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主従ラブコメは12月29日に終わる。〜ままごとみたいな主従ごっこは政略結婚に勝てますか?〜  作者: 竜山三郎丸


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期末テストとグループRhine

――学生生活は思いのほか忙しい。

 鴻鵠祭の熱気がまだ身体に残る頃、あっという間に期末考査がやってくる。余韻を楽しむ間もなく、冷や水のように現実が押し寄せる――。だが、テストを終えれば次に待つのは冬休み、そしてクリスマスとお正月。


 テスト前一週間は部活動は原則禁止。まほらと黄泉辻はRhine(ライン)のビデオ通話を使い、会話をしながらテスト勉強を行う。かつて、凪原と行った事を思いだすと、時折直接心臓を握られるような気持ちになるが、それを顔に出すまほらではないし、黄泉辻の明るさと、友人と話しながら勉強をすると言うある種あこがれたシチュエーションが傷の痛みを和らげた。

 けれど、それは決して痛みを忘れた訳ではないし、忘れる訳が無い。

 

「まほらさん、冬休みの予定は?お泊り来れる?」

 ノートから視線を上げずに黄泉辻渚が問うと、和泉まほらも画面を見ずに申し訳なさそうに眉を寄せる。

「年末年始はあいさつ回りがあるから難しいわね。休みに入ってすぐならできるかもね」

「そっか。後で都合のいい日教えてね。クリスマスは?」

 もちろん、まほらの家ではクリスマスパーティをする習慣などないし、友人のいない彼女はそんな事をしたことはない。

「……も、もしかして、ぱーてぃ、とか?」

 ペンを止め、恐る恐る画面の向こうの黄泉辻を見る。

 黄泉辻も画面を見ていた。キラキラした瞳で。勉強を止めて。

「やろっ!」

「やるぅ!」

 まほらも即答。黄泉辻は机の上の教科書や参考書をブルドーザーの様に床に落とし、スマホを持ってベッドに移る。

「場所はどうする?うちでよければ準備するよ。あと参加者は、凪くんと、緋色ちゃんも呼ぶ?」

「いいわね!」

 まほらはスマホを両手で持ってうんうん、と頷き激しく同意を示す。

「じゃあ玖珂――」

「正気を疑うわ」

 まほらの笑顔は一瞬で消えて無表情で冷たく言い放つ。そして、スマホをまたテーブルに置き、左手でペンをくるくると器用に回しながらあきれたように大きなため息をつく。


「ねぇ、黄泉辻さん。前にも言ったかもしれないけど、世の中には言っていい冗談と悪い冗談があるの。今あなたが言ったのは勿論後者。それも最高に質の悪い冗談よ」

 今までの黄泉辻であれば、『ご、ごめん』と引き下がっただろう。だが、鴻鵠祭を経て、まほらに勝ちたいと宣言した黄泉辻は違う。

「……で、でもさ。生徒会のほかの二人が来てるのに、玖珂くんだけ誘わなかったらかわいそうじゃない?生徒会の仲間でしょ?」

 黄泉辻らしい優しく、思いやりに満ちた言葉にまほらもつい嬉しくなり表情が緩む。

「わかったわ。確かに、彼だけ誘わないのもかわいそうかもね。少し待っていて」

 まほらは家の電話の子機を使い、記憶している番号を手入力。――玖珂三月の電話番号だ。


『はい、三月です』

 和泉家の番号からの電話なので、相手は父・秋水の可能性もある。なので、電話の向こうの玖珂の声はいつもよりきちんとした応答に聞こえる。

「こんばんは、三月。私よ」

 予期せぬ電話の主に玖珂の声が明るく弾む。

『まほ!どうしたの、急に。まさか、僕の声が聞きたくなって掛けてきたとか?』

「忙しいから手短に言うわね。来月クリスマスパーティを皆でするんだけど、優しい黄泉辻さんがあなただけ誘わないのはかわいそうだっていうの。だから電話したわけ」

 まさかのクリスマスパーティのお誘い。

「本当に?あはは、黄泉ちゃんには感謝してもしきれないな。場所は?」

「じゃあ、誘ったから義理は果たしたわね?絶対に来ないでね、以上。よい夜を」

「はぁ!?それはいくら――」

 玖珂が話しているにも関わらずまほらは一方的に終話する。


 まほらは画面越しに黄泉辻にニコリと笑いかける。

「誘ったけど来ないみたい」

「情報を減らしすぎじゃない!?」

 驚きの声を上げた黄泉辻の言葉は続く。

「確かに誘ってはいたよ!?でもそのあとはひどくない!?絶対に来ないでねって!そりゃ来ないよ、来れないよ!普通は!」

 

