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勇者04──防衛省異世界対策室の少年  作者: 朱実孫六
新宿の騎士たち

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第12話 ほんとうの名前

 彼女は、勇者から目をそらした。親指を握りしめた。


「ごめん。なんか……余計なこと言って」


 勇者は微笑みながら、こちらをみた。


「気にするな」


 それは嘘のない、ほほえみだった。


「悲しくはないのだ。憶えていないのだからな」


 装備は次の階で待っている。


「だから、すまない。本当の名前は、僕もしらないのだ」


 言いながら彼は階段を踏んだ。


「ミドガルドで物心ついたころには番号で管理されていた」


 四番目に着いた子ども。


「……ゆえに奇瑞きずいなのだ。きみたちからゼロフォーとよばれるのが」


 彼の目は悲しいほどに笑むのかもしれない。


「偉大な勇者エヌの名で、こんな僕がよばれるよりも、よほど馴染んだ名だからな。四番目というのは」


 言いながら勇者が気づいた。彼女がついてきていない。


 振り返ると、踊り場で真琴は立ち尽くして、勇者を見上げていた。






 その真琴の頬を、涙がすべり落ちた。


 勇者の顔が、うろたえた。


「どうした」


 彼は駆け戻ってきた。


「なぜ、きみが泣く」


 子犬のような勇者が、下から彼女を覗き込もうとした。


「痛むのか、どこか、マコト」


 うつむいて、彼女は前髪のなかに隠れた。


「──だって」


 胸が痛んだ。なぜ彼はそんな酷い話を笑みながら話せるのか。不憫に思った。


「それ、普通のことじゃないよ」


 見ると勇者の顔も、胸を痛めるかのようにこちらを見ていた。


 けれどわかっていた。それが彼の世界の普通なのだと。そして変えることもできないと。


 だから涙がでた。悲しさを知らない彼に手をさしのべていいものなのかと。


 すると脳裏に一枚の絵が浮かんだ。手を伸ばせば、触れることができそうなくらい生々しい記憶だった。




 ──日暮れ前のキャンプ地。


 キターラたち三人は鍋を囲んで笑っていたが、その輪から少し離れたところで、エヌだけが背を向けて、木鉢のスープにパンを浸し、かじっていた。


 真琴は目を上げた。


 そこには今、エヌがいた。ずぶ濡れで、けれどあのときより表情が少し豊かな彼が。


「……なんで」


 真琴の胸が激しく痛んだ。なぜあの時、声をかけられなかったのか。なぜ自分は彼をひとりぼっちのままにしたのか。他人の記憶と自分の感情の混線に混乱をしながら、彼女は後悔にさいなまれた。



 顔を見あげた。


「あなたが悪いわけじゃないの、すべては魔王のせい……」


 なんだかわからないが、理屈をこえて感情面で何もかも全てがわかった気がした。


「でもね、せっかく違う世界にきたんだし、あなたはもう幸せになっていいと思うの」



 上着の袖で目もとをおさえた。そして彼を見上げた。


「わたし、きめた」


 勇者の哀しげな目が見ていた。低くて、穏やかな声が言った。


「何をだ」


 真琴は、その目をしっかと見返した。


「いまから、わたし、あなたの普通を担当する」



ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、本日18:00に公開予定です!

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