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勇者04──防衛省異世界対策室の少年  作者: 朱実孫六
再会

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第8話 ②

 とにかく手を揉んで、考えて、勇気をだそうとして、自分の腰をそっと叩いた。


「その……教えてほしいの。よかったら、だけど」


 勇者は膝の上に手を置いて、こちらを見た。


「構わないが」


 やはり、髪も整っていて、昨日の血で汚れた表情とは別人のようだった。


 むしろ、こっちのほうが見なれている気がする。


 鼻先をかいてから、顔をあげた。


 いまなら胸のつかえがほどけているような気がした。


 あのね、と口を湿らせた。


「キターラって、なに」




 勇者は、あらためて黙って、見つめてきた。寂しそうな目が、愛おしいものを見る目に変わっていくのが真琴にもわかった。


 遠い記憶の風が、胸のなかでふいている。


 なにか、とても大事な時間の続きを、いまもしているような気がした。


 勇者は、納得がいったように、わずかにうなずいた。


「そうか。記憶がないのだな」


 彼の視線が自分の髪を見た気がして、真琴は前髪にふれた。


「なにか、ついてる……?」


 勇者は微笑んだ。その首を横にゆっくりと動かした。


「いや。あの頃のままだ」


 その言葉がもう、答えのようなものだった。


 けれど真琴には、わからないことだらけだった。


「きのう、とっさにだした透明な丸い光も、なんだったのか……もう憶えてないの」


 勇者が、膝の上で指を組んだままつぶやいた。


「防御魔法だ」


 そのことばを、真琴はなぞった。


「防御、魔法……?」


 昨日の光景がまとめて脳裏にうかんだ。




 勇者は沈黙し、真琴は記憶のなかを、さまよい歩いた。


 気がついて腕時計を見ると、残り時間は5分になっていた。


「──でもなぜ、わたしは魔法なんかつかえたの?」



 答えない勇者は、ただそんな彼女を見ていた。


 真琴のほうは、次の言葉を待った。彼から目を離さないままに。


 透明な仕切り板に、残り時間が削られていく。


「いいわ」


 自分の身の上を話すことにした。父母とは血が繋がっていないこと。母は十年前に亡くなり、父も本当のことを教えてくれないこと。


 勇者は、真琴を見つめたままいる。が、耳には届いているようだ。


 彼女は、それを信じることにした。


「──養子か、なにかだろうと思っていたけれど、昨日のことであなたと、あの防御魔法が、わたしの生まれと関係しているような気がしてならないの」


 それもあって昨夜は眠れなかった。怖かったのもあるけれど、そこは言わない。


「お願い。なんでもいい。聞かせてほしいの」


「──そうか」


 勇者はアクリルの向こうで天井を見上げた。


 その変化に、真琴は前のめりになった。


「……わたしのことなんでしょ、キターラって」



 けれど、また勇者は答えなかった。


 ただ天井をあおいで目を閉じ、苦しそうに言った。


「忘れたほうがいい」




「なぜ?」


 アクリル板ごしの勇者へ食い下がると、彼は、


「巻き込みたくない」


 と、だけ言った。


 痛みをこらえているかのように、勇者が胸の前で腕を組んでいた。








 ──そのとき。


 面会室に、かすかにだが、連続した射撃音が届いた。


 勇者も顔を上げ、昨日と同じ鋭い目で言った。


「これは、あの石火矢の音……」


 立ち合いの警察官はパイプ椅子から立って、ふたりに告げた。


「時間前ですが、なにか外で起きているみたいです。会話はしないで、ここで少々待っていてください」


 警官がノブのないドアへ歩み寄り、内側からノックした。受付から返ってくるはずの足音に耳をすませている。


「──おかしいな」


 警官は首をひねって、もう一度ドアを強めに叩いた。


 けれど、やはり反応がない。




 真琴も勇者も、耳に集中する。


 そのなかに、かすかな悲鳴と銃声を聞き取れた真琴は、息を呑んだ。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日7:00に公開予定です!

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