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きっと会える

 佐紀音、両親、ケンジ、リオンが同じ鍋を囲っての夕食会が急遽、開催された。5人が囲うには、少し手狭なテーブルには、佐紀音が「食べたい」とリクエストしたすき焼きと、行きつけの総菜屋さんの唐揚げが並んだ。


「俊也のことなんだけど……」


 リオンと入浴したことで、気分が落ち着いた佐紀音は、この状況に至った経緯を語った。


 佐紀音以外の人たちは、すき焼きを味わって食べて、彼女の話に耳を傾けた。


「信じてくれないかもしれないけど……俊也は、鏡の中から出てきた、もう一人の【私】なの。俊也の本名は、私と同じ、【赤首ツバキ】」


 唐揚げを摘まんだ箸を置いて、勇気を振り絞り、告白した佐紀音。周囲のみんなが静聴してくれたので、説明もしやすかった。



 去年の12月のはじめに、鏡を見たら、彼がいて、鏡を通れるようになっていて、彼が鏡を越えて、部屋の掃除を手伝ってくれて、配信活動にも参加していたこと。そして、先日、鏡が割れて、彼との一切の交流を断たれたこと……すべてを包み隠さず、真実を丁寧に告白した。


 【俊也】の姿を見たことがなく、また、ツバキという一人の娘が、一人っ子であることを知っている母は、父にこう耳打ちした。



「精神科……相談してみる?」

「うーん……とりあえず、ツバキの話を最後まで、聞いてあげよう」


 父は、そう耳打ちを返した。


「鏡が通り抜けられるようになった……不思議なことがあるものですね……」


 一方、俊也と実際に会って、草津の旅行まで行ったケンジは、佐紀音の突拍子もない 説明を、彼女の精神の不安定からくる妄想の類であると断言することができなかった。


「佐紀音さん……それは、本当ですか?」


 ケンジが、唐揚げを頬張った彼女に訊いた。


 唐揚げをよく噛んで、飲み込んだ彼女は、真剣な眼差しをケンジに向けた。


「ほんと」

「……」


 あの目は、嘘をついていない。本当なんだと、ケンジは思った。


「あ、鏡なら、昨日、新しいものに交換してもらいました」


 父が、卵のよく染みた牛肉を口にして、そう言った。


「え、お父さん!それ、ほんと!?」

「そうだけど……?」


 佐紀音は、箸を豪快に投げて置いて、洗面所へと向かった。「ツバキ!?」と、彼女の背中を追って父と、それから母、ケンジ、リオンと続いた。


 鏡の前に立った佐紀音。


 皆が、手狭な洗面所に集結すると、その異変にすぐに気が付いた。



「鏡に、ウチらの姿が映ってない……!」

「うぇ!?なんじゃこれ!?」

「……なるほど。この中から、俊也さんが出てきたんですね」


 鏡には、佐紀音、リオン、父母とケンジの姿が反射して映っていなかった。


「それに、光ってますね」

「お、おかしいわ……今朝、お化粧をするときは、何もおかしくなかったのに……」

「もしかして……」


 佐紀音が、鏡に手を伸ばした。


――佐紀音の傷のある左腕は、鏡を通り抜けた。


「やっぱり!!」

「ええええ!?」

「なんだ、これ……!?」

「……これが、佐紀音さんの言う、鏡の異変ですか」


 佐紀音は、鏡の効果が戻ってきたことが嬉しかったと同時に、「彼」に会いたくなって、そのまま、洗面台の淵に足を掛けて、身体全体で、鏡を乗り越えた。


「ちょっと、ツバキ!?」

「戻ってこられるのか!?」

「大丈夫。鏡が割れない限りは、戻れるし、きっと、会える……!!」


 父と母は、鏡を抜けて【あちらの世界】の洗面所を飛び出して行った娘を追って、鏡を越えた。


「俊也ぁぁぁぁ!!!」


 佐紀音が、寂しく求めていた彼の名前を叫ぶ声が、鏡越しでも反響して聞こえてきた。



 残っているのは、リオンと、ケンジのみだった。


「け、ケンジおじさんは、どうするの?行くの?」

「……若い芽は摘ませません。佐紀音さんと俊也さんの二人を、わたしは全力で手助けする次第です」


 そう言い残して、ケンジは、歳不相応の軽快な足取りで、鏡を越えた。


「……変なの」


 最後に、リオンも、鏡を越えた。

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