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主従ラブコメは12月29日に終わる。〜ままごとみたいな主従ごっこは政略結婚に勝てますか?〜  作者: 竜山三郎丸


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後夜祭、家に帰るまでが部活動

 ピンポンパンポン、とおなじみの軽妙なチャイムの音に続いて、『まもなく後夜祭を開始します。参加希望者は体育館へどうぞ』と放送が流れる。


 夜も遅い時間になる為、後夜祭は授業や行事とは異なり全員参加ではない。だが、この後夜祭の最後には全模擬店の頂点を決める【鳳凰賞】の発表があり、今年はそれに加えて満足度ナンバーワンともいえる【朱雀賞】の発表も控えている。それもあり、強制ではないにも関わらず生徒の参加率は高い。


 広い体育館にたくさんのテーブルが並び、中央には料理が並んで立食パーティの様な様相を呈している。発表までの間、ステージではブラスバンド部や声楽部を中心としたしっとりめのステージが広げられている。


 凪原司と黄泉辻渚は、テーブルの上に溶けたようにぐでっと体を伸ばし、テーブルに頬を載せている。選挙の時と同じ、燃え尽き症候群である。

「ねぇ、凪くん」

「なんだ、黄泉辻」

「前から思ってたんだけどさ。……テーブルって冷たくて気持ちいいぃ」

 まるでデジャブのようなやり取り。

「俺は前から知ってたぜ」

 

 その光景を腕組みをして冷ややかに見下ろす和泉まほら。

「……何言ってるの、あなたたち?」

 凪原はテーブルに伏したまま、まほらをキッと睨む。

「お前もやってみればわかるよ、テーブルの冷たさが」

「そんなに冷たいのが好きなら好きなだけ送ってあげるわ。視線でよければね」

 ゴミでも見るかのような冷ややかな視線を凪原に送り続けている。


「黄泉ちゃん、和泉さ~ん。料理食べないの?ポテトあげよう」

 体育館の一番端のテーブルに陣取っていた凪原たちの元に訪れたのは、A組のクラスメイトでありお化け屋敷の入り口にいたみっちゃん。手に持っていたフライドポテトの皿をテーブルに置く。

 その姿を見て黄泉辻がガバッと机から身を起こす。

「あ!みっちゃん!あのゾンビわざとでしょ!?」

「さぁ?何のこと?お化け屋敷だからゾンビくらいいるでしょ~」

 みっちゃんの言葉に黄泉辻は憤慨してテーブルをバンバンと叩く。

「ゾンビはお化けじゃない!」

 その振動はテーブル越しに凪原の頬に伝わる。

「やめろ、振動が俺に効く」

 みっちゃんはテーブルに頬をつける凪原の顔を覗き込んで笑う。

「凪原くん、まつりから聞いたよ。神社、すごかったんだって?私も行きたかったな~。来年も絶対やってよね」

「……どうですかねぇ。でもさんきゅー」

 凪原らしい返事を受けてみっちゃんは満足げに離れ、他のテーブルに話しかけに行った。


 まほらはチラリと凪原を見る。

「ですって。よかったわね」

「すなぁ」

 朱雀賞の受賞基準は70票以上。凪原たちの凪ノ泉神社を訪れたのは65人。その全員が票を入れたとしても、凪原たち三人が票を加えたとしても70票には届かない。よって、彼らの受賞資格はない。だが、たとえ賞は逃しても、三人で築いた時間が、彼らの胸にしっかりと刻まれていた。


「おー、にゃぎはらー。たそがれてんなぁ。サラダいる?取りすぎちった」

 次いで席にやってきたのは、やはりクラスメイトの渡瀬まつりとその友人の二文字京子だ。

「ニモが言いたいことがあんだって」

 まつりは手で二文字に手で促すと、二文字は照れ臭そうに、言いづらそうに口を開く。

「あっ、あのさ。……票、入れたから。しょぼそうとか思ってゴメン。正直、すっごかった。それだけ」

 凪原はテーブルから顔を上げて笑う。

「ツンデレすっなぁ。さんきゅー」

 まつりもニッと笑い小さくブイサイン。

「あーしも入れたよ。クラスのみんなには内緒だぞ?」

「ありがてぇっす」


 テーブルに置かれたフライドポテトを摘まむと、まほらが視線の先のあるものに気が付く。

「ねぇ、凪原くん」

「……なんすか、まほらさん」

 まほらは視力がいい。その視線の先に、「あるもの」を見つけて目を輝かせた。

「あれ、……どりんくばーじゃない!?」

 その通り。立食パーティなのに、飲み物がないはずがない。

「ちょっと私行ってくる!凪原くん、黄泉辻さん!飲み物は私に任せて」

 そう言って足早に向かおうとすると、まほらを探していた生徒会副会長・久留里緋色に見つかる。

「あっ、和泉センパイいた!何やってんすか、私と会長に全部押し付ける気っすか!?早くこっち来てくださいよ!庶務ですよね!?志願したんでしょ!?表彰式始まるっすよ!」

「えっ!?待って、私が飲み物をもっていかないとあのふたりが……!」

「死にゃしないっす!仕事優先っ」

 後ろ髪をひかれながら、まほらは久留里に手を引かれて舞台の方へと消えていった。


 そして、舞台上の奥に配置された吹奏楽部の生演奏に乗せて、生徒会の三人が壇上に集まる。

 生徒会長・玖珂三月、副会長・久留里緋色、そして庶務・和泉まほら。就任して一か月以上たち、この二人に囲まれながら仕事をしている久留里の異常さに、次第に周囲も気づき始める。


