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帰宅部活動開始

「帰宅部!創部記念パーティー!イェーイ!」

 北棟四階奥にある帰宅部の部室。黄泉辻渚は元気に声をあげ、拍手をして盛り上がる。

 だが、同じテーブルを囲む残り二人の部員のうち一人は頰杖をつき、もう一人は気のない表情でパチパチと拍手をする。およそパーティーらしからぬ空気。

 

「暗くなぁい!?」

 黄泉辻が驚きの声を上げると、まほらは天井を見上げる。

「そう?やっぱりLEDに変えないとダメかしらね」

「違くて!折角のパーティーだよ!?もっと盛り上がって行こうよ!」

 凪原はやれやれとため息をつきながら呆れ顔で首を横に振る。

「黄泉辻、俺の様な陰の者がそんな事すると思うのか?」

「や、それは……」

 黄泉辻が口籠ると、機を得たりとばかりにまほらが口を開く。

「凪原くん」

 この呼び声には嫌な予感しかしない事を凪原はよく知っている。

「……なんでございましょう」

「暗いって。盛り上げなさい」

「無茶振りが過ぎる」

 凪原が苦言を呈すると、まほらは怪訝な顔で首を傾げる。

「あら?凪原くんは?この私の?何でしたっけねぇ?」

「……この野郎」


 仕切り直し。

「帰宅部!」

「創部パーティー!」

「ウェーイ!」

 満面の笑顔の黄泉辻と、引きつり笑いの凪原は声を合わせ、両手を上げてからハイタッチをする。

 まほらはご満悦の様子でパチパチと拍手をする。

「ふふふ、こんなに元気な凪原くん初めて見たわ。どうぞ続けて」

「何様ですか?」

「ご主人様よ」


 テーブルの上には黄泉辻持参のお菓子や飲み物が所狭しと並べられている。

「さぁさぁ、みんな!召し上がれっ」

「あざーす。……ちなみに会費は?」

「もちろんあたしの奢りだよ!」

 それを聞いた凪原は右手を天に突き上げて歓声を上げる。

「イェーイ!黄泉辻様サイコー!」

「私は?」

「え、お前何もしてないじゃん」

 まほらはプレッツェルを一本手に取りながら不服そうに凪原にジト目を向ける。

「最高?」

「はいはい、最高最高」

「最高は一回よ」

「そのルールがよくわかんないんだよなぁ」


「はい、まほらさん。おひとつどーぞっ」

 黄泉辻は嬉しそうにまほらにクッキーを差し出す。流石に何度目かのやりとりなので、まほらも抵抗なく口を開ける。そしてパクリと口を閉じると、期せずしてまほらの唇が黄泉辻の指に触れてしまう。

「はぅっ」

 指先に感じた柔らかな感触に頬を赤らめ、指を引き動きを止める黄泉辻。

 まほらは一拍おいて、彼女にジト目を向ける。

「……ちょっと。変な声出すのはやめて」

「だって……、その、ねぇ?……あはは」


 その光景を微笑ましく見守りながら凪原はげっ歯類のようにチョコプレッツェルを縦半分に割って食べている。


「つーか、黄泉辻って茶道部だよな?帰宅部入って平気なのか?」

「うん、兼部だよ。あっちは週二だから全然平気」

 茶道部であり帰宅部。

「結構なお手前で。って本当にやるの?」

 茶碗を回す振りをしてから凪原がエア茶碗を黄泉辻に渡すと、黄泉辻はエア茶碗をきちんと受け取り作法をとる。

「うん。今度着物着てきてあげよっか?」

「マジで。なんかいいよな、あの非日常感っていうかさ。是非頼む」

 ヘラヘラと笑う凪原をむっとした目で見つつまほらが口を尖らせる。

「私だってできるもん」

 つい口調が子供っぽくなってしまう。事実、幼少時から様々な習い事をこなしてきたまほらは茶道も華道も舞踊も香道も心得がある。

実家が神社な事と関係があるのか、実は隠れ和服好きな凪原はそこに食いつく。

「お、さすが。じゃあ和服?着物?持ってる?」

 予想外に食いつかれてまほらもまんざらではない様子。腕を組んでプイっとそっぽを向く。

「さすがってなによ。さすがって。ば、馬鹿にしてるの?昔浴衣だって着てたでしょ?浴衣も着物も袴も持ってるわよ」

「じゃあ今度一緒に写真撮ろうよ!ねっ?」

「……断る理由は特段見当たらないわね」

「いいってさ」

「やったぁ!」


 閑話休題。帰宅部の部室でのパーティもひと段落。下校時刻も近づいてきたので、ごみを片付けて部室を閉める。

「初めての部活動ね」

 校門の辺りでまほらは珍しくクスリと笑い呟く。言われて見れば納得。野球部は野球をする部活。サッカー部はサッカーをする部活。となれば、帰宅部は帰宅をする部活。ここから初めて帰宅部の活動が始まるのだ。

  

「黄泉辻はバスだっけ?」

「うん。凪くんたちは歩きだよね」

「じゃあ、ジャンケンで順番決めようぜ。最後に負けたやつが全員分帰宅を見送る、と」

「いい――」

「いやよ」

 黄泉辻の賛同をまほらの冷たい声がかき消す。

「それだと私が最後になるかもしれないじゃない。一人で帰るのは嫌。だから嫌」

 暴君登場。少しの沈黙の後、凪原はあきれ顔で手を挙げる。

「えーっと、じゃあ多数決で――」

「い・や。あなたもしかして多数決が最高のシステムとでも思っているの?大衆の大半は愚かなのよ?そこで多数決を取ったって正しい結果になるわけないじゃない」

「大衆の大半?」

 凪原は自分と黄泉辻を交互に指さす。

「とにかく。私が最後になるのは嫌。黄泉辻さんが最後になるのも嫌。わかった?」

「……つまり、俺が最後って事っすね」

 まほらは満足げにニコリと笑う。

「そ。理解が早いわね、じゃあ黄泉辻さん。ジャンケンよ」

「よーし!負けないよ、まほらさん!あっ、でもまほらさんのおうちも見てみたいかも……」

 まほらは不敵にほほ笑む。

「あら?もう勝った気でいるの?私こう見えて意外と負けず嫌いなの。たかがじゃんけんと雖も負ける気はないわ」

「こう見えても何も見るからに負けず嫌いだろ」

「つべこべうるさい」


「……すいませんね。じゃあ不肖ワタクシが審判を務めさせていただきます。両者フェアプレーを心掛けるように」

「ほいっ」

 凪原がしゃべっている間にまほらと黄泉辻のじゃんけんは行われる。

「あっ、こらまだ!」

「やった、勝ったぁ!……って、じゃああたしまほらさんの家いけないじゃん!」


 黄泉辻の喜びからの感情の落差。対するまほらも負けて悔しそうな表情をしたのは一瞬。すぐに黄泉辻に対して勝ち誇った得意げな笑みを見せて髪をなびかせる。

「試合に負けて勝負に勝った、というやつね」

「なんて見事な負け惜しみ」



 

 

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