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勇者04──防衛省異世界対策室の少年  作者: 朱実孫六
再会

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15/20

第8話 アクリル越しの再会

 少年の横顔は、昨日より血色が良くなっているように見えた。


 正面に立った彼は、アクリルごしに穏やかな目をあげた。


 服装の変化もある。昨日とは別人のような勇者だった。


 しずかに息をして、そんな彼がこちらにほほえんだ。


 胸に熱いものが込み上げてきた。昨日、命を救ってもらったからだけではない。会ったこともないはずなのに、間違いないと思った。ずっと前から知っている人としか感じられないのに、その記憶が残っていない。


 真琴は目を離さないまま、めまいがしてきそうだった。親指を握り込む。






 立ち合いの警察官の柔和な笑顔に促され、アクリル板を挟んで腰掛けた。


 穴が点々と開いた円い通話口の向こうに、勇者がいる。


 腰かけて、ややうつむいたまま、微笑んでいる。


 何度か目をあげているうちに喉が乾いてきた。


 ありがとうと……言うだけのはずなのに。




 お互いにうつむいたままで、真琴の手首で腕時計が音もなく進んでいく。定められている面会時間は20分以内だ。


 胸いっぱいに息を吸い込んで、通話口の向こう、真新しいシャツの白いボタンをみて、吐いてから言った。まるで残念なような声がでた。


「昨日は、ありがとう」




 勇者は、小さな笑顔で首を振った。


 そのしぐさに、真琴は安心した。そのあたりの機微は人間と変わらないらしい。


 ほっとしたながれで尋ねた。


「けがは、どう?」


「問題ない」


 よかったという意味で、彼にうなずいた。


 こうして見ると、ほんとうに昨日の彼とは別人だ。なだらかで広い両肩に、仔犬めいた目鼻立ちの顔がのっている。そしてまた、その目が優しく笑む。


「それよりも、きみが無事でなによりだ」


 あたたかい眼差しに、おもわずうつむいた。


 無条件に照れる。だが、なぜ、ほぼ初対面にこんな言葉が出てくるのかと複雑な気持ちもある。


「それは……おかげさまで……」


 


 それから、またふたりは黙ってしまった。


 ちらと目をあげると、仔犬が微笑んでこちらを見ている。


 真琴が、なにも言えないうちに、時計の数字が3分すすんだ。


 面会室は空調の音だけがしている。


 頭の中は「話さなきゃ」でいっぱいなのに、彼を直視できない。顔も熱い。口をひらこうとするけれど、なにも話題が浮かばない。真っ白な空間に「話さなきゃ」だけが渦巻いている。


 見やると、立ち合いの警官は、留置場側で壁に向かってパイプ椅子に腰かけている。メモもとらず、ただそこに座っているだけ。会話に口を挟んでくる様子もない。




 真琴は、言った。


「──と、とにかく、わたしね、あの、自衛隊っていうんだけど、わかるかな……。軍隊みたいなものなんだけど」


 勇者はずっとこちらを見ていたらしい。


「国をまもるものたちか」


「そう!」


 真琴は身を乗りだして、顔を近づけすぎたアクリル板から、ややうしろに戻った。


「そ、それで、父がね、あなたにも仲間になってほしいって言ってるの」


 そう言うと、すこし肩の荷がおりた気がした。仕事だと思えば声がでた。


 けれど勇者は、通話口のむこうで、目をそらしていた。


「そうか。アサクラどのが、きみの父上か……」


「知ってるの?」


「うむ」


 勇者は、うつむいたまま首すじに手を置いた。


「きのう、僕が誘いを断ったからな」




 仕切り板ごしに、彼の目をみることに慣れてきた。


「そっか。なのに今日はわたしが来ちゃったわけか。なんか……ごめんね」


 苦笑すると、今度は彼がうつむいた。


 よく見ると、頬にほのかな血の気がさしているようだった。


「いや……。よかったのだ。……心配だったのでな」


 よく聞こえなかった。


「え、なんて?」


 勇者は首に手を置いたまま、さらに猫背になった。


「……心配だったのだ」




 聞いて真琴も、またうつむいてしまった。


 顔が熱くて、腕時計はみられなかった。




「わたしも……」


 心配してもらえて嬉しかった。


 おもわずつぶやいていたそれが、急に恥ずかしくなった。


 手のひらを両手で前に向けた。


「──いや、その、わたしもってのは、あなたに会えるってきいて自衛隊のバイト、はじめちゃってさ……」


 なにを言っているのか自分でもわからないが、嘘をつくつもりで本当のことを口走ってしまったのはわかる。もう、わけがわからなくなってきた。


「なんか、とにかく、ごめんね。しつこく仲間になれって親子でお願いにきちゃって」


 ごまかしに笑いながら腕時計を見ると、残りあと10分になっていた。


「──は、早っ! はなし、かえよっか」


 仕切り直しておきながら、話題につまった。


「なんだろう、こんなところ、はじめてでさ」


 たぶん立ち合いのあの警官の背中が悪い。



ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、本日18:00に公開予定です!

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