「皆、お疲れ様」

 生徒会演説の時もそうだったが、玖珂の語りの特徴は名乗らない事だろう。それは相手が自分を知っている前提もあるかもしれないが、相手が自分を知らずとも内容だけで聞かせる自信があるのかもしれない。あるいは、ただ億劫なだけかもしれない。

 

「二日間の鴻鵠祭、大きな事件事故が起こらずに無事終えられた事、一重に僕の人望と管理能力の賜物と言う事で、皆僕に感謝しようね、あはは」

 軽妙な軽口に会場からも笑いが漏れる。いつも通り、檀上の玖珂へ黄色い声援が飛び交う。

「さて、お待ちかねの鳳凰賞の発表……、の前に、今年は新たな試みとして、新しい賞……『朱雀賞』を創設したよね、まずはその発表から始めようか」


 玖珂の視線を合図に吹奏楽部が生演奏を始める。演奏曲は、おなじみエルガー行進曲『威風堂々』第一番。

 壇上の配置が代わり、玖珂がプレゼンター、傍らにまほら、司会が久留里へと代わる。

「皆さん、お疲れ様です!副会長の久留里緋色です。僭越ながらここからは私が司会をさせていただきます。……朱雀賞。それは、鳳凰より小さくとも、もっと赤く、熱い賞。たとえ数は少なくとも、多くの人の心を震わせた賞です」

 ゆったりとした行進曲に合わせて久留里の口上は続く。あの日、生徒会室で凪原が言った言葉だ。


「それでは発表します。第三位、1年B組……紅茶と謎解きの部屋『ありすの午後三時』、来場者数211人……得票数176票。満足度83.4%。では、代表の方、壇上にお上がり下さい」

 吹奏楽の盛り上がりと、生徒たちの拍手・歓声が体育館に響く。

「83パーってすげぇよな」

「ね」

 凪原と黄泉辻は拍手をしながら言葉を交わす。満足はしている。後悔はしていない。けれど、改めて他者が表彰されているところを見ると、悔しさが芽生えないはずがない。それは頑張れば、頑張っただけ当たり前の感情だ。


「黄泉辻」

 凪原はまばゆく照らされた壇上を見つめながら呟く。

 壇上では、続けて二位の発表が行われており、壇上では代表者が喜びを全身で表していた。

「何?凪くん」

 ――気を抜くと悔しくて泣いてしまいそうだ。

「来年は、絶対勝とうな」

 黄泉辻も凪原と同じく、泣きそうに壇上を見つめている。

「うん、絶対ね」


 吹奏楽部の演奏する威風堂々も、一位の発表に合わせて盛り上がりを見せる。誰もが聞いた事のある行進曲。

「それでは、記念すべき!第一回朱雀賞!栄えある一位は――」

 久留里の言葉に熱がこもる。


「来場者数65人」

 会場がどよめく。受賞条件は70票のはず、と。

 久留里は興奮を抑えきれない様子でマイクを力強く握る。

 隣に立つまほらは理解していて優しく微笑む。その隣の玖珂も理解している様子で、両手を腰に当てて大きくため息をついて苦笑いだ。

 覚えのある数字に、凪原と黄泉辻は目を丸くして互いに顔を見合わせる。

「――得票数、82票!満足度……驚異の126.2パーセントッ!帰宅部!『凪ノ泉神社』です!それでは帰宅部の皆さん、壇上にどうぞ!皆さん、盛大な拍手でお迎えください!」

 

「嘘……だろ、おい」

 行進曲のメインテーマの流れる中、スポットライトが彼らのいる体育館端のテーブルを照らす。

 思わず足が震えて歩けない。

「行こっ」

 黄泉辻は凪原の手を取り急ぎ壇上に向かう。スポットライトは二人を照らし、壇上に導く。

 二人が壇上に向かっている途中、久留里のマイクパフォーマンスは続く。

「凪ノ泉神社にはたくさんの熱いコメントが寄せられています。「マジで異世界」「狂気のクオリティ」「二度と戻れないあの日」「おかめは黄泉ちゃん」「巫女さん見回りかわよ」「来年もやって」……など、など、など!恐らくは、行けなかった人も、行ったつもりで応援したのでしょうか!?ちなみに私も行きました!」


 壇上に二人が着くと、まほらは玖珂に「君そっち」と促されて受賞者側へ移動する。

 玖珂はトロフィーを持ちながら、心底嫌そうに凪原を見る。

「……君さぁ、折角の僕の圧勝が目立たなくなっちゃうからやめてくれる?やれやれ、一票入れて損したよ」

 玖珂を見る凪原の目からは期せずして涙がボロボロと流れ、玖珂はまた嫌な顔をして、げぇと舌を出す。

「泣くなよ、気味が悪い。ま、いいか。とにかく、おめでと」

 トロフィーを受け取る瞬間、溜めに溜めた吹奏楽部の演奏もクライマックス。誰もが知る行進曲が流れ、万雷の拍手が会場を覆った。


 来場者数を超える投票。本来であればあり得ないそれは、訪れた者の感じた感動や高揚が他者に伝わった結果なのだろう。

 壇上で三人は繋いだ手を高く掲げ、万雷の拍手に応えた。

 拍手が止み、灯りが落ちても、胸に残る熱だけは消えなかった。そう、帰宅部の部活動は――家に帰るまでが本番なのだから。

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