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MORNING WOMAN  作者:


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3/5

第3話 午前2時──スタジオが目を覚ます

午前2時。

 外の世界がまだ深い闇に沈んでいる時間、情報番組「STARTING!」のスタジオだけがゆっくりと目を覚ましていた。


 照明テストの白い光が天井から降り、まだ眠たげな床に影を作る。

 機材チェックの電子音がぽつりぽつりと響き、やがてスタッフが一人、また一人と集まり始めた。


 天海うららは控室で目を開けた。

 短い睡眠でも、彼女の表情には疲れを感じさせない不思議な気品がある。

 「……おはよう、今日もよろしくね」

 鏡の中の自分にそう言い、軽く笑う。


■午前2時30分──メイクルーム


 メイク担当の久住が笑顔で迎える。

 「天海さん、今日は台風特集がメインだから、少しきりっとした感じにしますね」

 「お願いします」


 メイクの筆が肌を滑り、うららの顔は“朝の顔”へと変わっていく。

 この瞬間、彼女は毎回小さく背筋を正す。

 “ここから私はスイッチを入れるんだ”という合図のように。


 そこへ、半分寝かけた氷室ケンタがふらりと入ってきた。

 「天海さーん……僕、寝ながら歩いてませんよね……?」

 「ケンタさん、それ完全に寝不足の人の発言です」

 久住が笑うと、うららもつられて笑った。


 その笑顔が、メイクルームをほんのり明るく照らす。


■午前3時──台本最終チェック


 スタジオ横の会議スペース。

 黒崎チーフと森下プロデューサー、藤田エイジ、構成作家が台本の最終更新に追われていた。


 「進路がさらに北寄りに修正されました。風速も予測より強いです」

 氷室が資料を片手に駆け込む。


 黒崎は眉をひそめた。

 「現場リポートは中止だ。新庄ルリにはスタジオ待機で映像を読むだけに切り替える」

 「了解です!」

 エイジがすぐに連絡を取り始める。


 この瞬発力こそ、生放送チームの生命線だ。


 うららはそのやり取りを黙って見つめながら、胸の奥で思った。

 “みんな、この番組を守るために必死に走ってるんだな”


■午前4時──スタジオリハーサル


 照明が本番さながらに点灯し、スタジオは一気に“朝の表情”となる。

 カメラの赤ランプはまだ点かないが、緊張感はすでに本番同然だ。


 「それではリハ、台風パートからいきまーす!」

 エイジの声が響く。


 うららは台本を握り、カメラに向かってリハーサル用の声を出す。

 「おはようございます。『STARTING!』の天海うららです。本日は台風接近の影響で──」


 その声がスタジオ全体に広がり、スタッフの背筋が自然と伸びた。


 布施マキがちらりと彼女を見る。

 「……やっぱり、あの子がいると空気が締まるわね」


 黒崎チーフも小さくうなずいた。

 「天海うららは“朝の象徴”だ。

  俺たちはあの声に合わせて、朝を作るんだよ」


■午前4時55分──スタンバイ


 スタジオ全体が、まるで息を止めたように静まり返る。

 モニターには、あと5分を示すカウント。


 うららは深呼吸した。

 エイジがそっと近づき、小声で言う。

 「天海さん……今日も、誰より頼りにしてますから」

 「ありがとう。……行ってくるね」


 ヘッドホンを軽く触り、マイクを整える。

 照明が少し強くなる。


 黒崎チーフの声がイヤモニから聴こえた。

 「うらら、頼むぞ。今日の朝は、君の声で始まる」


 “分かっています”


 うららは静かにうなずいた。


■午前5時──本番5秒前


 カウントが始まる。


 5──4──3──2──


 すべての音が消えた。


 1── ON AIR


 カメラの赤ランプが灯る。

 うららは完璧な笑顔で画面の向こうを見つめ、大きく口を開いた。


 「おはようございます。『STARTING!』、天海うららです──」


 その声は、嵐の朝に立ち向かう人々へ向けた、やさしく強い“朝の合図”だった。

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