表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MORNING WOMAN  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

最終話 朝が終わる場所

ON AIRの赤いランプが消え、スタジオの照明が少しだけ落とされた。

 まるで深呼吸をするように、空気がゆるむ。


 「お疲れさまでした!」


 誰かの声を合図に、スタジオに拍手と笑い声が広がった。

 疲労と達成感が入り混じった、独特の音。


 天海うららは、しばらく自分の席を立てずにいた。

 イヤモニを外し、そっと机に置く。

 その手が、わずかに震えていることに気づき、彼女は小さく息を吐いた。


 「……終わったんだ」


■午前8時20分──スタジオフロア


 黒崎チーフがゆっくりと近づいてきた。

 「よくやったな。今日の朝は、君にしか作れなかった」

 「いえ……みんながいたからです」


 そのやり取りを、藤田エイジが少し誇らしそうに見ている。

 「天海さん、SNSの反応すごいですよ。

 “安心した”“声を聞いて落ち着いた”って」


 うららは少し驚いたように目を丸くし、そして静かに笑った。

 「……よかった」


 布施マキがコーヒーを差し出す。

 「ほら、これ飲みなさい。朝の戦いが終わった人の顔してる」

 「マキさん、ありがとうございます」


■午前9時──控室


 メイクを落とし、衣装を着替える。

 鏡に映るのは、“朝の顔”ではない、少し疲れた30歳の女性だ。


 「完璧じゃなくていい。

 ちゃんと伝えようとしていれば、それでいい」


 今日の放送中、自分が何度も心の中で繰り返した言葉。

 それは視聴者のためであり、同時に自分自身のためでもあった。


 スマートフォンに、母からのメッセージが届いている。


 ――「今日も見たよ。無理しすぎないでね」


 うららは画面を見つめ、少しだけ目を伏せた。

 「……うん」


■午前10時──帰り道


 スタジオを出ると、雨はまだ降っていた。

 だが風は、確実に弱まっている。


 傘を差しながら歩くうららの隣に、エイジが追いついてきた。

 「天海さん、今日の放送……本当に勉強になりました」

 「え?」

 「生放送って、台本通りにいかなくていいんだって。

 人の言葉で、ちゃんと話せばいいんだって」


 うららは立ち止まり、少し照れたように笑った。

 「それ、私も毎朝思ってる」


 二人は小さく笑い合った。


■午前11時──24時間の終わり


 自宅のドアを開け、靴を脱ぐ。

 テレビはつけない。

 今日はもう、“朝の情報”を受け取る側でいい。


 ソファに座り、深く息を吸う。

 身体の奥から、ようやく力が抜けていく。


 「明日も、朝は来る」


 それは当たり前で、奇跡のようなこと。


 天海うららは、目を閉じた。

 次に目を覚ましたとき、また“朝の顔”に戻るために。


 画面の向こうで誰かが待っている限り、

 彼女は明日も、笑顔で立ち続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