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主従ラブコメは12月29日に終わる。〜ままごとみたいな主従ごっこは政略結婚に勝てますか?〜  作者: 竜山三郎丸


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生徒会選挙編⑦ 民意の行方

――第74回 私立鴻鵠館学園高等部 生徒会選挙結果。

 投票総数全587票

 会長選挙結果

 投票率100パーセント


  玖珂三月  120票



  和泉まほら 115票



  無効票   352票


 有効投票率は40パーセント。だが、選挙規定には『候補者が複数ある時は、最も多い有効票を集めた者を当選とする』と、のみある為今回の無効票の多さは選挙結果には影響を与えない――、と選挙管理委員会の但し書きが加えられていた。


 当選者 玖珂三月――。


 なお、当然のことながらこの無効票数は過去の選挙において最多となる。その内訳は白紙票149、複数の候補者を記載203票となっており、多くの投票者が候補者双方を甲乙つけがたいと迷った民意が見て取れる。それは、どちらの描く未来も見てみたいという民意とも言える。


 だが、現実として生徒会長は一人だ。


 告示された選挙結果を見上げて言葉を発しない和泉まほら。結果を見て玖珂三月は安堵の息をはく。

「5票差って……。もっと離したと思ったんだけどね」


 当然の事ながら5票差と言えども勝ちは勝ち。その価値に代わりはない。


 二人の周囲は多くの生徒たちが遠巻きに見守り事の成り行きを見守る。二人の間には、この選挙にはある約束がある。玖珂が選挙に勝利した場合、彼女の持ち物をなんでも一つ貰えるという約束。玖珂は言った。『例えば、君の――下僕とか?』、と。凪原司が和泉まほらの下僕であることは鴻鵠館の生徒なら半ば周知の事実。

 民衆は、息をのんで事の成り行きを見守る。


 黄泉辻渚はまほらの後ろで人目をはばからず涙を流し、しゃくり声をあげて目を擦っている。たった5票。僅か残り5人が協力してくれていれば、まほらは選挙に勝てたのだ。まほらは凪原を失わずに済んだのだ。なぜあと少し頑張れなかったのか、と黄泉辻は自責の念で涙が止まらない。

「……ごめんなさいぃ、まほらさん。あたしがもっと……」

 まるで悪事のばれた子供の様に黄泉辻はまほらに謝罪の言葉を繰り返す。まほらは優しい瞳を黄泉辻に向けて頭をそっと撫でる。

「ばかね、あなたは何も悪くないわ。寧ろ、黄泉辻さんが頑張ってくれたからここまで競った結果になったんじゃない。本当に感謝しているわ。ありがと」

「まほらさぁん……」


 凪原は頭の後ろで両手を組んで、二人のやり取りを眺めている。賭けの対象にしては落ち着いて見えるが、事この場に及んでじたばたしても始まらない。


「この下僕めにはねぎらいの言葉はないんですかね、和泉サン」

 まほらは一転凪原に冷たい瞳を向けて、短く一言だけ言い放つ。

「あなたのせいよ、グズ」

「落差がひでぇ」

「ふん」

 この期に及んでいつも通りのやり取りに凪原は苦笑し、まほらも凪原にしかわからないくらい小さく口を弛める。


「さて、そろそろいいかい?結果も確定したところだし、約束の履行と行こうか」


 三人のやり取りを眺めていた玖珂が口を開く。約束の履行。まほらはその言葉にきゅっと一度唇を結ぶ。


「わかったわ。でも三月、その前に一つだけいいかしら?」

 まほらは覚悟を決めたまっすぐな瞳で玖珂を見上げ、玖珂は勝者の余裕かポケットに両手を入れたまま薄笑みを浮かべたままコクリと頷く。

「約束やっぱり無し、じゃなければね」


 まほらはあきれ顔で小さくため息をつく。

「莫迦ね。今更そんな事言うはずないじゃない」

「へぇ、じゃあなんだろ」


 まほらは改めて掲示された選挙結果を見上げる。

「私の演説聞いてたって言ったわよね?私言ったのよ、『期待してくれた皆さんを絶対に裏切りません。どうか、全力で私に期待してください』って」


「言ったねぇ。まぁ、期待してくれた人らには残念な結果になったけど」

「まだなってないわ」


 まほらは掲示された壁をバンと手のひらで叩き、玖珂に、取り囲む群衆に聞こえるような大きな声で叫ぶ。

「私に入れてくれた115人!私の名前も書いてくれた203人!合わせて318人のその声を……。そして、……もしかしたら迷ってなにもかけなかったかもしれない人たちの声を!期待を!裏切っていいはずがない!だから三月――」


