第1話 ②
◇ ◇ ◇
──平成38年、10月31日。日曜日。
スマホに起こされて、朝倉真琴は、ベッドの上にはねおきた。
「……!」
けれど目のなかに、まだ夢の内容がこびりついている。
冷たい石敷きの大広間。松明の灯りに揺れる魔王の影と、仮面の金の亀裂。
そして、勇者の精悍な横顔──。
激しい鼓動と、手のとどかない先にある焦燥感に、真琴は額をおさえた。
けれども、そこで彼女は、夕方からのバイトを思いだした。
「あ……」
眼鏡をかけ、手にしたスマホには高校の友人の名が見えた。アラームだと思って消したが、表示内容はたった今とある着信だった。
「やっば……。でも待って、おちついて」
呼吸をととのえてから、画面をタップする。
「ごめん、寝てた!」
ハンズフリーにする。聞こえてきた友人の声は、ひどく落ちついていた。
『だと思ったよ。早めに連絡してよかった』
真琴は、クシへと伸ばしていた手を止めた。
「へ⁉︎ はやめって?」
友人の声は、穏やかなままだ。
『外、見てみなよ。まだお昼の三時』
振り向くと、西新宿の空が霞んでまだ青かった。
『あと二時間あるからね。まー、ゆっくり用意しな』
「よかった……」
『でも、あんたのことだから確認するけれど、場所は新宿ハルクの前だかんね。JRの西口よ、西口』
「わかった。新宿西口ね。ありがと」
通話を切った。
遠くで解体工事の音がしている。
まだ動悸がしている。電話のせいもあるが、おおもとは久しぶりにみたあの夢のせいだ。
真琴は寝癖のついた黒髪の毛先を摘んだ。
「なんで夢だと、そういえば髪が白いんだろ」
そのとき彼女は、ふと、遠い窓の外から誰かに呼ばれた気がした。
でも、振りむいた先には、西の空は晴れているだけだ。
そう。晴れている。
新宿副都心の高層ビル群が、霞んで見えている。
その下に、誰かがいる──ような気がするのだ。
「そんなワケないか……」
眼鏡を外し、拭く。
けれど、胸騒ぎは止まらない。
久しぶりの、あの夢。
子どもの頃から何度も見てきた同じ夢だ。
青い鎧の少年と、白い髪の少女の、しあわせな旅が終わる、あの暗い大広間での戦いの夢……。
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