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君の名は

――委員会活動。最年長の三年生の中から、各委員の委員長が選ばれる。

 変化を好まない凪原は当初美化委員に入ろうとしたが、男子生徒が殺到した為、断念する事になる。恐らくは、昨年美化委員だった黄泉辻渚が今年も手を挙げると予想した為だろう。


「広報委員は?新聞作り楽しいよ?」

 何となく黄泉辻に勧められた広報委員会が気になったので手を挙げてみる。他に立候補者もいなかった為、広報委員・凪原司が誕生した。


 ――放課後、委員会活動の時間。

 広報委員長には、三年C組百舌鳥(もず)(かなめ)が就任する。百舌鳥要は女子にしてはかなりの長身で、平均身長の凪原よりも少し高い。肩くらいの長さのショートボブで、真っ直ぐ斜めに揃えられた前髪が印象的だ。サバサバした性格で、女子バレーボール部のキャプテンも務めている。

 

「……百舌鳥って苗字カッコいいな」

 凪原の呟きを聞いて、黄泉辻はむっと頬を膨らませて珍しく嫉妬を露わにする。

「黄泉辻より?」

 凪原は真顔で首を傾げる。

「いや?それはあり得ないだろ」

「一番好き?」

「そりゃもちろん」


 それを聞いて黄泉辻は口元を大きくあげて嬉しさを顔全体で表現する。

「そっかぁ〜」

 

「そこー、委員会活動中にイチャつくのやめてー」

 就任した百舌鳥委員長から苦言が飛び、黄泉辻はシャキッと背を伸ばす。

「イチャついては……いないよ!?」

「そういうのは人目ににつかないとこでやってね、黄泉」

「要ちゃんは三年連続で広報委員なんだよ」

 黄泉辻は我が事の様に得意げに胸を張る。

「へぇ。じゃあ報道に一家言ある感じ?久留里みたいに家がそうとか」

 凪原の問いに百舌鳥は明るく笑う。

「ないが?広報委員になれば女バレの特集組めると思ってなった」

「……なんと清々しい公私混同」

「まぁまぁ、評判もいいしウィンウィンでしょ」

「そうかねぇ」


 そして、基本毎月発行の広報誌『鴻鵠館だより』新年度第一号の誌面会議が行われる。

「まず生徒総会の総括は必要よね」

「三月くんの写真はカラーで載せるべきだと思います!」

「オーケー、それはWEB版ね」

 昨年から発足した玖珂生徒会により、『鴻鵠館(こうこくかん)だより』はWEBでも公開されており、紙版よりも多くの写真がカラーで掲載されている。

 当然、プライバシーの観点から掲載写真は本人のチェックを経てからの掲載となる。


「四コママンガ描きたい人いるー?」

「四コマあんのかよ」

 恥ずかしながら、凪原はあまり真面目に鴻鵠館たよりを読んだ事はない。一年の時に、黄泉辻が担当したコーナーを読ませてもらった他は、去年末の中嶌事件の後で組まれたまほらの特集記事くらいだ。