 まほらは玖珂の胸倉を掴み、まっすぐに彼の眼を見る。

「私を生徒会に入れなさい。庶務でいい。お茶くみでもなんでもやるわ。私は、私に期待してくれたみんなを裏切らない」


 周りの生徒たちから驚きとどよめきの声が上がる。二人が同じ生徒会で仕事をする事になろうとは、この場の誰も予想していなかった事だ。


 あまりにまっすぐな瞳。だが、玖珂は気おされない様にカードを切る。

「それは勿論願ったりだけどさ。でも、それと約束は別だよ?君の持ち物をもらう約束、そろそろ履行してもらおうかな」

 「……えぇ、わかってるわ」

 

 まほらは胸倉をつかんだまま、チラリと後ろの凪原を見る。

「凪原くん、新しい主人の下では粗相しない事ね」

 凪原はまほらと目を合わせ、あきれたように肩をすくめる。

「へいへい、気を付けますよ」

 粗相の単語にピクリと反応して、凪原の隣で目を擦っていた黄泉辻の視線はちらりと凪原を見る。

「なに?」

「べ、べつに……」

 

 覚悟は決まっている。別れを済ませたまほらは挑発的な笑みを浮かべて玖珂に言葉を放つ。願わくば、盤面を覆す会心の一撃を――。


「別れは済ませたわ。あとはご自由に。……支持率20パーセントの生徒会長さん」

 その言葉に玖珂の笑顔がひきつる。それは玖珂も気にしていた泣き所。その変化をまほらは見逃さない。

「総理大臣目指してるんでしょ?気をつけなさい?総裁選なら決選投票よねぇ」

 実質の総理大臣を決める与党総裁選。過半数の得票を得られなければば上位二名の決選投票となる。


 別れは済ませた。言いたいことも言った。理念には背いていない。皆の期待は裏切らない。――私の価値は……、私が証明する。


 まほらは両手を広げて笑顔を見せる。悔しくないはずがない。どれだけ惜しかろうと負けは負けだ。

「どうしたの?ほら、早く」

 もはや、どちらが勝者なのかわからない。玖珂は大きくため息をついて後ろに流した長髪を撫でる。

「それじゃ、遠慮なく貰おうかな」


 玖珂はクスリと悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間、その両手はまほらを覆い、抱きしめる――。

 

「……な」

「君のぬくもりを」


 事態が把握できず、静寂が空間を支配する。そして、それは一気に女子たちの嬌声へと変化する。美男美女で、幼馴染。玖珂がまほらに好意を抱いている事は、もはや周知の事実だ。凪原と黄泉辻も、驚き目を丸くして動けない。


 一度ぎゅっと強く抱きしめると、抵抗される前にぱっと手を放す。顔を真っ赤にして狼狽するまほらと対照的に、玖珂の顔には余裕の笑みが戻っている。


「粗相するバカ犬なんていらないよ。それじゃ、生徒会室には明日から来てね、和泉庶務♪」


「な……なに……、なぁっ?なに、いまの!?」

 まほらは真っ赤な顔のまま声を上げ、悠然と立ち去る玖珂の後ろ姿を眺めていた。


 今日、この選挙に居合わせた生徒たちは、これからもこの日を語り継ぐことだろう――。

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― 新着の感想 ―
玖珂くんの演説時間超過がなかったら、まほらちゃんが勝っていたのかな……。 登場の仕方からドラマチックで、場がもう、玖珂くんのものって感じだったし、持ち時間のこととか誰も気づかなかったんでしょうけど……
2025/07/31 06:13 退会済み
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