第10話 新宿の騎士
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新宿警察署は階段でも、天井のスプリンクラーから大量の水が降り注いでいた。
真琴はリュックを抱え、勇者に手をひかれながら走ってきた。エレベーターの表示は一階から動かず、何度ボタンをおしても反応しなかった。スニーカーは中まで水がしみている。冷たさに足指の感覚がなくなりかけている。
三階の階段踊り場で、真琴は壁にもたれて、呼吸を整えた。息が白んでいる。
「下からの銃声は止んだみたいだけれど、どうしよう。上に行くほうがいいのかな、下かな……」
勇者は短く言った。
「アサクラどのは」
「父は……二階にいるはずだけれど……」
リュックの口だけ少し開けて、スマホの画面を確認する。父からの連絡は入っていない。
「ダメかもしれない……」
つぶやきは、喉で詰まった。
勇者はその肩を抱いた。
「希望を捨てるな」
見ると、勇者が耳を澄ませていた。目を薄く開いている。
その唇が言った。
「下階に気配を感じる」
「気配……?」
勇者は彼女を見た。
「話し声がしている。となると、多くは生者のものだ」
真琴が目をきつく閉じた。父の安否が胸を刺すが、手首に巻いているG-SHOCKを胸に抱いて祈る。
そこに、ひとつ、彼女の耳にも上階からの……うめき声が聞こえた。
目をひらいても、たしかにそれはまだ聞こえている。
彼女は、勇者の手を握りなおした。
「だれかいる……!」
「──うむ。生存者かもしれぬ」
うなずいて、ふたりは階段を駆け上った。
滝のように水が流れる階段を駆けあがる。勇者は、四階フロアへと続く廊下の前で立ち止まった。防火扉の影に身を寄せ、拾った割れ鏡の破片をそっと向こう側へ覗かせた。
通路の向こう側を確かめているのだろう。真琴はその背中に寄り添った。彼女は彼女で下の階を警戒している。
四階廊下からは、スプリンクラーの雨霧を抜けてきて、なおまだ匂う配電盤か何かが焦げたような臭気がする。真琴は鼻を鳴らした。
動きを見せない勇者の背中に、彼女はささやいた。
「誰かいる……?」
小声が返ってきた。
「いる。だが、虫の息だ」
割れ鏡を覗き込むと、勇者がその角度を変えた。真琴にも仰向けに倒れている警官の姿が小さく見えた。
「いってみるか」
勇者が足を踏み出したとき、天井から全館放送が流れた。
手をつないだまま、真琴も足を止め、顔をあげた。スピーカーが震えながら男性の声を降らせた。
新宿警察署は現在、何者かの襲撃を受けている。署内になだれこんだ襲撃者の数は数十。しかも女性型の特異体が、一階の正面玄関で陣取っているらしい。
真琴が言った。
「女性型の特異体って、ニームかな」
「そうであろうな」
勇者が目に入る雫を拭いながら言った。
「奴が昨日の傷を癒すため、やはり民を食らったのであろう。その食いさしに魔王が息吹をそそいだ」
それが屍鬼だと、彼は言った。
真琴が親指を握りこんだ。
「あのとき、わたしが、あなたを止めていなければ……」
出さずに済んだ被害者だったかもしれない。くやしさと申し訳なさが、喉まで込み上げてきた。
けれども勇者は、彼女の頭をなでた。なにも言いはしなかったが。
全館放送は、非常階段を使って避難と、持ち場によっては救援が来るまでの防戦を呼びかけている。
勇者は、割れ鏡をポケットにしまった。
「屍鬼だけなら、この城の者でもなんとかなろう」
「やっぱり厄介なのは、ニームとソルバウってこと?」
「うむ。装備がなければ僕でも……太刀打ちはむつかしい」
そうなんだ……と真琴が肩を落とすと、今度は勇者が彼女へ尋ねた。
「城には増援のあてがあるのか」
「うん。警察署は東京に他にもたくさんあるからね。……そのあたりは父に聞いてみたいけれど、せっかくスマホがこの放水じゃね……」
見上げるスプリンクラーから吹き出している水に、止む気配はない。
天井からの隙間ないこの雨のせいで、まともにスマホが使えないのだ。今はリュックのなかに閉じこめておいて濡らさないように覗き見るのがやっとだ。
真琴は、リュックを胸の前で抱えなおした。
「とにかく、あのお巡りさんの所に行ってみよう。まだ助けられるかもしれない」
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次回は、本日18:00に公開予定です!