 まほらはニッコリとほほ笑む。

「大丈夫よ、三月は普通じゃないから」

 と、自分で言って真面目な顔であごに手を当てて考える。

「……となると、あの程度の釘の刺し方じゃ甘いわね。もう二、三発しっかりと太い釘を――」

「まほらさん怖い怖い!あっ、ほら見て!このぬいぐるみかわいくない!?ウーパルーパー!」

 黄泉辻のスマホ画面がピンク色のウーパルーパーにジャックされる。

「あっ、かわいいわね、それ!」

 その効果でまほらの怒りもリセットされる。黄泉辻も一安心。ふぅ、と胸をなでおろしはしたものの、このままでいいのか?と胸にモヤモヤが残る。


「……もし、聞かれたくない事だったら、そのまま通話切っていいんだけど」

 ウーパルーパーを大事に抱いて、顔を埋めながら黄泉辻が呟くと、まほらは優しく口元を上げる。

「切らないわよ。何かしら」

 そう言っているが、優しい黄泉辻の質問はおおよそ見当が付く。

「……なんでまほらさんはそんなに玖珂くんを嫌うの?」

 嫌い、と言うと違うかも知れない。冷たい、も違う。かといって、評価をしているのは間違いない。余計なおせっかいかも、野次馬根性かもしれない。けれど、大切な友人の事を少しでも知りたいと思うのは悪いことだろうか?


 まほらは、少し寂しそうな顔で口を開く。

「私が和泉で、彼が玖珂だからよ」

「そっ、……そんなの――」

 ――本人たちにはどうしようもないじゃん。

 言いかけて黄泉辻は言葉を飲み込んだ。きっと、そんな事は、まほらも百も承知だ。それでも彼女は答えてくれた。ごまかしもせずに、友人として。


 黄泉辻はモヤモヤを振り払うように、両手で自分の頬をパチンとたたき、笑顔を作り空気を変える。

「よしっ、その話終わりっ!まほらさん、緋色ちゃんのRhine知らない?三人で通話しようよ!」

 基本友人のいないまほらにはグループ通話の概念は薄い。黄泉辻に言われて、パっと表情が明るくなる。

「知ってる……!どうすれば!?」

「えっとね――」

 黄泉辻からの指南を受けて、まほらは自身と黄泉辻と久留里のグループを作る。

 夢にまで見たグループRhine。初めての相手が凪原ではない事に少しだけしょんぼりしながらもすぐに高揚感がそれを上書きする。


 そして、通話が繋がり、三人の画面にそれぞれが映る。

「ふふっ、こんばんは。久留里副会長」

「こんばんわっす!……仕事じゃ無い時は役職で呼ばないでください。渚センパイよろしくです!」

「こんばんわ~。よろしくね、緋色ちゃん」


 もともとのコンセプトはテスト勉強。黄泉辻は先輩としてその建前を思い出す。

「緋色ちゃんも勉強してた?お邪魔だったらごめんね」

「いえっ、全然っす!お二人と勉強するなんて、すごい頭良くなっちゃうかもですね」

 黄泉辻と久留里のやり取りを聞いてまほらは首をかしげる。そう言えば、彼女のテスト順位を聞いた事はなかったな、と。

 さすがに多学年の順位までは把握していなかったが、仮にも鴻鵠館の生徒会で副会長を務める人間だ。悪いはずは無い。

 

 「ところで、久留里……さんは、期末考査目標は何位くらいを考えているの?」

 直接順位を聞くのは不躾に過ぎるので、まほらは婉曲的に彼女の順位を聞き出すことにした。

「うちっすか?そうっすねぇ、とりあえず100位っすかね!」

 久留里は笑顔でブイサイン。

「バカなのぉ!?」

「まっ、まほらさん!さすがにそれはひどい!」

 どストレートな感想を叫ぶまほらを、画面越しに黄泉辻が制止する。対して久留里は大したダメージも受けておらず笑顔で首を傾げる。


 「ち、違うの、黄泉辻さん。私は久留里さんを馬鹿にしたわけじゃなくて、仮にも副会長を務める人間がその順位だなんて信じられなくて……」

 「まほらさん。気持ちはなんとなくわかる。けど、言っていいことと悪いこと、あるよね?」

 黄泉辻は神妙な顔でまほらを諭すが、まほらの探求は止まらない。まだ順位は不確定だ。

「ちなみに、目標……が100位なのよね?今の順位は?」

「119位っす。救急車っ」

 再びピースサインをして「いえぃっ」とばかりに嬉しそうに久留里は答える。

「ほら、助けを求めてるじゃない!ばかなの!?」


 まほらは頭を押さえて首を横に振る。そして、覚悟を決めて無表情で画面の向こうの久留里を睥睨する。

「わかりました。久留里さん。これから毎日やるわよ。生徒会庶務の名に懸けて、あなたの順位をあげてみせるわ」

 

 ――結果、久留里の期末考査の順位は199人中91位。

 バン、と勢いよく帰宅部部室の扉が開き、息を切らせた久留里は高揚した顔で、瞳を輝かせてテスト結果を両手で掲げ上げた。

「まほらセンパイ!見てください、上がったっすよ!センパイのお陰です!……皆さんと比べたら低いですけど、うち、こんな順位とったの、初めてです」

 照れくさそうにはにかむ、まほらはクスリと笑う。

「ばかね」

「いや、ほんとにな」

「センパイひどいっす」

 

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