「黄泉描く?あんた絵上手いじゃん」

「あたし!?いいの!?」

 意外に乗り気の黄泉辻。辺りを見渡すが他に手を挙げる人も無く、四コマは黄泉辻の担当となる。

「ついにあたしも漫画家デビューかぁ」

 黄泉辻は感慨深げに宙を眺める。

「アンケートも取るから、評判悪かったら打ち切りな?」

「……世知辛っ」


 ホワイトボードに企画案が書かれていくが、校内ルールの再確認や、施設利用規則など、どれもお固く無難で人目を引かない物ばかり。

 ホワイトボードに書かれる玖珂三月の名前を見て、凪原はふと思い出す。

「そう言えば、玖珂って二つ名あったよな?『学園内治外法権(アンタッチャブル)』だっけ?他にそう言うの付いてる奴っていんの?」

 凪原の問いに、百舌鳥は黄泉辻を指差す。

「そこにいんじゃん」

「あ、ガチ恋製造機(メイカー)さんがいたか」

「いないよ、そんな人」


「じゃあ、新一年への紹介も兼ねて、二つ名特集とかどうっすか?」

「ふぅむ」

 百舌鳥は顎に手をやり、真剣な眼差しで思案する。

「……それは、アリだね。じゃあ凪原班は取材宜しく」

 凪原は首を傾げる。

「凪原班って?」

「ん?あんた達二人。期限は三日ね、よろ〜」

 言い出しっぺながら早くも後悔する凪原とは対照的に黄泉辻はやる気十分だ。

「よしっ、凪くん。頑張ろ〜!」


 ――翌日、休み時間。広報委員の腕章を付けた黄泉辻と凪原は取材を行う。

「なんか無いっすかね、異名みたいなの」

 とりあえず、同じクラスの渡瀬まつりに聞いてみると、まつりはケラケラと笑いながら凪原を指さす。

「にゃぎはらあんじゃん。椅子の人とか、帰宅部先輩とか」

「俺の事はあろうがなかろうがどっちでもいいんだよ。絶対載せないから」

 それを聞いて隣の黄泉辻は抗議の声を上げる。

「あっ、ズルい!」

 まつりは自分を指さす。

「じゃあ、あーしは?『なかよし教』の教祖なんだけど」

「自称だろ?二つ名ってのはそういうもんじゃないんだよ」

 凪原はペンをクルリと回してまつりを窘める。

「無駄に厳しくてウケんね」


 二人はクラスを後にする。

「知り合いにばっか聞いても身内ノリでキツいもんな。学年変えようぜ。二年に行こう」

 意外にやる気を出してくる凪原に、黄泉辻も嬉しくなってくる。


 ワンフロア降りて3階。1、2年の教室があるフロア。高等部は3年のみが4階だ。

「ちわっす、広報委員っす。お聞きしたいんだけど、例えば二年で二つ名ついてるやついる?」

「二つ名?」

 凪原が質問した真面目そうな男子は首を傾げる。

「んー、かっこいいあだ名みたいな?」

「あぁ、それなら……『緋色の爆弾』とかですか?」

 自分で聞いておいて凪原は呆れ顔。

「もう誰かわかっちまったよ」

「緋色ちゃん、カッコいいね!」

「爆弾だぞ?」

 ――ルビを振るとしたら『スカーレットボム』だろうか?

 聞き込みをしていると、二つ名持ちは意外といない。学年でも屈指の有名人でなければ、ただの身内ネタにしかならないので、当たり前と言えば当たり前。


「センパイ!2年のクラスに来てうちの所に来ないだなんて、寂しいじゃないっすか!」

 他のクラスに聞き込みをしていたにも関わらず、聞きつけた久留里が教室の扉を勢いよく開けて元気よく登場する。

「爆弾が来たぞ」

「緋色ちゃんは誰がカッコいいあだ名付いてる子知ってる?」

 久留里は首を傾げる。

「ヤマケンとかっすか?」

「……山田健太か、山口健太かどっちだよ」

「あはは、センパイ正解。山口健太っす、A組の」

「不要な情報さんきゅー」

「ひどっす」

 久留里は楽しそうにけらけらと笑う。


「あとは――、女王とか、奴隷とか聞いた事あるっすかね」

「女王はともかく、奴隷は気になるな」

 凪原の言葉に久留里は神妙な面持ちで頷く。

「っす。これはイジメの臭いがするっすね。生徒会副会長の名にかけて、調査が必要っすね!」

「おう。多分生徒会室で聞き込みすれば、すぐ解決すると思うぞ」


 ――放課後。

「今日は随分二人で楽しそうにしてたじゃない」

 帰宅部の部室でまほらは不満げに口を尖らせる。

「広報委員会の仕事で異名持ちを探してたんだよ」

 凪原の言葉にまほらは眉を寄せる。

「異名持ち?」

「例えば、『女王』って異名を持ってる人がいるみたいなんだけど、どう思う?」

 試しに凪原が聞いてみると、まほらは頬杖をついたまま、呆れ顔で大きくため息をつく。

「どうもこうも無いわ。そんな異名がつく己の不明を恥じるべきよ。本人が呼ばせてるのかどうか知らないけど、どうせ尊大で厚顔無恥かつ品性下劣な輩なんでしょう?」

 まほら本人は全く心当たりのない様子。

「い、いや。そんな事はないと思うぞ?多分悪いやつじゃない」

 凪原のフォローにまほらはムッとして言い返す。

「へぇ、肩を持つんだ?」

「肩を持つって言うか、事実だし。ツンデレで捻くれてはいるけど、素直ないいやつだよ」

 まほらはやれやれと首を振る。まほら自身はツンデレの自覚などない。

「あっそ。その話はもう終わり。凪原くん、お茶」

「へいへい、女王様。……あっ」

「えっ?」

 二人の時が一瞬止まる。

「……ね、ねぇ、凪原くん?」

 己の発言を鑑みて、みるみるまほらの顔が赤く染まる。

「な、何でしょうかね?」

 まほらは恥ずかしさを発散するかの様に、立ち上がると凪原の肩を掴み、ガクガクと揺らす。

 

「私そんな風に呼ばれてるの!?誰に!?こんなにも慎ましく淑やかに過ごしてるのに!?心外よ!遺憾の意を表明するわ!そうだ、広報紙の全面を使って抗議文を掲載しましょう!生徒会の権限を甘く見ないことね!」

「その発言が既にそれなんよ」

 

 

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