第7話 ②
三階の留置管理課の面会受付で、防衛省の身分証に加え、マイナンバーカードを差し出すと、男性職員の表情が和らいだ。
「例の少年との面会ですね。お待ちいただけますか」
鍵付きのロッカーにスマホとリュックを預け、受付近くのベンチに腰掛けた。
天井近くに狭い窓があるが、そこにも鉄の格子が入っている。
火事の時とかどうするんだろと思いつつ、手がスマホを探す。けれど考えてみれば、いまロッカーに預けたばかりだった。
腕時計を持たせた意味が、腑に落ちた。
「そういうことか……」
受付の説明によると、一般人の面会時間は最大でも二十分らしい。
待合のベンチから、掲示物を眺めてすごす。
指先が行き場をなくし、ボトムスの糸くずをつまんですごす。受付前の廊下を、三人連れの警官の靴音が近づいてから遠のいていった。
格子戸が閉まる音と共に、靴音が消えると、奇妙なくらい静かな待合に戻った。
こうなると、まぶたが重くなってくる。
目を擦って顔を向けると、一般用の面会室は二部屋あるらしい。このどちらかで彼が現れるのだと思うと、とたんに鼓動がはね上がった。
十五分も待っただろうか。腕の時計を見ようとしたとき、受付から警官が呼びに来て、真琴は立ち上がった。
ひとりで通された面会室1は、六畳ほどの、狭くて生活感のない部屋だった。壁に窓はなく、待合よりもさらに音がなかった。
部屋の中ほどには、机ほどの高さの仕切り台があり、その上部のアクリル板が天井までを仕切っている。
仕切りの中央には、そこだけ二重になった円形の通話口があった。
向こう側、留置人側のドアにはノブがなかった。真琴は一瞥したのち、思わず二度見した。
ノブのあるべき場所が、つるっとしていて、鍵穴だけが付いている。
振り返って確かめると、自分が入ってきた面会人側のドアには、ちゃんとノブがあった。ほっとして、胸を撫で下ろした。
通話口の前にあるパイプ椅子へと腰掛ける。
仕切りの向かい、留置場側でも、パイプ椅子がこちらを向いている。まもなくここに彼が腰をおろすことになる。
そうなれば、待ち焦がれていた対面だ。
胸に手を当て、呼吸をおちつけた。
冷静になんてなれるわけないけれど、しないよりはましだ。
目を開けると、二重になった通話口のアクリルに、自分の顔が二つ重なって映っていた。
天井の照明の反射で輪郭がわずかに歪み、もう一人の自分がこちらを見返している。
緊張していないと言えば嘘になる。
父は、
「警察庁と防衛省のあいだで、すでに話はついている」
そう言っていたが、このアクリル板を挟んであの少年と、自分はどんな話をするのだろうか。
この点について、真琴は完全にノープランだった。
どんな会話になるのか、まるで予想がつかない。もしもこちらの本心を話せたとしても、子どもの頃から夢で会っていたの話など、とても人様に聞かせられる会話にはならない。
というのも、仕切りの向こうの留置人側には、壁向きに小さな事務机とパイプ椅子があり、そこに立ち合いの警察官が同席するからだ。
防衛省を名乗って、生まれる前の記憶だの、そんな会話をしてよいものだろうか。真琴は小さくため息をついた。
かと言って、いきなり「仲間になって」とも言えない。
防衛省からの打診を、すでに昨日、彼が断っている。
しくじれば、彼と話せる機会も、全部なくなるかもしれない。
「あんがい、こういうのって一発勝負なんだな……」
かたちのない気持ちだけがある。どう伝えればよいものか。
「……まずは、雑談でいいか」
父のG-SHOCKが、無音で秒を刻んでいく。
室内の空気が体温を奪う。
これは、母が結婚前に父へと贈ったものらしい。
そんな母の顔を思いだしているうちに、足音が聞こえてきた。
上着の襟元を正した。
心臓が喉から飛びだしそうなほど、高鳴っている。
留置側のドアが開いた。真琴は立ち上がった。真新しいシャツとスラックスの少年が、男性警官とともに入室してきた。
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次回は、明日7:00に公開予定です!




