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2年生ももうすぐ終わり

「……凪原、聞いていいかわからないんだけど、もうすぐクラス替えだからあえて聞かせてもらいたいんだが」

 クラスの男子――、牧村が俺の席にやってきて神妙な顔でひそひそとささやく。今は高校二年の二月末。あとひと月ほどで進級・クラス替えとなるわけだから、牧村の言う事自体は間違っていない。

「改まってなに?」

 友人というほど親しくはないが、まがりなりにも一年間同じクラスで過ごしたので、人付き合いに乏しい俺といえど、話しかけられれば会話位はする。

 牧村は周囲をきょろきょろと確認すると、変わらず小声で俺に問いかける。


「お前、バレンタインで黄泉辻さんから本命チョコ貰ってたよな?付き合ってるのか?」

 なんとなく想定問答リストに入っていそうな問いかけに、俺はあきれ顔で手を横に振る。

「俺と黄泉辻が?ないない。牧村も去年の灰島の件知ってるだろ?黄泉辻は俺が助けたと思ってるから、義理堅くお返しをしてくるだけだよ」

 ――と、いうのは半ば嘘。では、あるが、それ以上を伝えるほど仲が良くはないし、そもそも俺が言う事じゃない。俺は言葉を続ける。

「義理を返すんだから本来は義理チョコなんだろうけどさ、義理にもレベルってあるだろ?そんな感じ」

 灰島事件を引き合いに出されてしまうと、牧村としても返す言葉は無い。

「そ、そうか。……とにかく、まぁ付き合ってはいないって事だな」

「そうっすね」

 その返事を聞いて牧村はほっと安心したように見える。彼もガチ恋が製造されてしまったのだろう。罪深い女だ。

「あともう一つ」


 牧村は真面目な顔で机に手を置く。今度の質問も大体想像が付く。

「……和泉さんの事だ。下僕って、何するんだ?エロい事は!?あるのか!?どうなんだ!?」

 牧村は真面目な顔で俺に圧をかけてくる。あと一か月でクラス替えとなれば、恥もかき捨てということか?来年も20%の確率で同じクラスになるのだが。

「エロい事、……ねぇ」

 わざと勿体つけて考えた振りをする。そんなもの当然微塵もない。牧村がゴクリとつばを飲むに合わせてにっこりと笑顔で回答。

「特にないな。たまに靴舐めさせられるくらい」

 もちろんこれも真っ赤なウソ。

「靴をっ……!?」

 だが、これは牧村に刺さる。人間どんな趣味を隠し持っているかわからない。

 

「ねぇ、凪くん」

 そんな話をしている俺たちの前に、黄泉辻が笑顔でひょっこり顔を出す。

「んなっ、……黄泉辻さんっ!」

 女子に聞かれて好感度の上がる話はしていない。牧村はやや裏返った声で黄泉辻の名を呼ぶ。

「凪くん、牧村くんに仲良くしてもらってよかったね~。ヨシヨシ」

「……やめろ、お前は保母さんか」

 頭を撫でようとしてくる黄泉辻の手を払う。

 とっかかりを見つけた牧村は真面目な顔で俺の肩に手を置き、きりっと決めた顔をする。

「黄泉辻さん、こいつの事は俺に任せて下さい。親友なんで」

 黄泉辻は両手で口を覆い、驚きの声を上げる。

「親友っ!?……凪くんに!?」

「違う違う。ただのクラスメイト。残りあと一か月の」


 黄泉辻はどことなく嬉しそうに笑う。

「そっかぁ~。だよねぇ」

「それより、何か用があって話してきた風だったけど、それはもう忘れた感じ?」

 一応水を向けてみると、案の定『思い出した!』と黄泉辻は言葉を続ける。

 「まほらさんが、『そんなに靴が舐めたいなら好きなだけ舐めさせてあげるから、黄泉辻さん犬の糞探して来て』だって」

「いや、それお前への用事じゃん」

「あっ、本当だ!?」


 チラリと視線を送ると、まほらは恨みがましい視線を俺に向けている。あいつは耳がいいから、この程度の距離、問題なく聞こえるみたいだ。脳の処理能力は一体どうなっているのだろう?


 一応聞きたい事は聞けて満足したようで、自称親友の牧村は席に戻っていった。


「そっか、あと一か月でクラス替えなんだね」

 席に戻ってきた黄泉辻が感慨深げに呟く。

「来年も一緒になれるといいね、三人で」


 俺は指折り数えて答える。

「黄泉辻と、まほらと、玖珂で?」

 俺の軽口を受けて、黄泉辻はクスリと笑う。

「凪くん風に言うと、突っ込み待ち?」

「……へいへい、すいませんね」


 そうか、あと一か月でクラス替え。そしてあと一年で卒業なのか。

 元から社交性に乏しい性格なので、友達といえるのは冗談抜きに黄泉辻くらいしかいない。文化祭のあとまつりさんとかと少し話すようになったとは言え、それは変わらない。

 改めて、来年誰も知り合いがいないクラスに放り込まれるのを想像すると、思わず苦笑いが浮かんでしまう。そう考えると、俺の二年間はかなり恵まれていたと思い、そのほとんどは黄泉辻による恩恵なのだと内心感謝する。


「あ、何笑ってるの?」

 黄泉辻が目ざとく俺の表情をのぞき込む。

「気にすんな、ただの苦笑いだよ」

「逆に気になるんですけど」


 いつも通りのそんなやり取り。もうじき、二月も終わる。

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