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主従ラブコメは12月29日に終わる。〜ままごとみたいな主従ごっこは政略結婚に勝てますか?〜  作者: 竜山三郎丸


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美化委員、最後のお仕事

――3月下旬。期末考査を終え、三学期もあとは修了式を残すのみ。


 美化委員の今年度最後の委員会活動。凪原司と黄泉辻渚は南棟三階の清掃活動を行っている。今年ももう終わり。一年の感謝を込めての清掃活動、と言う建前だ。

「でも春休みに業者入れるんだろ?」

「もう、凪くん。それはそれ」

 水の入ったバケツを傍に、黄泉辻と凪原は窓ガラスを拭いている。

 廊下の端には和泉まほら。足を組んで椅子に座り、ボードを片手にペンを回し、二人の仕事の様子を眺めている。


「んで、まほらさんは何してるんですかね?」

「業務監査よ。前にも言わなかったかしら」

 しれっとまほらは答える。そして凪原はヘラヘラと軽薄な笑みで問い返す。

「そんなの無いって副会長は仰ってたけど?」

 まほらは小さくため息をつくと椅子から立ち上がる。

「あら、そう。無くしたのかしらね。まぁ、いいわ。椅子は片付けておいて」

 凪原は好機を逃さず、立ち去ろうとするまほらに追撃を図る。

「前から無いって言ってたよ?」

「ちょ、ちょっと凪くん……」

 黄泉辻が凪原を止めようとすると、逆にまほらが黄泉辻を止める。

「へぇ、つまり凪原くんは私より久留里副会長の言葉を信用すると言うわけね?」

 凪原を冷たい視線で見据えるまほら。黄泉辻はその後ろで何とか止めようとあわあわしている。

「こと記憶に関しては絶対の自信を持つこの私より、そそっかしくてうっかりさんでテストの点も悪いけど、日々真面目に熱心に一生懸命頑張ってるあの子の言う事を信じるって言うのね!?」

「結構好きが漏れてんな」


 別に凪原としても当然まほらを糾弾したいわけでは無い。ただのからかい、じゃれあいだ。

 

「ま、俺としてはどっちでもいいんだけどさ。せっかくの仕事納めなんだから、どうせなら見てってくれよ」

 まほらは大きなため息をつきながら、再び椅子に腰を下ろし、頬杖を付いて右手で二人に仕事を促す。

「あ、そう。そこまで言うならしょうがないわね。続けて?あ、黄泉辻さん。手止まってるわよ」

「黄泉辻、怒っていいと思うよ?」

 いつも通りのやり取りに黄泉辻はクスクスと笑う。


 各委員会はクラス二名ずつ。強制では無いが、希望者がいないとくじ引きになる。体育祭実行委員や文化祭実行委員などの面倒な役職には絶対就きたくない凪原は、早めに自ら手を挙げる。リスクヘッジだ。

 

 凪原は去年も今年も美化委員。黄泉辻は去年広報委員、今年は美化委員。まほらはどちらも入っていない。


「来年も美化委員やる?」

 窓を拭きながら黄泉辻が問う。

「風紀委員長からは『是非風紀委員に!』って勧誘受けてるけどな」

 黄泉辻は宙を眺めてほわほわと想像する。凪原と朝の校門で並んで風紀週間の取り締まりをする姿。

「それもいいかもね〜」

 弛んだ顔で気の抜けた返事をする。

 続けて、園芸委員。二人で花壇に水撒きをしたり、新しい種を植える。(……うん、これもいいっ)

 そして、図書委員。放課後の図書室で、二人並んで本を読む。会話はできないので、ノートを使って筆談する。

『黄泉辻のどこが好き?』『全部』。そんなやり取りが書かれたノートを夢想して、顔を赤くする。

 そして一人満足して何度か頷いて微笑む。(あるかもっ!いいね!)


「黄泉辻さん、手。止まってるわよ」

「うぁあっ!?ごごごごめん、まほらさんっ!やるやる、すぐやるっ!」

 あまりの動揺ぶりにまほらも困惑して首を傾げる。

「べ、別に怒ってないわよ?」

「そもそも何で監督してんの?」

 

 清掃活動は続く。凪原は廊下の掃き掃除とモップ掛け。まほらはその様子を眺めながらボードにペンを走らせる。

  

 廊下を掃く凪原、背伸びして窓を拭く黄泉辻。少し微笑みながら、二人の姿をペンで描く。まほら自身は生徒会の活動がある為、来期も委員会活動を行うつもりはない。――二人は来年何委員に入るのだろう?

 奇しくも黄泉辻と同じ様な未来に思いを馳せる。きっと二人は来年も同じ委員会に入る事だろう。嫉妬心がないと言えば嘘になるが、それを差し引いても喜びの方が遥かに大きい。


 ――正直な話、来年も三人同じクラスにするくらい、私にとっては造作もない事よ。今年だってそうやって同じクラスにしたんだから。凪原くんと、彼が助けた黄泉辻さん。二人にとっては偶然に映るからしれないけど、そうじゃない。必然よ。


 そんな己の汚さが、彼らと比べると余計に際立つ。それでも、無策で挑んでバラバラのクラスになる事は耐えきれない。高校生活最後の一年、――凪原と過ごす最後の一年なのだから。


 思考に没頭しながら、左手は別の生き物の様にペンを動かす。まほらは深く無意識下に沈み集中していた。広い周辺視を持つ彼女が、他者の接近を気付かぬほどに。


「うわ、うめぇ。なんだこれ」

「まほらさん、すごっ!」


「きゃあっ!?ななっ、何よ急に!?」

 急に二人の声が彼女の世界に入ってきて、まほらは驚きの声を上げる。

 凪原は顎に手を当ててまじまじと絵を見る。

「……ボールペンでこんなの描けるのかよ。すごすぎんだろ」

「別にそう難しいものじゃないわ。見たものを見たまま描いただけだもの」

 照れ隠しにそう言い放つまほら。凪原は少し嬉しそうに絵を指差して言葉を続ける。

「はい、ダウト。見たまま描いてたら、ここにお前はいないから」

 凪原が指を指したのは廊下の隅で椅子に座り、スケッチをしているまほら自身。当たり前の事だが、まほらに彼女自身が見えるはずがない。けれど、そこには正確にまほらがいた。

 二人の絵を描いていたつもりのまほらは驚き目を丸くする。描いたつもりは無かった。でも、無意識に描いてしまった。

 そして、その絵の自身は少し微笑んで見える。


 まほらはボードを大事そうに両手で持ち、凪原を、黄泉辻を見る。

 少し考え、まほらは黄泉辻にボードを差し出し、眉を寄せて困り顔で、恥ずかしそうに呟く。

「この絵もあなたの家に飾ってもらえるかしら?」


 黄泉辻はにっこりと満面の笑顔で、卒業証書授与の様に、ボードをまほらから受け取る。

「もちろんっ、喜んで!」


 こうして、今年度の美化委員はすべての活動を終了した。

「一年間、お疲れ様でしたっ!」

 

 

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