第1話 禁忌魔法の少女──その夜、勇者パーティは消えた
新連載はじめました。なろう公式アプリから読んでブックマークしていただけるとランキングが上昇して作者のモチベが上がるので、ぜひよろしくお願いします。
──その夜。
勇者パーティは魔王城で窮地を迎えていた。
石造りの間に、松明が揺らめいている。
女僧侶キターラは、勇者の腕の中、瀕死のまま、なおも魔王をにらんだ。
「卑怯……」
そのうめきに魔王は低く笑った。
「卑怯とはどちらのことか。多勢で押しかけて。のう、女僧侶」
彼女を胸にいだく勇者は、仲間ふたりの亡骸を目に、唇を噛みしめた。
「いや……すべては、この僕の甘さのせいだ」
黒い仮面の魔王が、配下の最高幹部二名を召喚したのが、つい先ほどのこと。
退路の間口からも、屍鬼の群れがあふれてきた。
勇者たちは、包囲され、背中あわせに武器を構えるしかなかった。
すぐ、蛮獣の幹部が跳躍し、勇者の剣に白い火花が弾けた。剣と斧がぶつかり火花を散らす音が、次第に遠のいていく。
闇の中、赤い光が走り、キターラは勇者を防御魔法で囲った。しかし魔王の狙いは彼女だった。魔法弾が急に向きを変えて、鼻先で炸裂した。受け止めきれず背中から石壁にたたきつけられた。
それきり壁際で倒れ、肺がつぶれたのか、彼女は息をするのがやっとだった。
閉じゆく瞳に、青い光の残像が映っている。屍鬼を盾にして、挟み撃ちの魔法弾を爆発させる戦士と、闇の中を駆けめぐり、その爆炎の中から蛮獣へ斬り込んでいく勇者の甲冑の激しい光。
けれども形勢は、しだいに魔王の手へと落ちていく。
天井の継ぎ目から、何度も埃がこぼれた。
静寂に気づいて、彼女が目を開けたとき、玉座の間には、松明の炎だけが揺れていた。
見ると、戦士は、すでに息絶えていた。
魔法使いは、生きたまま、魔王の渇きをうるおす血袋になったらしい。枯れ葉のようになって、その足もとに転がっている。
キターラは、青い手甲の腕に頭を支えられ、わずかな声をしぼり出した。
「……勇者、さま……」
「しゃべるな、呼吸をつづけろ」
目をあけると、彼の顔が見えた。安堵した。勇者の目は、まだ暗闇の向こうに活路を探している。
しかし、彼女は、からだと首に力をこめた。
「禁忌魔法の、使用許可を……ねがいます」
勇者は彼女の顔を覗きこんだ。
「いや、だめだ、命には換えさせぬ」
けれど、キターラは知っている。自分の命の残り火を。
「この世界を……救うには、もう……」
閉じた目に、勇者の歯ぎしりが聞こえた。
彼の腕を枕に、キターラは微笑んだ。
「どのみち、わたしは、もちません……」
勇者の腕の中、精いっぱいの息を吸いこんだ。
思い残すことはない。
最期のさいご、望みは、こうして叶っている。
「勇者さまは、どうか、ご転進を」
そこでいっそう強く自分が抱きしめられたことに、薄目がひらいた。
触れあう位置に、彼の頬があった。
「わかった。だが一緒にいくぞ。キターラ」
彼女は微笑んだ。
「なりません……」
重たくなった腕を持ち上げて、勇者の髪にそっと触れた。
「まだ、よろいが光っています」
彼は黙っていた。
魔王の黒い仮面の上、左眼を縦にはしる金色の亀裂──金継ぎが、松明の灯りを反射している。
その魔王の声が、大広間にこだました。
「どうだ。存分に別れはできたか」
黒い仮面が手を突き出すのが見えた。魔力でこちらを握りつぶしていく気にちがいない。
「余からもたむけだ。望み通り、ひとつにしてやろう。この手でな」
縮まっていく空間に、勇者の骨がきしむ。身を突っ張って抵抗しているのだ。
「……すまなかったな。寂しい思いばかりで」
涙があふれた。
「いいえ、たのしかったですよ……」
本心だった。
ほかに何を言えたろう。彼女は勇者の背を、そっとなでた。
そのまま背中に両腕を回し、呪文を口にする。
世界と世界の境を穿つ、一族の禁じられた術式。
あたたかい音韻の、故郷の言葉が迎えに来た。
時の輪が、動き出したように、空気が震えた。
直後──
瞬間、次元が縦に裂けたことも──
勇者が、キターラに口付けしたことも──
力が抜けた、その後のことを、彼女は覚えていない。
◇ ◇ ◇




