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勇者04──防衛省異世界対策室の少年  作者: 朱実孫六
新宿の騎士たち

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第11話 勇者エヌ

 階段を先行く勇者の足の速さに、真琴は足をもつらせかけた。


「ちょっと、あし、早いって……!」


 彼は三段飛ばしで行く。スニーカーとカジュアルパンツだとは言え、真琴はついて行くのもおぼつかない。踊り場の表示には六階とみえたが、そのはるか先で勇者は、我にかえったように足を止めた。そしてあわてて振り向いた。


「すまない、……つい」


 その表情は、濡れた子犬に似ていた。息のきれたまま真琴は追いついて言った。


「……ってか、いまの、例の〝仲間アレルギー〟?」


 膝に手をおいて息を吐き、そして吸う。降りそそぐスプリンクラーのシャワーにむせこんだ。見上げると、勇者がしょんぼりと肩を落としていた。




 面会室で屍鬼を葬った、鉄面のような冷たい顔。


 静かに気配をうかがうときに見せる、耳を澄ましている彼の横顔。


 そして今、困ったように眉尻を下げている顔。


 そのどれも、やはりずっと前から知っている人のような気がしてしまう。




 真琴は彼の胸をグーで小突いた。


「まぁ、そんな顔しなくても大丈夫よ。おこってないから」



 滝のような階段を踏みしめて、また上りはじめる。


「それよりも、名前だよ。わたしのなまえ!」


 ジト目で彼を見た。


「面会室では〝忘れたほうがいい〟とか言ったくせに、いつの間にか、キターラって呼んでんじゃん」


 並んで階段を登る勇者が、横目をよこした。戸惑っているのか、彼は鼻の先をこすった。


「たしかにな。つい……」


 七階の踊り場に出る。


「いまは真琴。朝倉真琴」


 勇者がうなずいた。


「承知した。今より、マコトと呼ぶ」




 実のところ真琴は、彼からもっと彼女、キターラのことを聞きたかった。けれども今はその時じゃないとも思う。


 昨日、ニームとの戦闘のさなか、心の中から語りかけてきたあの声の主。そして、あのいつもの夢の中の白い髪の少女。キターラとは、彼女の名前なのだろう。


 前世とか、転生とか。そんな言葉が心の中に浮かんでは消えていく。




 黙って歩いていた彼女に、勇者が言った。


「マコトとは、どんな意味の名なのだ」


「あ? んー。上は〝ほんとうの〟って意味で、下は、お琴とかハープとかさ。弦楽器っていえばわかる?」


 そう答えると、また勇者が目を曇らせた。真琴は口をへの字にした。


「なんでいま残念そうな顔した」


「すまぬ……。いや、やはりそうであったかと……」


 きっとキターラの名前の意味だ、と真琴は思った。勇者は言葉を探している顔をしていた。

 

 いずれにしても、彼は言いにくそうだった。真琴は先に、話題を変えるように表情を変えた。


「ほら、足止めてるヒマないよ。話しながら行こ」


 勇者はついてくる。


「そういえばだけど。名前って言えばさ、思い出したんだよね。わたし、昨日あなたのこと、エヌさまって呼んでた」


 返事はなかった。一体どうしたというのだろう。真琴は雫の落ちてくる前髪を分けた。


「ね。エヌって名前で、合ってんの?」


「うむ。たしかに僕の名だが……」


 真琴は口を尖らせた。


「てかさ、仲間アレルギー以外にもまだなんかあんの?」


「いや、エヌというのは……初代勇者の名なのだ。僕も先代から引き継いだ。転化の甲冑とともにな」



 継いだ名前だと言うのなら、それでもよい。けれど、ならば彼本来の名前もあるはずじゃないかと真琴は思った。つまり〝勇者エヌ〟の名を継ぐ前の彼個人としての本来の名が。



「じゃあ、そのまえは、どんな名前だったの?」


「それは……」


 彼は口ごもった。そしてボソリと、歯切れ悪くつぶやいた。


「〝4号〟……だ」


「へ?」


 あっけにとられてしまった。


「って、ゼロフォーはこの国がつけた番号じゃん。そういうの今はいいから」


「いや、だから、ほんとうに……僕は……〝4号〟なのだ」


 名前を言いたくないのかなと、真琴は思った。あるいは、彼らにも真実の名前を伏せておく文化があるのかもしれない。


「……じゃあ、とりあえずエヌくんでいい? なんかそっちのが、わたしも馴染みを感じるし」


 そう言うと、勇者の顔が、すこし照れたように見えた。


「そうか。ならそれで構わない」


 真琴は前を向いた。


「わかんないなぁ。異世界人の情緒って……」


 けれども内心では、


(よかった。番号で呼ばれても、そんなに傷つかないんだ)


 彼女は少し、ほっとした。



ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、本日18:00に公開予定です!

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