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友達の友達と友達


 「本日は生徒会副会長として、委員会活動の業務監査を実施します」


 放課後、校舎裏の掃除を行う予定の美化委員二人に向けて生徒会副会長和泉まほらは高らかに宣言した。ちなみに、2年A組の美化委員は凪原司と黄泉辻渚の2名。去年も2人は同じクラスであり、外部入学の凪原が普通に話せる数少ない人間だ。


「去年そんなのあったっけ?」

 去年も美化委員だった凪原は首を傾げる。別に特段きれい好きと言うわけではないが、新しい環境に身を置くのはあまり得意ではない為、同じ選択肢を選びがちだ。

「広報委員はなかったよ」

 黄泉辻は広報委員だったようだ。

「だよなぁ」

 凪原の言葉にまほらは頬に手を当てながら大きくため息をついて首を横に振る。

「前年を踏襲するだけが活動だと思っているのなら大きな間違いよ?前年の活動に改善する余地があれば挑戦してみるのは生徒会役員のみならず組織としても当然の摂理でしょう。いつまでもPDCA引きずっていると――」

「へいへい、ご自由にどうぞ。女王陛下」

 人差し指をピッと立てて得意げに語るのを遮られ、まほらは眉を寄せて口を尖らせる。

「そんなのいわれなくてもご自由にやるわよ」


「じゃあ凪くんそっち側お願い。あたしこっちやるから」

「りょー」

 互いに竹ぼうきを手に掃き掃除を始める。5月と言えども枯葉はゼロではないし、故意かはわからないがパンの袋などのごみもいくらか落ちている。監査役がいる為もあるのか、凪原も黄泉辻もこの年代の生徒にしては真面目に清掃活動に従事している。

 外見上の特徴に乏しい凪原とは対照的に、ドイツ人の祖母を持つ黄泉辻は、長めの金髪を二つ結びのおさげにして、少したれ目気味の碧眼とかなり目立つ容姿をしている。そして胸は目を引くくらいには大きい。美化委員の活動の他、茶道部に所属している。


 二人が清掃作業を行っている間、まほらはどこからか持ち出した椅子に座り、いつも通り足を組みボードに何かを書いている。


「何書いてんの?」

「ん?さっき言ったでしょ?あなたたちの業務監査よ」

「見ていい?」

「駄目よ。無駄口はいいから口より手を動かして。ほら、行ってよし」

 そう言い放ち、犬を追いやるかのようにシッシっと凪原を追い払う。


「あなたたちはいつも二人一組で掃除してるの?」

 まほらの問いかけに凪原は無言で箒を動かす。

「ねぇ。聞こえてるんでしょ?」

「いえ、口より手を動かせと言われたんで」

「そんなの手を倍動かせば済む話でしょ!?いいから答えて。いつも二人一組で掃除しているの?」

 暴君再び。だが、凪原にとってはいつもの事。

「まぁ、そうだな。相互監視の意味合いもあるのか一人で作業ってのはあんまりないなぁ」

 それを聞くとまほらはむっと眉を寄せ、くるくると勢いよくペンを回した後ペンをボードに走らせる。

「なるほど。再考の余地ありね」

「うわ、何やら非常に余計な事をしそうな予感」

 

