の先が、真琴のうしろ髪の乱れを整えた。


「夢じゃないわ。同じニオイがするもの。あなたはちょっと若いようだけれど」




 野次馬を見渡して、彼女は鼻を鳴らした。


「あと、まさかとは思うけれど、もう勇者と会ってたりしないでしょうね」


 真琴の胸で心音が一つ、はねた。


「それって、青い鎧と赤いマントの男の子のことですか」


 女剣士は、ほそい眉毛を上下させた。


「──そうなのね。記憶がないのね」


「さっき遅れて来るって……おっしゃってましたよね、彼もくるんですか⁉︎」


 女剣士は笑んだ。


「それが残念なおしらせなの」


 言いながら女剣士の身長がひとまわりも大きくなっていく。


「間に合わなかったのよ。その勇者が」


 手のカギ爪が、真琴の両肩をわしづかみにした。強く引き寄せられて、首すじに濡れた牙が触れた。


「名残りは惜しいけれど」


 真琴の足がすくみ、口を結んで目をきつく閉じた。


「腹ごしらえをさせてもらうわね、キターラちゃん」


 女剣士は首筋に吐息をふきかけて、甘やかに焦らした。


「さっきはね、取られちゃったのよ。美味しそうな魔法使いだったんだけど……」


 動けなかった。


 真琴は親指を握り込んだ。






 そこに、青い鎧の勇者がとびこんだ。


 タイヤでも断つような音がして、肩をつかむカギ爪の力が消えた。


 直後、風に足もとをさらわれたように体がふっと浮いて、次の瞬間──


 真琴の腰は、勇者の左腕の中に収まっていた。




 真琴が、恐々と薄目を開く。視界いっぱいに赤いマントがはためいていた。







 居合わせた群衆は、ハロウィンのイベントか、フラッシュモブのたぐいだと思っているのだろう。あちこちから「やば」「はやく、スマホ!」と声があがっている。


 そんな歓声の中、勇者が車道に着地した。


 真琴が、抱えられたまま見上げると、彼の横顔は精悍だった。


 ハルク前の歩道に目を向けると、巨大化した女剣士の足もとに、カギ爪の手が落ちている。


 女剣士が歯噛みして、先の無い右手首を掴んだまま、黄色い目でこちらを睨みつけていた。




 勇者が、いだく真琴に目をくれた。


「待たせたな、キターラ」


 一瞬、彼が子どものように笑んだ。




 動悸がした。


 が、すぐに彼は、顔つきも険しく女剣士へと視線を戻した。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、本日20:00に公開予定です!

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