第2話 ②
呼吸をととのえると、真琴は宙吊りのまま自分の腰を両手で叩いて気合いを入れた。
「なんの手品か知りませんけどね……!」
男の仮面の細いスリットに顔を近づけて、その奥を睨みつけた。
「ドッキリの撮影だったら、事前に許可をくださいね?」
けれど、その仮面の意匠には、やはり見覚えがあった。胸を突き動かすような違和感に真琴は首をかしげた。
玉座の間、ゆらめく松明がフラッシュバックした。
その瞬間、彼女は宙吊りのまま、のけ反った。
「夢の……魔王!」
仮面の男は、女剣士の横へと真琴を降ろした。
「ニーム。女僧侶の処分は任せた」
「御意。魔王さまはどちらへ?」
「余は、この世界をつついてみる。付き合え、ソルバウ」
ソルバウと呼ばれた蛮族コスの大男は、湿ったチラシのシワを律儀に伸ばし、真琴へ返すと、黙ったまま斧を担ぎあげ、仮面の背中につき従った。
ふたりを見送る女剣士に肩を組まれたまま、真琴は首をすくめた。
「……もしかして、なんですけど……」
真琴が言いかけたところで、女剣士の指先がそのあごを持ちあげた。
「なあに」
「以前にお会いしたこと……あります……?」
女剣士は、彼女のいたずらウイッチの衣装に目を上下させながら言った。
「そうね。いつ魔法使いに転職したの、キターラちゃん」
真琴は顔をそむけ、眉を寄せてひとりごちた。
「じゃあ、これも夢の続きってコト……?」
女剣士の真っ赤な爪の先が、真琴のうしろ髪の乱れを整えた。
「夢じゃないわ。同じニオイがするもの。あなたはちょっと若いようだけれど」
野次馬を見渡して、彼女は鼻を鳴らした。
「あと、まさかとは思うけれど、もう勇者と会ってたりしないでしょうね」
真琴の胸で心音が一つ、はねた。
「それって、青い鎧と赤いマントの男の子のことですか」
女剣士は、ほそい眉毛を上下させた。
「──そうなのね。記憶がないのね」
「さっき遅れて来るって……おっしゃってましたよね、彼もくるんですか⁉︎」
女剣士は笑んだ。
「それが残念なおしらせなの」
言いながら女剣士の身長がひとまわりも大きくなっていく。
「間に合わなかったのよ。その勇者が」
手のカギ爪が、真琴の両肩をわしづかみにした。強く引き寄せられて、首すじに濡れた牙が触れた。
「名残りは惜しいけれど」
真琴の足がすくみ、口を結んで目をきつく閉じた。
「腹ごしらえをさせてもらうわね、キターラちゃん」
女剣士は首筋に吐息をふきかけて、甘やかに焦らした。
「さっきはね、取られちゃったのよ。美味しそうな魔法使いだったんだけど……」
動けなかった。
真琴は親指を握り込んだ。
そこに、青い鎧の勇者がとびこんだ。
タイヤでも断つような音がして、肩をつかむカギ爪の力が消えた。
直後、風に足もとをさらわれたように体がふっと浮いて、次の瞬間──
真琴の腰は、勇者の左腕の中に収まっていた。
真琴が、恐々と薄目を開く。視界いっぱいに赤いマントがはためいていた。
居合わせた群衆は、ハロウィンのイベントか、フラッシュモブのたぐいだと思っているのだろう。あちこちから「やば」「はやく、スマホ!」と声があがっている。
そんな歓声の中、勇者が車道に着地した。
真琴が、抱えられたまま見上げると、彼の横顔は精悍だった。
ハルク前の歩道に目を向けると、巨大化した女剣士の足もとに、カギ爪の手が落ちている。
女剣士が歯噛みして、先の無い右手首を掴んだまま、黄色い目でこちらを睨みつけていた。
勇者が、いだく真琴に目をくれた。
「待たせたな、キターラ」
一瞬、彼が子どものように笑んだ。
動悸がした。
が、すぐに彼は、顔つきも険しく女剣士へと視線を戻した。
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次回は、本日20:00に公開予定です!




