第11話 ②
ふたりは、八階の踊り場に出た。勇者エヌは、そこで足を止めた。
「どうしたの? なにか聞こえたの?」
勇者は、物音が反響している壁のあちこちへと目を走らせていたが、
「いや。勘違いだったようだ」
そう言うと、また階段に足を置いた。
真琴も続く。九階へと向かう。
「そもそもさ。勇者ってなに? 職業?」
彼は雨の中を進みながら静かな表情をしていた。
「制度だ」
真琴は横を行く彼にむけて顔を上げた。
「勇者が、制度って、どういう意味?」
「選ばれた子どもが訓練を受ける」
「ふうん。学校みたいなもの……?」
彼は階段の先を見た。
「そうだな。先代勇者の死から一年後、転生した勇者探しは始まるのだ」
賢者会議の占い師と神官によって、八つの国からそれぞれ一名ずつ、赤子が選ばれる。
「……でも、赤ちゃんに訓練はむりでしょ」
「親から離される。そして特別な乳を与えられて育つ。それ自体が訓練だ」
真琴の視線が、足もとに落ちた。
「なんか。かわいそうだな」
けれども、それが彼のいた世界。
「……じゃあエヌくんも、本当のご両親とは赤ちゃんのときに?」
勇者の表情は変わらない。黙々と階段をのぼっている。
「勇者エヌを継いだ後、旅の途中、生家は訪ねた」
十階の踊り場に出た。
「そっか。よかった。ご両親とはそのとき会えたんだ」
彼に向かって笑んだ。
踊り場で、彼が足を止めた。耳を澄ましているように見えた。
「少し休もう」
言われて気がついた。息がはずんでいる。
「あなたの成長した姿に、ご両親はよろこばれたでしょうね」
ほんとうの親に会えた時の気分というものは、どんなだろう。すこし聞いてみたかった。
勇者は目を細めて笑んだ。
「だと良いがな」
真琴は、彼の顔を見た。
「って、会えたんじゃないの?」
彼の顔が、笑んだまま上階へ向かう。
「すでに石の下だった」
真琴は、彼を見つめたまま、息を呑んだ。
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次回は、明日7:00に公開予定です!




