文化祭準備期間⑧ 三人で作ったもの
――文化祭まで残り四日。
教室側から、角を曲がった一番最奥が帰宅部の部室。凪原司の企画図によれば、角を曲がってすぐのところからすでに彼らの模擬店『神社で縁日(仮)』は始まっている。
黄泉辻渚と和泉まほらは廊下の入り口を見上げて口を開け、その後ろで凪原が得意げに腕を組んでいると言う珍しい構図。
「ふふん、どうだ?きっちり寸法測って探してもらったんだ」
廊下には朱く古びた鳥居がきっちりとはめ込まれている。まるで、誰にも気づかれずに、ずっとそこにあったかのように自然に、校舎内の廊下という異質な場所に溶け込んでいた。
公開までは秘密にするため、廊下のカーテンで覆い、その先には立ち入り禁止の看板も設置してある。
「すご。まさか本物持ってくるなんて」
「奇人通り越して狂人よ?あなた」
「ふはは、誉め言葉として受け取っておこう」
凪原も二人の驚く顔が見れてご満悦だ。
「で、配置の説明な?まほらの配置はここ。予約客が来たら挨拶と、簡単な説明をして、帰りはお見送り。その際の小道具なんだけど――」
凪原のリストを見たまほらは驚きの声を上げる。
「巫女さんの服!?」
「そうそう。雰囲気あるだろ?本物だぜ?」
まほらは口元を手で隠して少し動揺と高揚を抑えつつ、仮面を被りなおして黄泉辻に余裕の笑みを見せる。
「黄泉辻さん、ごめんなさいねぇ?私の着る巫女装束、本物みたいで」
「何の対抗心?」
黄泉辻は真顔で首を横にひねる。きっとまほらは言外に『あなたのはコスプレ、私は本物』と言ったのだろう。
「はい、次。俺と黄泉辻は部室内で縁日。俺はテキ屋、黄泉辻は賑やかし」
「賑やかしって何やんの?」
「細かいこと気にせず普段通り楽しんでくれればオッケーだ。俺はテキ屋。所謂屋台のおっさん」
「ふーん、よくわかんないけどわかった」
ニッとピースサインをする黄泉辻をまほらは困惑のまなざしで見つめる。
「よくわかんないけど、わかったの?本当に?」
基本的に理屈で考えて動くまほらには、いまいち理解できない感情的な言語。
「でも、凪原くん。大きな問題が全然解決してないわよ?食べ物はどうするの?食べ物がないと到底お祭りとは言えないわよ?」
凪原は笑みを見せながら企画図の下の方を示す。それは当然想定問答だ。
「食べ物はなぁ。入場チケットにしようと思って」
「ヤギじゃないのよ!?」
まったく理解できないとばかりに宇宙人を見るような目で凪原を見る。
「凪原くん、よく考えて。楽しいお祭りでみんな入場チケット食べてたらどう思う?世紀の奇祭よ?それ」
「うちの縁日は完全予約制で入場無料を予定してるだろ?で、無料の代わりと言ったらなんだけど、一つ入場の条件を付けるんだ。それが――」
黄泉辻は早押しクイズよろしく元気に手を挙げて答える。
「わかった!食べ物を持ってこないと入れないんだ!」
凪原はニヤリと笑う。
「正解。一人一個校内で売ってる食べ物を持っている事が、入場の条件って事。奉納とか捧げものっぽさもあるから、要求としては筋が通るよな?」
まほらはあごに手を当てて、納得したように何度も頷く。
「なるほど」
「あとは、外の露店とかからうまいこと食べ物のにおいが上がってくるように工夫すれば、結構いい感じになると思うぜ。割とぶっつけ本番になりそうだけど、そのへんの計算とか任せていい感じ?」
「勿論、たやすいわ」
飲食店の人気メニューはすでにあらかた埋まっていた。
そのおかげで、来場者は自然といろんな食べ物を手にしてこの神社に足を運ぶことになる。
一方で、瓶や缶などの密閉ドリンクは出店制限対象外だったため、凪原たちでも提供ができる。ビニールプールで冷やしたラムネの提供は問題なし――という算段だ。
「パパからプロジェクションマッピング?プロジェクターみたいなの借りれたよ?これで金魚は映すんだよね?」
「マジで助かる。あと音源とか諸々。自費でレンタルしたらいくらかかんだろうな」
ビニールプールをいくつか用意して、一つはラムネ用。もう一つはスーパーボール掬い、あとはヨーヨー掬い、そして疑似金魚すくい。だんだんまほらもイメージが固まってきて、思わず口元が緩む。
「楽しそうね」
その表情を見て、黄泉辻も満面の笑顔になる。
「ねっ!」
そして残っている難題。
「名前どうすっかな」
部室のテーブルで頭を抱える凪原。まほらと黄泉辻は作業スペースで小道具の作成を行っている。
「みんなで考えようよ。例えば、みんなの名前を合わせて……」
「黄泉な和泉神社とかかしら?」
「あれ?みんなって言わなかった?」
凪原が不満を漏らすと、作業中のまほらは面倒そうに振り返る。
「な、が入っているでしょ?」
――『な』は凪原の『な』。
「それは入ってるうちに入んねぇからな?」
まほらは大きくため息をつく。それは背中越しからでもわかる。
「自己主張が強いのねぇ」
「よえー方だよ!」
「もう、仲良くしようよ――」
黄泉辻はピンとひらめく。
「あっ、なかよし神社は?」
「誰かに思考乗っ取られてんぞ!?」
大声を出し疲れた凪原は気分転換に席を立ち、部屋をクルリと回る。
――考える。あまり凝った名前も恥ずかしい感じがするし、ふざけた名前なんてこれっぽっちもつける気がしない。三人で作った神社。三人の名前をアナグラムに……とかは、まほらの分野だ。凪原の凪、黄泉辻の……。
そこまで考えて凪原は閃く。いつもなら、少し照れくさいかもしれないけれど、窓の外は夕焼けで、なんとなく物悲しくなる雰囲気がためらわずに口に出せた。
「凪ノ泉神社」
音の響きを気に入ったのか、由来が気になるのか、まほらと黄泉辻が振り返る。
凪原は少し高揚した様子で指を三本立てて説明を始める。
「俺たち三人で考えて、準備してきたから、じゃあ三人の名前から、って思ったら気づいたんだよ。『黄泉辻』と、『和泉』って二人とも『泉』が入ってるなって」
「あ」
「確かに」
二人も今まであまり気にしていなかった様子。凪原の言葉は続く。
「それで、俺たちは三人だろ?だから間に一文字『ノ』を入れる、三文字だ。語感もよくなる。凪ノ泉神社!どうだ!?」
黄泉辻はパチパチパチと拍手をする。
「賛成」
二人はまほらの反応を見守る。まほらは何かを思い出すようにやさしく微笑み、呟く。
「いい名前ね」
学校で神社で縁日を行う。神社の名前も決まった。その名前は、『凪ノ泉神社』――。