「凪くん、こっち終わったよー。そっち手伝おっか」

「早っ」

「どう?和泉さん。満点!?」

 黄泉辻は犬のように駆け寄ってくるとニコニコと笑顔でまほらに問いかける。

「生憎採点方式じゃないの」

 無表情に首を横に振るまほらを見て黄泉辻は箒にもたれかかりガックリと肩を落とす。

「そっかぁ~。折角満点目指して頑張ったのに~」

 明らかにしょんぼりして箒の幅も小さくなる。

「あ~あ」

 少し意地悪く、ニヤニヤしながら凪原が煽ると、まほらは困り顔で立ち上がり、黄泉辻に弁明を始める。

「あのね、黄泉辻さん。さっきも言ったけど、今回は業務の改善ポイントを洗い出すのが目的なの。ただ、個人的に点数をつけると言うのなら……」


 箒にもたれて立っている黄泉辻はチラリと横目でまほらの表情を伺う。

「……言うのなら?」


 まほらは照れ隠しにジッと黄泉辻を睨みながら呟く。

「百点よ」

 それを聞いて黄泉辻の表情は見るまにぱぁっと明るくなる。

「本当!?やったぁ」


「陛下、俺は?」

 自分を指さしながらへらへらと凪原が問うと、まほらは大きくため息をついて椅子に座る。

「点がつくと思ってるの?図々しい」

「温度差で風邪ひきそうだ」


 ほどなくしてごみ袋三つ分の成果とともに校舎裏の掃除は終わる。

「ふー、案外溜まったな」

「お疲れさまでした~」

 黄泉辻は嬉しそうにパチパチと拍手をする。

「ちょっと待て、黄泉辻。まだ終わってないぞ。ゴミを捨てるまでが清掃当番だ」

 凪原の指摘に黄泉辻は『しまった』とばかりに口を手で覆う。

「とっとと捨てて終わりにしようぜ。丁度一人一個だ」

 凪原はひょいとゴミ袋を一つ持つ。

「丁度?それはおかしいわね?」

 半ば言いたいことはわかっているが、凪原はまほらに白い眼を向けつつと言いかける。

「……何がおかしいんすかね、和泉さん」

 まほらは右頬に手を当てながら、わざとらしく首を傾げつつ袋を指さし数える。

「えぇ、見たところゴミ袋は三つ。一人一袋と言うことは、……一袋余るのだけど。小学生レベルの問題よね?」

「あっ、じゃああたしが――」

 黄泉辻がごみ袋に手を伸ばそうとすると、凪原はひょいと袋を両手に持つ。枯葉や乾燥ごみが中心なので、見た目ほどの重さはない。

「おっと、そうはいかない。俺持つよ」

「んー、じゃあお願いしよっかな!ありがと」

「まぁ、こないだのジュースのお礼って事で」


 二人でごみ袋を持ち、並んでゴミ捨て場に向かう。ポカンと口を開けながらその後ろ姿を見つめるまほら。

 少しして凪原が振り返る。

「ゴミ持ってくれたら椅子もってやるけど?」

 思いがけない提案に思わず笑顔が漏れてしまう。

「もうっ!誰に向かって口をきいているのよ!」

 そのやり取りをみて黄泉辻もくすくすと笑う。


◇◇◇

 帰り道は三人一緒の形となる。

「和泉さんとは同じクラスになるの二度目だね~」

 まほらも黄泉辻も初等部からの鴻鵠館生。クラスは各学年5クラス。合計11年で2回目と言うと多くも少なくも無く、妥当な範疇といえる。

「そうね。小学三年だったかしら」

「そうそう。あの時はあんまり話せなかったけど、仲良くなれて嬉しいな」


 笑顔の黄泉辻の言葉にまほらは首を傾げる。

「仲……良く?」

「あれぇ!?あたしの勘違い!?」


 二人の三歩後ろを歩いていた凪原が思わず割って入る。

「ちょいちょい、和泉さん。それはちょっとひどいんじゃないっすかね」

 凪原の苦言を受けて、まほらは不満げに口をとがらせて振り返る。

「だってわからないのよ。あまり経験がないから。友達なんて、今まで凪原くんくらいしか――」

 途中まで言ってから言葉を止めたかと思うと、黄泉辻を見てニコリと微笑む。

「奴隷なんて今まで凪原くんくらいしかいなかったから」

「俺も奴隷じゃねぇけどな」

「あら、失礼。下僕だったわね」


 まほらは嬉しそうにクスクス笑う。


「まほらさん、って呼んでもいい?」

「構わないわ」

「嬉しい、と仰っています」

 まほらはジッと眉を寄せて凪原を睨む。

「勝手な通訳しないで。生意気よ」

 

 黄泉辻はニコニコと嬉しそうにまほらを眺めていて、それを見てまほらは怪訝な顔をする。

「なにか?」

「ん?凪くんの事友達って言ったなぁって思って」

「……言ってないわよ?」


 黄泉辻はクスクスと笑う。

「そっかぁ」

 

 まほらは弁明を諦めて凪原のカバンを引く。

「凪原くん、あなたの友人どうにかしなさい。全然話が通じないわ」

「やだよ、お前の友達だろ」

「え!?二人とも友達だよね!?」


 その言葉に、二人は思わず目を見合わせた。気づけば、初めての共通の友人。口元が少しだけゆるんでいた。

 

 

 

 

 

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