第14話 蛮獣ソルバウ
真琴には、使うべきが防御魔法だとわかっていた。けれど三度目になると、かえって考えてしまう。心だけが先に走って体はまるで海の中にいるみたいに重かった。
(たしか、手を前にかざしていたとおもうけれど……!)
真琴も腕を上げかけた──その前に、彼女を抱えた勇者が走りながらその場に伏せた。伏せたというよりも、真琴の頭部をかかえて廊下に滑りこんだ。水しぶきに目を閉じる。
雨を裂いて分厚い衝撃波の壁が、すぐ頭上すれすれを過ぎていった。前方のステンレス扉にぶち当たって炸裂し、金属片が飛び散った。
勇者の背中にも、いくつか──突き刺さる音がした。
かばわれた胸のなかで真琴は、めまいと耳鳴りに襲われた。
サイレンとヘリコプターの羽音も、彼方から流れこんできた。
が、すぐさま勇者は立ち上がった。
「マコト、十一階へ行け」
「でも!」
「大丈夫だ。やつはしばらく剣技を放てぬ」
ソルバウを見た。落とした腰をもたげて、またその蛮族がゆっくり近づいてきている。その上、戦斧を逆さまに壁へと立てかけて微笑んでもいる。
見上げると、勇者も笑んでいた。
「バカなやつだ。遊ぶ気か」
その笑いは、面会室で屍鬼を素手で砕いていたときと同じものの上にあった。
そして、躊躇なく、壁下の消火器を取って肩にかついだ。
「行ってくれ、マコト。装備をここに頼む」
あの青い甲冑と剣を、この九階に持ち帰ってくれという意味だろうか。
真琴がうなずく前に、勇者は床を蹴った。
同時、ソルバウも駆け出した。
廊下で双方は激突するかと見えた。しかし勇者は、全身を弓のようにのけぞって、空中から消火器を投げつけた。
ソルバウは顔前で腕を十字にしてそれを弾く。──と、そこに、壁を蹴って斜め上から勇者の飛び蹴りが叩き込まれた。
よろめいたソルバウが、体勢を立てなおす。床で転げながら消火器を拾い上げていた勇者が、
「死ねェエエエっ!!」
叫びながら、両手でそれを振り下ろしていった。
頭蓋を砕くような鈍い音が響く。真琴は思わず目をそらした。
もう、どちらが良い者なのか、わからない。
ともかく、真琴は、「十一階だ……!」と手を突いて立ち上がった。けれど振り返ると、そこには紺色の防弾着とヘルメット、そして短機関銃をかまえた部隊が躍り出て銃口を向けてきた。駆け出したまま真琴は手をあげた。
「待ってェええ!!」
背中では勇者が蛮族と殴り合い、前には銃器対策部隊の五丁の銃口。
真琴は首から下げた身分証を高く掲げた。
「ぼ、防衛省の朝倉ですっ!」
すると隊長格の男性警官がヘルメットのバイザーを上げた。彼女の肩越しに、勇者とソルバウの格闘に目を凝らしていた。
「警視庁銃器対策部隊ERTの花田です! どっちがゼロフォーですか!」
事情は飲み込めた。真琴は背中を指差した。
「あっちの、あっちの凶暴そうな小さいほう! ああ見えて味方です!」
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