第12話 ②
勇者は、彼女の頬にかかった濡れ髪を指でそっとはらった。
「ふつうとは、どんなものであろうか」
真琴は言った。
「帰る家があって、友だちがいて、食べるときや寝るときに悲しくないことよ」
「そうなのか……」
つぶやくと、
「しかし。僕はもう、仲間をつくりたくないのだ」
辛い思い出が、なにか胸の中にあるかのように彼は、潤んだ瞳で真琴の目の奥を見た。
彼女も見返した。
「そういえば、言ってたね。仲間はいらないって」
真琴も、彼の瞳の奥を見た。
「じゃあ、こういうのは。仲間とか防衛省とかナシにして、まずはトモダチになるのって」
「ともだち? 僕と、キターラが、いまさらか」
真琴は、彼の頬をつねった。
勇者は目を閉じた。
「痛ふぁい……のふぁが」
「いまは真琴」
つねりあげられたまま勇者が「そうれあっふぁ」と言った。……そう、確かに言った。だが振り向きざまに彼が素早く動いたかと思うと、もう真琴は彼に抱かれて踊り場の上に横っ飛びに水を切っていた。
「な!?」
たしかに、十階の廊下に大きな影は見えた。肩に何かを担いでいるような──影だった。
「ソルバウだ」
勇者が言った。彼女を抱えたまま階段を跳び降り、下の九階に着地した。
しぶきを上げて廊下に駆け込んでいく。真琴は抱きかかえられたままだ。
「装備はもう次の階だったのに……!」
天地が逆転している。天井パネルの継ぎ目がどんどん流れていく。
「上には行かさぬ気らしい」
廊下の先を見ると、蛮族の男が中央階段から身を屈めて出てくる様子が見えた。戦斧を肩に、ゆっくりと歩んでくる。腰から下は獣毛に覆われていて真っ黒だ。上半身の筋肉には重なりあった傷跡がいくつも光っている。
「あれがソルバウ?」
「そう。まだ人の形だがな。マコト、非常階段を使うぞ」
前方の突き当たりに銀色のステンレス扉が見えた。ひどく遠く感じた。けれどもナンバープッシュ方式の鍵が付いているのが見えた。
「でも番号がわかんないよ!」
勇者は、前方のステンレスの非常扉を見据えながら全力で駆けている。
「マコト、ソルバウを見張れ。妙な動きがあれば」
「わかった、知らせる!」
蛮族をしっかり見極めようと真琴は身体をよじった。すると、ソルバウが腰を落としながら両手持ちの戦斧を体の脇に構えるのが見えた。
真琴の脳裏に、昨日、勇者がはなった遠距離剣技の衝撃波がよぎった。
「エヌくん!」
真琴が言った。
「なにかくるよ!」
その直後、ソルバウが振り抜いた一撃から、巨大な衝撃波がとび出した。
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次回は、明日7:00に公開予定です!




