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主従ラブコメは12月29日に終わる。〜ままごとみたいな主従ごっこは政略結婚に勝てますか?〜  作者: 竜山三郎丸


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負けてない

 中間考査が終わると、すぐに約一月に渡る文化祭の準備期間に入る。

「黄泉辻、何位?」

 中間考査の結果が返却され、凪原司は黄泉辻渚に問う。

「やだよ、凪くん結構いいじゃん」

 腐っても外部入学生。寝食を惜しんで勉強した一年の結晶だ。対する黄泉辻はあまり自信がない様子。初等部からの繰り上がりなので、悪くはないが特別良くもない。

「で、何位なの?」

「……47位」

 凪原は小さくガッツポーズ。

「よし、勝った21位」

「だからやだって言ったのに」

 高等部二年は194名。なので二人ともかなり順位は良い方と言える。

 ちなみに学年一位は今回も和泉まほらだ。


「へぇ〜、凪原頭いいんだ。意外」

 不意に通りがかったクラスメイトの女子が凪原に話しかけてくる。友人のいない凪原は一瞬自分の事とは思わず返事を出来ずに黄泉辻を見る。

 それがなにかツボにハマったようで、栗色のウェーブがかった髪をシュシュで束ねた長身の女子は「うけんね」と言ってにひっと笑う。馬鹿にしている様子ではない。人は悪意には思いの外敏感だ。そうで無いかは意外にわかる。

「よみー、借りてた漫画返しにきたー。おもしろかったよん」

 そう言ってそのまま黄泉辻の席にぎゅっと無理やり座る。一人分の椅子に二人はちょっと入れない。けど、詰めてギリギリ座る。

「ちょっと、まつりちゃん。狭い」

「それはよみがでぶいからじゃね?凪原も読んだ?これ」

 黄泉辻はニコニコとまつりに前言撤回を要求する。

「え?全然でぶくないんだけど。取り消そ?」

「でもこないだごじゅ……」

「黙ろ?」

 ニコニコしながらも冷たくピシャリと言い放つ黄泉辻。

 

 まつりと呼ばれたクラスメイトはまるで旧知の様に凪原に話しかけてくるが、当然凪原は話したことはない。

「あれ?話したことありましたっけ?」

 凪原が首を傾げると、まつりはまた楽しそうにケラケラと笑う。

「無いから話してんだけど。ウケんね」

「……そういうもん?」

「そうそう。そういうもん」

「同じクラスになって随分経つけど、なんで今?」

 珍しく少し楽しそうに凪原がまつりに問うと、さも当然とばかりに小さくピースサインを作る。

「何でって?あれ聞いたら燃えるっしょ。あーしの理念は『みんなと仲良し』。なかよし教の教祖だから。ぴーす」

 ――理念。その言葉を聞いて、まほらの演説を思い出さないわけがない。

 選挙では負けた。けれど、まほらは確実に人を動かした。そう考えると、柄にもなく凪原の涙腺も熱くなる。

「なるほどね。……つーか、それなら俺に構ってないで和泉さんになかよし教を布教した方がいいんじゃないの?ほら、今日も一人でいるよ」

 凪原が離れた席のまほらを指さすと、目ざといまほらは苛立ちまじりの怪訝な視線を向けてくる。それを見ると、途端にまつりの様子が変わる。

「はわぁ、まほら様今日も素敵すぎ……」

 急に様子が変わり、トロンとした瞳でまほらを見つめる。

「まつりちゃんはまほらさんの大ファンなんだよ」

 この変わりようも慣れっことばかりに黄泉辻はサラリと軽く流す。

「それなら『なかよし教』なんて作ってないで『まほら教』作った方がよかったんじゃね?」


 あきれ顔の凪原を見てまつりはハッと目を見張る。

「凪原……、天才?よし、じゃああーしは今日からなかよし教やめてまほら教に――」

「理念は?」

 タンポポの綿毛よりも軽く飛んでいく理念。


 折よくチャイムがなり、まつりは席に戻る。場所は黄泉辻の列の一番後ろ。

「じゃ、また。凪原、また話そ。まほら様の魅力について語り合お」

「それは御免被るなぁ」

「あはは、何語やねん」


 笑いながらまつりは席へと戻っていく。


 そして、休み時間の喧騒は授業前のざわめきへと移る。

 

「元気な人だなぁ」

「でしょ」

 凪原の感想を聞いてクスクスと黄泉辻は笑う。


「でも、なんか嬉しいな」

「ね」

 まほらが語った理念が人を動かす。もしかしたら、一人だけかもしれない。けれど、それならば負けた事にも意味はあると思えた二人だった。


「ねぇ、凪くん」

 黄泉辻は急に思いついたように凪原を呼ぶ。

「なんすか、ごじゅ――」

「凪くん、うるさい」

 食い気味に、かつ冷ややかなまなざしで凪原の言葉は打ち消される。

「怖。んで、なにか?」

「真面目な話、さ」

 

 黄泉辻は、ゴホンと一度咳払いをして息を整える。

「文化祭さ、何かすっごい事やらない?」

「なんでい、藪から棒に」

 うっとうしいノリで返す凪原に構わず、言葉を続ける黄泉辻。

「まほらさんは負けてない。それはきっと学校の皆はわかってるよ。でも――」

 凪原を見る黄泉辻の瞳は輝きながらも静かに燃える。

「あたしは負けたままだよ。凪くんは……どう思ってる?」

 

 思わず、凪原は身震いする。気が付けば無意識に口元が緩む。

「何かすっごい事って……今時小学生でも言わねーぞ?」

 斜に構えた口ぶりをみせつつも、いつのまにか凪原の口角が上がる。


「でも乗った。リベンジだ。俺たちは負けてないって事、全校生徒に見せつけてやろうぜ」


 

 

 

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